《悪魔の証明 R2》第90話 062 セオドア・ワシントン(1)

十一月十四日――私は朝から不機嫌だった。

國立帝都大學超常現象懐疑論研究所第六研究室とトゥルーマン教団の一戦が行われるため、私とミハイルは公用車に乗り込み國立アキハバラステートセンターに向かっている。

そのこと自は何も問題はない。むしろこれによりトゥルーマン教団が壊滅するきっかけができる可能もあり、私としてはかなり期待している。

だが、問題は、私の陣取る後部座席の前、助手席に座っているミハイルが未だ何も私に報を與えようとしないことだ。

「ミハイル、本當に、大丈夫なんだろうね」

と、鼻息をし荒くしながら私は訊いた。

「大統領、私めにお任せください」

すぐに明るい聲が返ってきた。

フロントミラー越しにミハイルの顔をうかがってみる。なぜか、目がきらきらと輝いていた。

こういう時の、こいつのお任せくださいはもっとも信用がならない。

ミハイルを見つめながら、私は大きくため息をついた。

「わかっているとは思うが、もし本日レイ・トウジョウがトゥルーマンの超能力を否定できないとなると、ますますトゥルーマン教団の影響力が増してしまうぞ」

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と、首を橫に振りながら述べる。

「大統領、大丈夫です。レイが負けることなどありえません」

「本當に大丈夫なんだろうね。ここで失敗してしまうと、彼らはラインハルト社のように我々の手には負えなくなる――いや、もう隨分前から手に負えないがね」

「レイは私より若干ではありますが……あえて、もう一度言いましょう、若干、ですが、優秀な人間です。だから、私は確信を持って申し上げます――レイは必ずトゥルーマンに勝ちます」

そう言って、ミハイルはにこりと笑う。

またフロントミラー越しにその顔を視界にれた私は、なんて薄い確信なんだと呆れ果てた。

ミハイルの言いは無視するとして、レイ・トウジョウは確かに期待できる人だ。彼が主催するサイキック・チャレンジはかねてから私もチェックしており、その手際の良さは服するところが多い。

だが、相手はあのトゥルーマン教団だ。

私はその教祖ビヨンド・ザ・トゥルーマンを學生時代から知っており、幾度となく話したこともある。

彼はランメルと行を共にしていることが多く、不気味であることこの上なかった。昔からランメルを裏でサポートをしていて、時には汚れ仕事のようなことも請け負っていた。

そのことから、彼や彼の教団の危険は十分承知しているつもりだ。

トゥルーマンはランメルと同じく、いや、ある方面においてはランメルを凌ぐほど危険な男だ。

「ミハイル。知っての通り、トゥルーマンは教団から國會議員を何名も送り込んでいる」

助手席の背もたれへと顔をやり、そう語りかけた。

「ええ、その國會議員たちは裏で暗躍していますからね」

前を向いたまま、ミハイルは言う。

「選挙戦では私が所屬する黨も協力を仰いでおり、トゥルーマン教団の組織票により大幅なアドバンテージができる。大きな企業単位でもトゥルーマン教団の影響力が大きく、その集票力を期待している政治家も多い」

ありのままの現狀を伝えた。

この臺詞の意図するところは、ミハイルもわかっているはずだ。

「確かに。ですが、大統領もおわかりの通り、それはただの票田やお金がしいというだけで、誰もトゥルーマン教団の教義を信しているわけではありません」

私の方へと顔を向け、ミハイルはそう言葉を返してきた。

「ああ、その通りだ。我々は政治家だからな。信頼を失墜させて集票力を低下させれば、トゥルーマン教団から一斉に離れていくだろう。だが、現在の政界において、トゥルーマン教団の力は大きい。政治家たちを反心させる決定的な何かがいる。だから、曖昧ではなく、確実な勝利が求められるぞ」

語気を強めて言った。

中途半端に超能力を否定したくらいでは厳しい。トゥルーマンの誤魔化しに乗る國會議員も大勢いるはずだ。

「ええ、もちろん。大勝利確実ですよ」

ミハイルは快活な聲で、言葉を返してくる。

不安しかない。

本當に大丈夫なのかと再確認しようとしたが、また首を橫に振った。

こいつから返ってくる臺詞なんて容易に想像できる。

目を前に戻した。

公用車はいつの間にか広々としたアスファルトの空間にっていた。場所はもちろん目的地である國立アキハバラステートセンターの駐車場だ。

エンジンを響かせながら、車はそのまま奧へと進み、収容人數千人の建の前でゆっくりと停車した。

地上に降り立った運転手が、車の先頭から回り込んできて後部座席のドアを開ける。私は禮もせず足を外へと踏み出した。

続けて、歩き始めようとすると、私の周囲をたちまち黒服を著たSPたちがを取り囲んだ。

さらに、急ぎ足でミハイルも駆け寄ってきた。

「大統領、こちらです」

そう言って、彼は私たちを先導していった。

――いや、先導というのには、あまりに歩くスピードが速過ぎるのでその表現は正しくないかもしれない。

私にとっては、もはや競歩といったじの速度だった。

ミハイルは私を待つ様子を見せないので、仕方なくSPたちを引き連れ走るように彼の背中を追いかけた。

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