《悪魔の証明 R2》第97話 061 シロウ・ハイバラ(1)

そう俺が納得しかけた瞬間だった。

「先生」

と、ジゼルがレイに呼びかける。

「何かしら? ジゼル」

レイはすぐに応答した。

「あの……そのもうひとりのスピキオさんについてなんですが、話が飛躍しすぎているような気がします。公で姿を現している方のスピキオさんが、仮面を被りながら懐疑論者のプライベートな報を集めているというのは、どうも繋がらないかと……」

し困を聲にまじらせながら、ジゼルは述べた。

「いい質問ね、ジゼル。でも、スピキオが素顔で懐疑論者に接していたとしたらどうかしら。無論、プライベートでね」

このレイの臺詞に何か勘づいたのか、あ、とジゼルは聲を上げる。

「素顔をさらしたスピキオさんが、実は自分の知り合いだった、なんて誰も思いません。そうなると、仮面を被って公に姿を現しているのは、カモフラージュということになりますね。こんな仰々しい人が、まさか素顔で近づいてくるなんて……」

と、続け様に言う。

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「そうね。その通りなのだけれど……ジゼル。大事なところはそこではないわ」

レイはそう告げてから、ぽかんとするジゼルを橫目にし、なぜかミリアの元へと歩き出す。

目の前に仁王立ちされたミリアのが、びくっと震える。

普段見ないほど彼の顔が青ざめていることが、遠目でもわかった。

「さて、ミリア。いったい、もうひとりのスピキオの正は誰なのかしら? あなたであれば、私たちに教えられると思うのだけれど」

と、レイが確認する。

「せ、先生?」

ミリアは上目遣いをしてから、恐る恐るといったじで尋ねた。

「エリオット・デーモン。あなた知っているのではないかしら? スピキオと年齢の近い彼。元証明をしても同學年だったわ」

聞きなれない人のプロフィールを紹介しながら、レイが訊く。

「エリオット・デーモン? そ、そんな人知らない……」

ミリアは挙不審に言う。

だが、その表をうかがうに心當たりがないといったじだった。おそらく本心からそう述べているのであろう。

とても彼が噓をついているようには思えなかった。

「そう、それは殘念。彼があなたを知っていると言っていたから、あなたも當然知っているのかと思っていたわ。でも、彼を知らないとしても、もうひとりのスピキオ。あの晶テレビに寫っている方のスピキオのは知っているわよね……特にあの首元。見覚えがあるはずだわ。ねえ、ミリア」

レイにがゆったりとした語調で指摘する。

この臺詞にミリアは、ぶるぶると首を橫に振った。

「それは通じないわ。ミリア。いくらあなたでもね」

目を細めながら、矢継ぎ早にレイが言う。それは、あたかも子供を諭すかのような口振りだった。

「ミリア、どうしたの?」

ジゼルはそう尋ねると、心配そうにミリアの顔を見つめた。

「ねえ、ミリア。あなたは、テレビのスピキオと私たちが知っているスピキオが別人と指摘された時點で、そうであると気がついていたはずよ――見比べるため、畫面の中の彼の姿を注視した瞬間にね」

レイはジゼルの応対に構うことなく、言葉の先を続ける。

「そんなの……私の知っている人じゃない。誰にも似ていないよ……先生」

ミリアは苦し紛れのような臺詞を吐く。

「誰かに似ていると思わないはずはないわ。何せ、自分の彼氏にそっくりなんだものね。それでは私がなぜ、クレアスが裏切り者であるとわかったか説明しましょう」

と、レイが氷のような口調で宣言する。

「でも、先生。クレアスは、私たちを助けてくれたじゃない」

を震わせながらも、ミリアはそう反論した。

「それでは、彼は私たちをなぜ助けられたのかしら?」

レイが揚げ足を取るかのように訊く。

「それは……仕事中たまたま通りかかったら……」

と、ミリアは臺詞を途中まで述べて口籠る。

「苦しい言い訳ね、ミリア」

レイが頭を軽く振りながら、彼を追い詰める言葉を吐いた。

「言い訳なんか……」

ミリアは聲を震わせながら反論しようとする。

だが、

「クレアスはラインハルト社私設警察舊市街支部の人間――あなた、以前そう言っていたわよね」

と、レイが先に臺詞を述べ彼の言葉を遮った。

「それはそうだけれど、だからと言って……」

臺詞の先が見つからないのか、ミリアは言葉を失った。

「私が私設警察の人間は止めておきなさいと言ってし口論になったとき、あなたがそう斷言していたからよく覚えているわ。で、そんな私設警察舊市街支部の彼が、犯罪のない新市街地區なんかで、いったい何をしていたのかしら」

訥々とレイが過去を振り返るような言葉を続ける。

一方のミリアは、完全に言葉に詰まった素振りをしてを小さく引いた。

「それより……ミリア、訊きたいことがあるのだけれど。あなた――クレアスに私たちのことを何も話してないわよね」

テーブルに強く手をついて、レイが確認する。

「いえ……あ、名前とか格くらいは教えたけれど……」

しどろもどろに答えながら、ミリアは下を俯いた。

「そう、殘念ね」

場の空気が凍てつきそうな程、レイが冷たく返事をする。

みるみるに、ミリアの顔は蒼白になったが、それに構わず話を続ける。

「それではまず、みんなに伝えていないことがあるから、今伝えておくわね。実は、前回の『トゥルーマンの泉』の後、トゥルーマン教団に命を狙われている可能があるという報を、ミハイルが私に伝えてきたの。トゥルーマンから忠告があったって彼は言ってたわ」

と、俺たちに視線を配りながら補足をれる。

「先生……なぜ、教えてくれなかったの……」

落ち込んだ表で、ミリアは呟く。

そして、この臺詞に首を橫に振ったレイの口から、ついに真相が語られる。

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