《悪魔の証明 R2》第89話 058 ミリア・リットナー(2)

前々回の『トゥルーマンの泉』で、レイに完なきまでに叩きのめされた男エヴラ。その男がこんなところで何を――

私の思考は、エヴラがナイフを振りかぶったところで停止した。

問答無用でナイフの切っ先が、自分のへと飛んできたからだ。

――當たる寸前のところでナイフの一撃をかわした。

そして、すかさずエヴラの腹に膝蹴りを食らわせる。うめき聲をあげて、エヴラはアスファルトにひれ伏した。

クレアスにチームスカッドの護を習っておいて正解だった。

と、で下ろしたのも束の間だった。

今度は、買い袋を下げた中年が、こちらは包丁で私のめがけ突きを浴びせてきた。咄嗟に、中年の腕に手刀で一撃を加える。

コロン、と音を立てて包丁は地面に転がった。

いったい、何なのこいつら。一言も発さずいきなり襲いかかってくるとは、とても正気とは思えない。

そう訝りながらも、を下によろめかせた中年の顔を足で思いっきり蹴り上げた。

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これでようやく一息つけるかと思ったが、後ろからも足音が聞こえてくる。

すぐにそちらの方へと振り返った。

視界にナイフでレイを斬りつけようとする若い男がる。

しまった、先生――

とてもではないが、運神経の鈍いレイがこの狀況を個人で対処できるはずもない。そして、助けようにもこの位置からではふたりの間に介することは不可能だ。

「先生、危ない」

私の大聲が、道路に響き渡った。

その心配は杞憂に終わり、當たる寸前のところで、レイは腰からを反り返らせその一撃をかわした。

やるじゃん、先生。

避ける最中のレイの余裕ぶった表を見た私は、心の中で彼を褒めた。

だが、レイのはそのまま後ろへと倒れていく。

「なんだ、ただ転んだだけか」

もとらず地面に腰から倒れ込んだレイの様に、薄い想をらした。

もちろん、聞こえないように。

一時攻撃がやんで、若干の余裕ができた。

ぐるりと周囲を観察する。

エヴラはすでに立ち上がっていた。中年は拾い上げた包丁を手にしている。それと、さっきの若い男。さらに後ろにふたり。

先生と私二人対五人。先生は人數にカウントして良いものかも不明。そして、私ができるのは付け焼き刃に近い私設警察チームスカッド

これはいよいよやばいわね。

私がをごくりと鳴らしたその時だった。

「ミリア、俺を人數にれ忘れてるんじゃないだろうな」

真後ろから、格好をつけた臺詞が聞こえてきた。

この聲は……

「クレアス!」

嬉々としながら、私はんだ。

振り返ると、そこに彼はいた。そう、危なくなると必ずそこにはクレアス・スタンフィールド、頼れる男。

クレアスは小さく頷くと、すかさず私とレイへ、彼の背後――そのし先にある家の壁付近に行くよう指示を送ってきた。

まだ地面に寢そべっていたレイの腕を引っ張り上げる。そのまま彼を引き起こし、クレアスに指示された通り壁へとふたりで走った。

到著するなり、再びクレアスへと視線を送る。

私たちに通じる敵の進行方向を遮斷したクレアスは、「こいよ」と、敵を挑発した。そのいに乗って、飛びかかってきた中年の顔を躊躇なく毆りつける。

返す刀で若い男に回し蹴り。ふたりのは、一旦空中に浮かび上がってから、地面へと叩きつけられた。

次の瞬間、エヴラの手を蹴り上げて、ナイフを明後日の方向に吹き飛ばす。

すかさず右ストレート。左ストレート。さらにアッパーカットを顎に食らわせる。エヴラは、一度クレアスの肩に手を置いたが、すぐに力盡きてアスファルトの地面に倒れ込んだ。

最後に、殘ったふたりがクレアスに攻撃を加えてきた。

地面で気を失っているエヴラの時にも思ったが、他の者の様子を見ても何かがおかしかった。

クレアスと彼らの実力差は明らか。なのにもかかわらず、そのまま向かってくる。恐怖心というものが彼らの表からはうかがえない。

何かに取り憑かれたかのようにクレアスを攻撃しようとしている。自分が怪我をすることなど、まったく気に留める様子もない。

まるで壊れかけの機械のようだ。

彼らの生気がじられない目を見て、私はそう訝った。

そんな私の思に関係なく、クレアスは彼らの攻撃を軽くあしらう。

次の瞬間には、ふたりに當たりをお見舞いする。後頭部を激しく地面に打ちつけたそのふたりは、口から泡を吹き出して二度と起き上がることはなかった。

敵がかなくなったのを見計らって、クレアスが私の方へとを向ける。

「ミリア、大丈夫だったかい?」

と、訊いてきた。

この彼の問いかけに、うん、と頷く私。一目散にクレアスのへと飛び込み、クレアスのたくましい首元へと腕をはべらせた。彼の顔をそのままじっと見つめる。

「あ、いや……その、何だ」

クレアスはしどろもどろになってそう聲をらす。

束の間の後、し照れた表をして、私の腰に手を回してきた。

「ありがとう、クレアス」

クレアスの手が自分のれたと同時に、私は謝の言葉を述べた。

そうして、私のがクレアスのへと向かおうとした時だった。

肩を叩かれる。

その後、「ミリア」と、レイの薄い聲が背後から聞こえてきた。

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