《【WEB版】代わりの生贄だったはずの私、兇犬王子のに困中【書籍化】》二十四話 甘すぎるデートに暴かれて(3)
數秒、馬車の中は沈黙で支配された。耳に屆く馬蹄と車の規則正しい音が私の心を落ち著かせていく。
いいえ、むしろ冷えていった。
言ってしまった。自分の愚かなところを曝け出してしまったことに、今更後悔してしまっている。
さすがのクロヴィス殿下も引いてしまっただろうと、彼の顔を見上げた。
「――え?」
彼は口元を手のひらで隠しつつも、驚喜の表を浮かべていた。
「すまない。何か聲をかけなければと思っていたんだが、存外に嬉しいことが聞けて驚いていた。愚かになるほど俺に溺れてくれるなんて、願ったり葉ったりじゃないか」
指の隙間から見えるクロヴィス殿下の口元が緩み、目元はけるような弧を描いていた。
予想もしていなかった反応に呆けた私を囲うように、彼は壁に手をついた。
「俺はそんな君でもけ止める覚悟はできている。だから安心して俺の気持ちをけれてくれないだろうか」
瞳に期待をにじませた端麗な顔が見下ろしている。
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離れようにも狹い馬車で逃げ場はなく、背はすでに壁にれている。顔を逸らして、絞り出すように聲を出した。
「そ、その……でも、まだ自分のに戸っていて、どうすればよいのか」
「ふーん……もう一押ししたいところだが、前向きな話が聞けたからよしとするか」
たっぷりの間をとり、クロヴィス殿下はため息をつきながら壁から手を離し、椅子に腰を落ち著かせた。
その代わりに私の指に、彼の長い指が絡められた。
「これくらいは許せよ」
「はい」
自分を曝け出した解放からなのか、それとも彼が私の醜さを見ても変わらぬ心を示してくれたからか、さっきまで押しつぶされそうだったのが軽くなっていた。
アスラン卿がわざと遠回りしてくれたのか、心が落ち著いたころにはとうに到著しても良い時間は過ぎていた。
ゆっくり時間をかけ再びマスカール伯爵家の裏門の前まで戻ってくると、やはり寂しくじてしまう。
「そんな顔されたら、帰したくなくなるだろうが。まぁこちらはいつでも迎えられる準備はしてあるから、いつでも言え」
「はい。ありがとうございます。失禮します」
クロヴィス殿下が表に姿を出すわけにはいかない。
アスラン卿の手を借りて馬車を降りる。
「殿下、僕をそんなに睨まないでください」
アスラン卿は馬車の中をチラリと見て、苦笑した。
「……?」
「ふふ、殿下は自分が堂々とエスコートできないのが悔しくて、拗ねておられるのですよ」
「ニベル」
「おっと、口がりました。ナディア嬢、どうです? 可いところもあるでしょう?」
「煩い」
私も馬車の中を覗くと、不機嫌な表で向こう側を見ているクロヴィス殿下の耳に朱が差していた。
アスラン卿の言う通り、確かに可いかもしれない。
クロヴィス殿下の新しい一面が見られたことが嬉しい。どこか遠い人だと思っていたけれど、普通の青年のような表を今日はたくさん見られて、親しみをじた。
「ふふ」
「ニベル、覚えていろよ」
思わず笑いを溢してしまったら、アスラン卿にとばっちりがいってしまった。彼も悪びれる様子もなく笑っているので、大丈夫だろう。
空気が溫かく緩んだそのとき、一臺の馬車が私たちの馬車を追い抜き前に停まった。ここは馬車がよく通る道だけれど、裏門に停まるのは食材などの仕れ関係の荷馬車ばかり。
けれども目の前に停まったのはマスカール伯爵家の家紋が裝飾された豪奢な馬車だった。
いつもなら正門まで行くというのに、どうして……私の姿が見えたからわざわざ停まったというの?
警戒したのはアスラン卿も同じで、私を背で庇い馬車を見據えた。
「申し訳ございません。事前報では夕方まで予定があったので、顔を合わすはずがないと思って油斷しておりました。妖の報が間に合わなかったようです」
妖でも馬車で移していた殿下を見つけて伝えるのは難しく、家族の予定が急に変わるなど予測できないのだから仕方ない。
妖は慌て、そして心配そうな面持ちでこちらを見ていた。
扉が開き出てきたのはお父様、続くようにお義母様とジゼルも馬車から降りてきた。嫌でもが強張ってしまう。
「これはアスラン卿ではありませんか」
「マスカール伯爵、ご無沙汰しております。どうかされましたか?」
「ナディアはアスラン卿と同じくクロヴィス殿下に仕える。ひとつ挨拶をしようと思いましてな」
「それはお気遣いありがとうございます」
お互いににこやかな表を浮かべているが、空気は張り詰めていた。
それを割くように鈴のような可憐な聲が響く。
「いつもお義姉様がお世話になっておりますわ。私は二のジゼルと申しますの」
「ニベル・アスランです。どうぞお見知りおきを」
「アスラン卿はどうしてこんな時間にお義姉様といらっしゃるのですか? 服裝も平民と変わらぬもので……」
「々街に所用がございまして、このような格好をしているだけです」
アスラン卿がそう答えると、「ほぅ」と興味が湧いたようなお父様の聲が聞こえた。
腹のが見えない目から、値踏みするような視線へと変わる。
「そういえばアスラン卿にはまだ婚約者がおりませんでしたなぁ。仕事柄、相手を見つけるのが難しそうですから、近なところでどうですかな?」
狂犬王子を主として仰ぐ部下は、あおりをけて縁談が進みにくいと言いたいのだろう。お父様は手の平を上にして私に向けた。不出來な娘で妥協したらどうだ、と言わんばかりの言。
爵位ではお父様よりアスラン卿が下とはいえ、なんて失禮な態度なのか。
憤るものの私には反論できる勇気もなく、奧歯を噛んで見ていることしかできない。
「マスカール伯爵は衰えることなく、今も沙汰が好きなようだ。年を考えろよ」
馬車の中から、不倫を選んだお父様への痛烈な皮のセリフが聞こえてきた。
「な、なんだと!? 出て來い!」
お父様の顔が一気に赤く染まり、こちらに一歩踏み出そうとするがアスラン卿が手のひらを突き出して制止させる。
だけれど彼は言葉を発さず、馬車にいる人に委ねた。
「伯爵……誰に言ってるんだ? まさかこの俺にじゃないだろうな」
「――まさか、クロヴィス殿下」
地を這うような不機嫌な聲の正を知った父は前に出した足を戻し、顔を青褪めさせた。
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