《【WEB版】代わりの生贄だったはずの私、兇犬王子のに困中【書籍化】》九話 緑の館の(2)
※本日三話目
扉の先は薄暗い書庫だった。
一番奧の本棚は隠し扉になっており、開けると下へと続く螺旋階段が現れた。妖たちと思われるが足下を照らしてくれるので、クロヴィス殿下に合わせて階段をゆっくり降りていく。
「今は忘れ去られてしまったが、実はエルランジェ王國が主神としている神は妖なんだ。神と王がに落ちて、自分たちの楽園を作ろうとしてできたのがこの國で、王家は妖のを引いている。特に妖の祝福が強い王家の直系からはし子が生まれやすい」
「それがクロヴィス殿下なのですね」
エルランジェ王國の歴史は古い。途中で國名が変わったり、國土の地形が変わることもあったが王家のは途絶えず続いている。その歴史は千年以上と言われている。
「あぁ。その王家の中でも妖の祝福が強いし子は、俺のように緑の館の管理人――守護者という役割が與えられる。だから俺は王宮ではなくここに住んでいるんだ。そして他者を警戒しなければならない理由はこれだ」
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一階を過ぎ、おそらく地下に位置するところまで下がっただろう。
階段を降りきるとクロヴィス殿下は解錠し、鉄製の扉を開けた。
目に飛び込んできた景に私は息を飲んだ。
大きくはない空間は氷柱のように大きなクリスタルの結晶で埋め盡くされていた。
そして部屋の中心には一際大きなクリスタルが鎮座し、中には絵本で見るのと同じくき通った羽を持ち、固く目を閉ざしたが埋まっていた。
「王家の源の妖で、主神の王陛下だ。俺は當代の守護者として、このお方の眠りを守ることが定められている」
「王陛下はその……」
「今も生き続けている。王家が過ちを犯せば正すために、國の危機には救うために目覚めると言われている。信用できない者を館に招き、怒りにれるわけにはいかない。その面でナディア嬢は合格だ」
クロヴィス殿下の警戒心が強い理由に納得した。
このを守り抜ける人でなければ侍は務まらない。無茶を要求しても従えるかどうか、忠誠心を試す必要がある。そのひとつが掃除だったのだろう。
けれど私の場合は忠誠心というより、実家から獨立したいという思いからだ。申し訳なさが芽生える。
「掃除をしただけで、こんなを教えていただいて大丈夫なのでしょうか?」
「単に掃除の試練を越えただけの侍なら教えない。だが君は既に悪意に敏な妖に気にられた上に、し子。遅かれ早かれ俺は教えていたはずだ。まぁ妖だけでなく俺も君を気にったから、し子でなくてもに巻き込んでいたと思うけどな」
「それは恐です」
あまりの過大評価に心がくすぐったい。
「洗禮式とは妖との繋がりを深める儀式だ。眠っている力を目覚めさせることでし子は覚醒する。始めようか。悪いが膝をついて祈りの姿勢をとってくれ」
「はい」
言われた通りに膝をついて、下で手を組んで瞼を閉じた。
低く、心地よいクロヴィス殿下の聲が部屋に響く。
「我らの神よ、ここに新たな信徒を紹介いたします。心を捧げることを誓う者に祝福を、その偉大なる心で與えたまえ――ナディア嬢、水晶にれて自ら名前を告げなさい」
そっと王陛下が眠る水晶にれた。
「私の名はナディア・マスカールでございます」
『我のしいナディア、そなたを認めよう』
らかく、清澄な聲が頭の中に直接響いた。
の奧から形容しがたいが溢れそうになり、片方の手でを押さえた。
その瞬間、景が変わった。
周りには手のひらの大きさのほどの、羽の生えた子供がたくさん飛んでいたのだ。先ほどまで見えていたの球の數よりずっと多く、どれも鮮明に姿が見えた。
「こ、この子たちが妖なのですね」
そう呟くと妖たちは私を取り囲んだ。
「僕タチト、オ話デキル?」
「は、はい」
「バケツノオ手伝イシタノ、僕タチ。褒メテ!」
「バケツ……」
「私タチハネ、ナディアノ願イ通リ風ヲ運ンダヨ。ピューッテ」
「風……もしかして」
水のったバケツが浮いたのも、二階の掃除が終わった時に足元に風が流れたのも妖たちの仕業だったらしい。
「ありがとう。気付けなくてごめんなさい。じゃあクローゼットのシーツも妖さんが?」
「俺タチダヨ! キチント掃除シテルカ見テタノ」
「まぁ気付けて良かったですわ。皆様、立派な試験ですのね」
「モチロン! 俺タチ、クロヴィスヲ守ル」
小さな男の子の妖はエッヘンとを張った。
狂犬と呼ばれる彼を守るのが、こんなにも可らしい妖たちとは想像していなかった。
男の子の妖の頭を指先ででれば、他の妖まで頭を出してきたので順番にでていく。
あぁ、癒されるわ。
妖たちと戯れていると、クスリと笑うクロヴィス殿下の聲を耳が拾った。
「申し訳ございません。殿下がいらっしゃるのに妖さんたちと勝手にお話して」
「かまわない。し子でも急に見える妖にひどく驚いたり、異質の力を拒絶してしまう者もいるんだが、ナディア嬢は大丈夫そうだな」
「えぇ、皆さまとても可らしくて仲良くしたいですわ」
「本當に君はんな意味で目が離せないな」
クロヴィス殿下はどうしてか、嬉しそうに仰った。
明日より一日一話の投稿になります。
引き続きお付き合い宜しくお願い致します!
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