《悪魔の証明 R2》第93話 059 シロウ・ハイバラ(2)

次にこちらへと振り返った直後、

「スピキオは瞬間移を使える」

と、意味不明な宣言をする。

「え、瞬間移……?」

ミリアはそう挙不審な聲をあげると、すぐに首を捻る素振りを見せた。

かくいう俺も、なからずこの発言には驚いた。

ジョン・スミスの態度に特に変化はないが、殘りのジゼルも同様の反応をする。

だが、

「と先日、アリスが私とミハイルに言っていたの」

レイはすぐ補足をれる。

すると、研究室に起こっていたざわめきは、一呼吸の間もなく安堵の聲へと変わった。

いや、先にそれを言ってくれ。

聲には出さず、中でそう文句をつけた。

「この話を聞いた時、私はこう直したわ」レイは俺のそんな思に構わず、話を続ける「アリスの言った瞬間移とは、スピキオが家を出てすぐにアリスがテレビをつけると、その畫面に先ほど家を出たばかりの彼が映っていたということでないのか、とね」

「先生。それは、さっきまで家にいたスピキオがテレビ出演していたからアリスは瞬間移と勘違いしたということなの?」

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ミリアが確認するかのように尋ねた。

「ええ、ミリア。そうよ。事実、後程アリスにそれを確認してみたら、その通りだった。無論アリスは子供とはいえ、ミハイルのように頭は悪くないから、家を出たはずのスピキオがその直後にテレビの生放送で話していたのを観て、瞬間移を使えると思ったのよ。以上から、考えると――」

レイは途中で言葉を切ったかと思うと、ポケットから寫真を數枚取り出した。

俺たちに近づき、それをおもむろに配り始める。

この寫真を見せて、どういうつもりなのか。

俺は首を捻りながら、寫真を手に取った。

その寫真には、三十臺と思しき頬がこけた男の姿があった。だが、その男の顔にはまったく心當たりはない。

研究室が困した雰囲気に包まれる中、レイは先ほどまでいた位置へと戻る。

こちらに振り向いたかと思うと、

「面倒だから単刀直に言うわ。スピキオはふたりいる」

と、またも摑みどころのないことを言い放った。

レイの臺詞の真意がわからない。

スピキオがふたりいる? まさか本當にふたりスピキオがいるとでも言いたいのだろうか。

周りに目を配って表をうかがったが、ふたりはぽかんとして口を空けていた。

一方のジョン・スミスは常にポカーフェースを決め込んでいるから、心のを外から察することはできない。

だが、その彼にしても混しているに違いないだろう。

寫真を配り終え、再び晶テレビの前に戻ったレイは言う。

「その頬がこけた男が、スピキオ・カルタゴス・バルカよ。三十三歳。普段はドレッドのウイッグと仮面を被っているわ」

その場に一瞬言葉を失ったような空気が流れた。

束の間の後、

「……スピキオ?」

と図らずも挙不審な聲をあげてしまった。

「スピキオがこの男の人?」

寫真に目を移しながら、ジゼルも自問するかのように訊く。

「先生。それって、つまり――私たちがいつもサイキック・チャレンジで相手にしてきたスピキオということなの?」

この場にいる誰もが確認したいであろうことを、ミリアが尋ねた。

「その前に――なぜ、私がこの寫真を持っているのか説明しなければならないわね」レイはそう言うと、切長の目をさらに細めた。「先日述べた通り、前回私たちが行ったハックにより、現在のジョン・スミスのパソコンにはトゥルーマン教団信者たちの個人報がすべてっている。もちろんジョンが抜き出した報の中には、スピキオの報も載っていたわ――つまり、この寫真の出所は、そこよ」

説明を終えると薄く息を吐く。

このレイの臺詞が真実だとすれば、おそらくこの寫真の男がスピキオであることは間違いないだろう。だが、それとスピキオがふたりであることは何の関連もないように思える。

それに、今更スピキオの正がわかったところで何か意味があるのだろうか。

眉を顰めた俺を無視して、レイの説明は続く。

「この報には、本名、年齢、現住所、本籍地、本人の寫真、すべてが記載されている。どれもこれも本と考えても構わないわ。なぜなら、これは本來ネット回線のつながっていないサーバーに保管されていた報だから。いわゆる機報ね」

「確かに……仮面をつけた男たちの正を把握しておく必要があるトゥルーマンとしては、データをこのような形で持っていたのは當然のことだね」

ミリアが補足をれる。

「そうね、ミリア。だって、信者が裏切った場合、報復を與えなければならないもの。仮面をつけていたから、正がわかりませんなんてのは通らない」

頷きながら、レイは同調する。

「サーバに保管されていた報によると、寫真や元の更新は一年に一度行われている。指紋のチェックにいたっては、毎回トゥルーマン寺院にる度に行われているから、データベースに登録されていない人間が中に侵することは不可能だよ」

珍しく、ジョン・スミスが長臺詞で補足報を述べる。

「普通に考えれば、そんな狀態で偽が教団の誰かにり済ますなんてもってのほか。というより、無理ね」

ミリアがジョン・スミスの説明に対しに抱いたのであろう推定を述べる。

「そして――トゥルーマンが個人報をネット回線に接続していなかった理由なのだけれど、これも一応先に説明しておくわ。推測に過ぎないけれど、まず間違いはないはず」レイは斷りをれながら、話を先に進める。「まず誰でも思うことなのだけれど、確かにネット回線の未接続は、例えば自分や側近以外。外部に報を伝える必要がある時には不便よね」

「確かにいざとなったら……」

ジゼルがぽつりと聲をらす。

「そうね、ジゼル。けれど、そのいざという時は、側近もしくはトゥルーマン自がそのデータをコピーして信者に渡せばいいだけなの。例えば暗殺の指示を行うのにネット回線を使いたくないわよね。トゥルーマンはその手の報がネット回線から外にれることの方が怖いから、このような運用をしているのよ」

そう言って、レイは歯切れ良く説明を締め括った。

要は信者を使って相當悪どい真似をしているのだから、當然の予防措置をしているということなのだろう。

レイの説明を聞いた俺は、そう推察した。

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