《【WEB版】代わりの生贄だったはずの私、兇犬王子のに困中【書籍化】》二十八話 嫉妬から生まれるもの(4)

それから私は夜會の日程やマナーの勉強のスケジュール、婚約から婚姻までの流れを一通り簡単に教えてもらった。彼曰く最短ルートを組んでいるとのこと。

私が資料を読み込んでいる間にクロヴィス殿下はジゼルの手紙を読んだようで、アスラン卿と同じく複雑な表を浮かべていた。

容を聞けば、昨日の無禮についての謝罪の言葉とお詫びをしたいのでお茶會に招待したいというものだった。

しかもクロヴィス殿下への稱賛とささやかな好意を添えて。

「昨日あれだけ父親の怯える姿を見て、よくこんな手紙が書けるな。侍いから逃げるほどだったのに、手のひら返しが過ぎる……裏があるのか? 気味の悪い娘だ」

げんなりした表で彼は返事を書いた。

一応脅しという名の牽制はしたが、ジゼルには効いていない。返事がない八つ當たりの矛先が私に向かないために配慮してくれたようだ。

もちろん容はお茶會への斷りの文言がしっかりと並んでいる。

ジゼルへの返事を書き終えると、もう一通手紙が書かれ、まとめて私に渡された。

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こうして帰宅後、ジゼルへの手紙は使用人に任せ、私はお父様の私室を訪ねてクロヴィス殿下からの手紙を直接手渡した。

「クロヴィス殿下が二週間後の夜會でお前をエスコートするだと?」

夜會は王家主催のもの。単なる招待狀ではなく、王族のエスコートを伴うため強制參加の勅命に等しい。

マナーの講師、ドレスやアクセサリーも一式王家が用意するため、斷りの理由になりそうな要素は排除されている。捨て置いていた私の急な夜會デビューの決定に、お父様は唸った。

「どうして、このようなことになっている? これではナディアが殿下にとって重要な人だと知らしめるようなもの。本當に侍としてだけなのか?」

クロヴィス殿下が夜會に出るときは単獨が基本で、パートナーが必要なときは妹王を伴っていた。例外は過去にないらしい。

婚姻の話は私が社界デビューを果たしてから正式に國王陛下から打診されることになっているため、まだ知らぬお父様は半信半疑で手紙を読み直している。

私はまだ無知を裝えと言われているため、余計なことはせず打ち合わせ通りのセリフを投げかける。し肩を落とすように、顔を窺うように……

「お父様、どうしてお悩みになっているのですか? 引きこもりと公表していた伯爵家の汚點が、王族を伴ってデビューをするのです。これはマスカール家にとって明るい話かと思うのですが……」

「確かに手紙にはお前の仕事ぶりを評価して、栄譽を與えたいと書いてあるが……ジゼルがな」

同じ実の娘である私が家にとって名譽ある招待をけてもこの反応。微塵も喜ぶ様子は見せない。

だからこそ、私は縁関係のあるお父様にも未練を殘さずにいられるのだと改めてじた。

お父様はたっぷりと頭を悩ませたあと、諦めのため息をついた。

「すぐに返事を書こう。返事が遅いと反を買うわけにはいかない」

昨日の恐怖を思い出したのか、お父様はマスカール伯爵家として私のデビューを認める返事をその場でしたためた。

そして、それは私の手に。任務完了だ。

深々と頭をさげてすぐにお父様の私室をあとにしようとするが、扉を開けるとジゼルが立っていた。そっと扉を閉めて向かいあう。

「ジゼル……」

「私、お詫びのお茶會を斷られてしまったの。それに比べて同とはいえ、お姉様はクロヴィス殿下と夜會なんて羨ましいわ。これならお母様を説得してお姉様をデビュタントさせれば良かったわ」

どうやら盜み聞きしていたらしい。淀んだ瞳がこちらを向いていた。

「そう言われても……私にはどうすることも」

「そうだったわね。クロヴィス様が憐れんでお姉様をうような狀況を作ったこちらの失敗ね……ねぇ、私どうしてもクロヴィス様とお話しする機會がしいの。良いアイディアないかしら?」

「一介の侍である私が出來ることは手紙を渡すので一杯です」

「その手紙ももう送るなって書いてあったのよね。困ったわ」

頬に手を當てて、儚げにため息をらす姿はに悩む乙の姿に見える。

けれども彼の頭の中は窺い知れない。いまも表は憂いを帯びているのに、瞳には燈が見える。

クロヴィス殿下から完全拒絶の手紙をもらっても、諦める様子のない執著に背筋に悪寒をじた。

「まぁ、良いわ。その夜會に參加すれば、會えるということが分かったのだし、ね? ふふ、早く小屋に帰った方が良いわよ。もうすぐお母様がエステを終わらせて帰ってくるころだわ」

「……ありがとうございます」

「私って優しいでしょう?」

「――!?」

すれ違い様に耳元で囁かれ、ジゼルはお父様の私室にっていった。

ジゼルは優しくて良い子だと、クロヴィス殿下に伝えろということなのだろうか。いや、ジゼルは私は何もしなくていいと言っていたから、伝えるものか。

私はお義母様が帰ってくる前に研究棟に帰り、緑の館でのことをパールちゃんに報告した。

案の定パールちゃんは祝福してくれた。

「良カッタァ」と泣く彼を見て、ようやく現実味をじ視界が滲む。

一か月前は將來の展が描けず、ただり減るような生活をしていたというのに、今は未來が楽しみになっている。

クロヴィス殿下は特殊な立場だから、苦労をかけることもあるかもしれないと言っていた。もちろん抱いている不安も多い。

それ以上に期待が膨らむのは彼のおだ。信じられる人が、私を大切にしてくれると誓ってくれたから。

「私、幸せになれるんだ」

諦めていた夢が、突然手のひらに転がってきた気分だ。

「絶対に手放さない」

諦めてばかりの人生だった。

でも今日からは違う。狙う者がいてもこの幸せになれる切符だけは奪われまいと、そのときは戦うのだと、私はぎゅっと手のひらを握り締めた。

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