《【書籍化&コミカライズ】私が大聖ですが、本當に追い出しても後悔しませんか? 姉に全てを奪われたので第二の人生は隣國の王子と幸せになります(原題『追放された聖は、捨てられた森で訳アリ青年を拾う~』》07 追放

謁見の間で斷罪され、崩れ落ちたリアを戦場で共に戦ったことのある聖騎士が引きずっていく。誰も彼も冷たい侮蔑の混じった目で彼を見る。

(ともに戦ったのに。そう思っていたのは私だけ……)

すぐに城にある地下牢に放り込まれた。かび臭いパンと屑野菜がし浮くスープの食事が日二回。自分は罪人なのだと思い知らされ、悲しくなる。

一杯やった。だが期待にこたえられなかった。それが罪だという。どうすればよかった? 牢の壁に向かい虛ろに自問自答する。

(私が偽聖……?)

どれほど糾弾されようと、不思議と自分が偽聖だとは思えない。

だが、ショックで食事もを通らない。安らかな眠りが訪れることなく、ただただ呆然となる。人は本當に絶すると意外に泣けないものだと初めて知った。

天井付近の明り取りの窓から、朝のが差す頃、レオンが面會にやってきた。

牢屋越しに呆れたような顔で、リアを見ている。

「おい、上と掛け合ってやったぞ。私も先の戦いに參加したことで出世したからな。多は融通が利く」

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だからどうだと言うのだろう? リアは彼の言葉にのろのろと顔を上げる。

「國外追放などされたら、神殿しか知らない世間知らずのお前は、生きてはいけない。だから、神殿の下働きとして雇ってやる」

レオンがいまひとつ反応の鈍いリアにぶっきらぼうにいう。

「え……」

「つまり、お前には選択肢が二つある。このまま國外追放になるか。神殿の下働きとして働くか選べ。まあ、選ぶまでもないがな」

そう言って鼻を鳴らす。

「國外追放で構いません」

リアの返事にレオンは驚きに目を見開く。彼がこの話に乗ると信じていたのだ。誰だって國外追放など嫌なはず。國の為に戦ったのに、この故郷の地を二度と踏めなくなる。

「おい、何を馬鹿なことを言っているのだ? これは破格の申し出だぞ。考えようによってはお前が神殿で浮上できるチャンスだ。信頼を築き、神殿側にまた聖判定をさせればいいではないか。護國聖かどうかは知らないが、お前が聖だということは間違いないのだから。それに何を期待して拗ねているかは知らんが、私以外お前を支援するものなど誰もいないぞ」

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レオンは、リアにそばに寄るように合図をする。リアはのろのろと近づいた。その反応の薄さにレオンはいら立ちと不安を覚える。生きる希を失ってしまったように見えた。彼は壊れてしまったのだろうか?

小聲でリアに事実を告げた。

「お前は國外追放という事になっているが、実質的には西の國境にあるい森に捨てられる。むかし、護國聖がそこに強い結界を張ったことは習ったろ? 森の中は強い瘴気が満ち溢れている。それが何を意味するか分かるか? 捨てられた瞬間魔獣の餌食だ。実質死刑だぞ」

(ああ、私はそこまで嫌われてしまったのか……)

王太子への淡い心がゆっくりと死んでいく。

「構いません」

はっきりとしたリアの口調にレオンは次第に焦りをじてきた。この取引、絶対にリアは喜ぶと思っていたからだ。神殿では寢食を共にし、戦場では一緒に戦った。今思えば、口下手ではあるが黙々と祈り働くリアは一番信頼できる。

「下働きとはいっても神殿はそうお前をむげには扱わない。治癒力を持った聖が足りないのだ。それなりに大事にしてもらえるよう取り計らう」

それでもリアは首をふる。レオンはしばらくリアをなだめすかしたが、彼は國外追放でよいとの一點張りで、その日は諦めた。

その後も彼はリアの元に通い説得を続けたが、彼が頷くことはなかった。まるで抜け殻になってしまったように、すべてのことに反応が薄い。今の彼はやつれ、十代とは思えないほど老け込んでいた。あれほど素直な質だったのに、もう何を言っても彼の心に響かない。

「この國の民は二年にわたる戦爭で重稅にいだ。王族に貴族、神殿はその責をすべてお前に背負わせ、見せしめとして追放しようとしている。唯々諾々として従うのか?」

そんなことを言われても、リアにはもう戦う気力などないし、この國の為に生きるのはこりごりだった。

と言ってもてはやしたり、戦いが終われば聖ではないと斷罪し切り捨てたり……。

數週間後、リアは末な馬車に乗せられていた。いよいよ國外追放だ。馬車はレオンの言う通り西にあるいの森を目指して走る。そしてレオンはその日もリアについてきた。

「本當に、お前は馬鹿だな。神殿に助けを求めれば、今からでも置いてもらえるかもしれないぞ? なんなら、私も口添えしてやる」

しつこく言うレオンをぼうっと眺めた。レオンは後輩で一つ年下でしっかり者。いつも態度がおおきくて口が悪くて……それなのに彼だけが面會にきてくれた。リアを助けてくれようとしているのだ。それだけは分かる。しかし、今の彼は王宮や神殿のいう事は全く信じられない。

どれほど盡くしても必要がなければ、捨てられる。

やがて結界の張ってある森の口に著いた。結界はこの國に対して側に張ってあるものなので、森にってしまえば、その効力はない。森の中には魔がうじゃうじゃいるはずだ。

別れの時がやってきた。

「餞別だ」

そう言ってレオンは干したと野菜に果、それに小ぶりのメイスをくれた。

「この森の深さは分からないが、とにかく西へ抜けろ。お前ならば霊の加護があるから、出できるかもしれない。だからその時のために」

そして、路銀だと言って、金貨と銀貨を數枚手渡された。

彼のこの親切はきっと罪悪からだろう。

レオンは一杯戦って傷病人を癒しているリアを見ているはずだ。分かっている。レオンはリアのことを役立たずなどと報告していないと……。どこかで曲解されたのだろう。

例外はあるが、一般に神は魔法は使えても神聖力の無いものがなる。レオンもその一人だ。だから神聖力を大量に放ったときの搾り取られるような激しい虛、疲弊はわからない。はたから見ると目だった活躍のないリアが、歯がゆかったのだろう。

リアは牢獄で虛ろではあったが、ほんのし考えを巡らせる時間はあった。地下牢にれられて初めて休んだ気がする。

レオンの報告によって援軍は來たが、リアの立場は最悪なものになってしまった。役立たずの聖。味方や理解者がたくさんいればこんなことにはならなかったかもしれない。

あの戦場で、皆信頼し合って、背中を預け戦っていたと思う。それなのに戦いが終わってみれば、栄譽を勝ち取りたい功名心でいっぱいで……。

戦いが起こると巡り巡って民の生活を圧迫する。彼らに重稅が課せられるからだ。

そういえば、聖騎士団がきてから、戦場の食事が驚くほど、豪華になった。専用のコックまでついてきて、ジュスタンはそれを「良い食事と健康が戦いを支える」と言っていたが、今思うとカモだのシャンパンなど贅沢をし過ぎだ。

そして彼らは自分たち専用に風呂を持ち込み、使用人まで連れてきた。今思うとおかしい。

聖騎士団と兵士が酒盛りをする間、リアはそんなこと気にする余裕もないほど働いていたのだ。その後はぐったりと疲弊し、彼らの過度な贅沢を見過ごしてしまった。

は戦いが長引いた責任を一に背負わされた。先の戦いで國は貧しくなった。民の不満、貴族たちの不平を鎮めるために誰かスケープゴートが必要だったのだ。それがリアだった。ただそれだけの事。最初からもっと兵力があれば、聖があと數人いればと思うところは多々あるが、それももう済んだこと。

「さようなら」

リアは一言だけ、レオンに告げ森へ一人向かう。

レオンかられ聞いた話によると。ジュスタンは先の戦いで敘勲のうえ爵位を貰った。彼は伯爵家の三男、爵位を継げなかったから、から手が出るほど爵位がしかったそうだ。

そしてカレンはジュスタンと三か月後に結婚する。いつの間にか二人はそう言う関係になっていたのだ。

今。國ではプリシラとカレンが救國の聖ともてはやされているらしい。結局誰かが貧乏くじを引くようにできている。それがリアだっただけ。思えば、ずっとそんな人生だった。

たった一つの喜びは、一時(いっとき)にせよ王太子の婚約者になれたこと。

リアは靜かに森へ去って行く。

森の口へカサリと足を踏みれた瞬間、後ろから誰かに名を呼ばれような気がした。

………が、この國からいなくなる……

……けいやく……ふりこう……

空耳だろうか、そんな囁きが聞こえてきたような気がした。

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