《悪魔の証明 R2》第98話 061 シロウ・ハイバラ(2)

「実はトゥルーマンは私への襲撃に関しては乗り気ではなかった」

と、いきなり衝撃の言葉を口走る。

「え? でも先生とミリアは事実エヴラに襲われたと思う……」

ジゼルが首を傾げながら、薄い聲をらした。

「ええ、そうね。でも、私を襲ってくる人數がなすぎるわ。たったの五人よ。その気になれば萬単位で人を員できるのに、彼はそうしなかった」

レイが補足をれる。

「そんな彼が人數で襲撃なんてもってのほか、というわけか?」

俺は確認した。

「シロウ、考えてみたら、それは當然かも。今先生が怪我でもしたら、トゥルーマン教団の仕業であることは明白だわ」

と、ジゼルが代わりに答える。

「だから、わざわざミハイルへ忠告してきたってことか……」

「トゥルーマンには狂信者のコントロールはできないからね。教育、という単語を覚えているかしら。シロウが潛したときに、トゥルーマンがエヴラに講を強制したものよ」

今度は、レイが言葉を返してきた。

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「教育? ああ、あれか……」

エヴラの恐怖に怯えた顔を思い返しながら、呟いた。

「あれの正は、マインドコントロール。トゥルーマン教団のデータベースにそう打ち込まれたデータがあったから、それは確か」

レイはそう明示すると、我関せずといったじでポテトチップスを頬張っているジョン・スミスへと視線を移した。

束の間彼を見つめた後、また俺たちへと顔を戻す。

「でも、そのマインドコントロールは、完全に人をれるものではなかった。教育をけた人間は、トゥルーマン教団に対しての忠節は盡くすようにはなるけれど、時折その忠節が行き過ぎてしまうらしいの」

と、説明を続ける。

「狂信っていうやつですね」

ジゼルはそう言うと、頭の上で両手を回した。

「敵対するものを見境なく襲うってことか?」

「そうだよ、シロウ。それにはメリットもあるけれど、指示する前に人を襲ってしまうというデメリットもあるの」

「ジゼルの言う通りよ、シロウ。強固なマインドコントロールゆえの弱點ね――し話が逸れてしまったわ。ここからが本題」

レイが話を転換させる。

「まだあるのか?」

頭を振りながら、訊いた。

報量のあまりの多さに、頭がパンクしそうになる。

「ミハイルによると、そトゥルーマンと自分しかこの話は知らないということだった。その場ではね。でも、トゥルーマンの側近であるスピキオであれば、事後トゥルーマンに聞いた、もしくは自分でそう推測したと考えていてもおかしくはない」

頭を抱えた俺に構わずレイは言う。

「となると、話を知っているのは、先述のふたりとスピキオだけとなりますね」

ジゼルが要約するかのような臺詞を吐く。

「トゥルーマンの格上、そのような容を多數の人間にらすとは思えないから、私はそう推察したわ。第六研の誰にもこれを伝えなかったのは、スピキオが何かやりかしそうな雰囲気だったとミハイルに聞いたからなの」

「なるほど。で、當然、先生への襲撃に気がついているはずの――」

「いえ、ジゼル。そこはあえて知っていたとしておきましょう……そのスピキオは、トゥルーマンと同じく、私が殺されでもしたら、後が面倒であることを認識していた」そう言って、レイが目を細める。「だから、私はあえてこの事実をみんなに伏して襲われるのを待ったの。きっと、私たちの知り合いである方のスピキオが助けにくるはず、そう信じて」

「そんな危ないことを……」

と聲をらしながら、ジゼルは目を曇らせた。

「正直、これは賭けだったわ。彼の手下をよこしてくる可能も高かったから。でも、結局、彼本人が助けにきた。に危険が及ぶ可能があるのにもかかわらず、ひとりで來たことから考えると、彼がスピキオ本人であることを明白よ」

「だから、あの人が……」

レイが言わんとすることを察したのか。ジゼルが罰が悪そうに聲を零す。

「無論、仮面を被って助けるわけにはいかないから、その彼は素顔のままで來た。そう、その彼、もうひとりのスピキオは……」

レイはそこで言葉を切ると、ミリアへとを向け直した。

ジロリと目を下ろして、怯えた子鹿のようになっているミリアを見つめる。

「そう、ミリアのボーイフレンドであり、ミリアを、延いては私たちを裏切った男、クレアス・スタンフィールドよ」

この言葉に、靜まり返る研究室。レイの長い獨白はこれで終わった。

誰も一言も発しない。

時計の針が刻む音だけが、辺りに鳴り響く。

そして、そのまま空虛で辛辣な空気が永遠に流れ続けるように思えた。

だが、再び堰を切ったのは、やはりレイだった。

「明日の計畫の変更を伝えておくわ。といっても、ジョン・スミス、ジゼルは、観覧席で指示した通りの行をして。変更する箇所はミリアとハイバラの役割よ。會場の外で、誰も外に出さないように見張るのはミリア。ハイバラはジョン・スミスたちと共に行する。いいわね」

非常な宣告が彼の口から放たれる。

これではあまりにミリアが可哀そうだ。

そう思いはしたが、俺がレイに反論することはなかった。彼の鋭い視線に、図らずもが凍りついてしまったからだ。

「先生、私は裏切りません。だから、私も會場にれて下さい」

ミリアが立ち上がって懇願する。

「そんなのはわかっているわ。ミリアが裏切るわけはない。でも、これは私の希にしか過ぎないわ。裏切り者と付き合っているあなたを中にれるわけにはいかない」

レイは、首を橫に振りながら言う。

「でも、先生、私はみんなと一緒に頑張りたい」

悲壯を帯びた聲が、研究室に響き渡った。

「ミリア、今回は萬全を期さなければならないの。本來、裏切る可能……それが1パーセント未満でもあるのであれば、それは除外しなければならないわ。だから、いくら私がミリアを信じていると言っても、簡単な仕事を任せるのが限界」

「そんな……」

ミリアが愕然とした表をしながら、肩を落とす。

「実は、三ヶ月前に新しくってきたハイバラの裏切りが判明してから、いずれこうなることはわかっていた。いつか元からいる――他の第六研のメンバーやその関係者が裏切るに違いないと思っていた。実際、そうなってしまったのだけれど」

レイはし殘念そうな口調だった。

あまり聞いたことのない聲だったので、彼なりに極まっているのかもしれない。

「もう、私はこれ以上裏切り者を出したくないの。だから、ハイバラが第六研のメンバーになってから、わずか三ヶ月という短期決戦を選んだ。トゥルーマンとの決戦だとしても。そんな私の気持ちをわかって。ね、ミリア」

を変えないままレイは言う。

この臺詞に、ミリアは悲しげな表を一瞬見せた。

すぐに顔を上げる。

「先生、わかった」

と、告げた。

涙目になりならがらも、

「私に任されたことはちゃんとやる。みんなも頑張ろう。これで、スピキオのトリックはすべて暴かれたわけだから、スピキオには絶対に勝てる。ううん、彼だけじゃない。トゥルーマンにも必ず勝てるよ」

その場にいる全員に呼びかけた。

これでようやくふたりののあるやりとりが終わった。

何がなくとも、ほっとで下ろす。

だが、それはまだこれから行われる長い説明の単なる序章に過ぎなかったことを俺はすぐに思い知ることになった。

次の瞬間、レイは再び首を橫に振る。そして、顔を正面にした後、すぐに口を開いた。

「ミリア、それは違うの。これはひとつめのトリック。まだもうひとつスピキオはトリックを用意しているわ」

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