その後、リアの追放をどうにか撤回できないものかとレオンは奔走した。

リアが戦場に行ってからというもの神殿で聖が行う癒しの業には、庶民の不満が溜まっていた。聖は貴族の娘が多く、中には庶民にれたがらない者もいる。そのうえリアのように強い治癒魔法(ヒール)をかけられる聖がいない。

「あの白髪の聖様ならば、このくらいの怪我一度で治してくれたのに」

「なぜ、あのお優しい聖様を戦場に送った！」

恨みがましそうに言う信者も増えた。彼は市井の信者たちから好かれ、神殿が思う以上に慕われていたのだ。

リア以外の聖たちは皆庶民より有力な貴族を癒したがる。霊の加護を信じ、誠心誠意勤めていたのは彼だけだ。

しかし、要領の悪さや生真面目さ、人の好さが裏目に出て、リアには貴族の味方がいない。

神殿も寄付金のない市井の聲は拾わない。しかし、數にすれば貴族より庶民の方が圧倒的に多い。全的な布施の多さを考えれば、庶民からの支持は、のちのち神殿の財政に響いて來ただろう。

そのうえ、長引く魔討伐で、國も神殿も信頼を失いつつある。貴族にも財政が傾いたものがおり、寄付金は減っている。神殿の資産はいまや右肩下がりだ。

それに加えて、二年ほど前から、回復薬の輸出にもりがみえる。アリエデ産のポーションの評判が下がり、國外でも売れ行きが芳しくない。

リアが攜わっていないからだろう。彼の神聖力は強い。王侯貴族やフリューゲルがお気にりのカレンの比ではないのだ。

レオンはそこを突破口にいた。するとある日突然、リアを裏に神殿に戻すように話がついた。それはあまりに呆気なく、何か裏があるのではと疑いたくなるほどに……。

思ったより早く追放が々に取り消されたので、早速地下牢にむかう。王宮にどんな思があるかは知らないが、レオンはリアが喜ぶと思っていた。神殿の勤めは大変だが、彼は庶民に慕われ、彼らを癒すことに喜びをじていた。

その神殿の仕事に戻れるのだ。後は自分が出世して、リアを相応な地位に引き上げてやればいいと思っていた。

しかし、地下牢であったリアはかたくなに助けを拒絶し、刑に甘んじることを選んだ。

心が折れてしまったかのようにどんな言葉も屆かない。

追放の日、せめてを清めてやりたいと思ったが、罪人に湯浴みは不要と斷られた。

リアの神聖力は本だ。きっと彼はいの森でも霊の加護をけ生き延びるだろう。

そう信じて、金と食料を渡す。リアの場合、心配なのは人に騙されないかだ。

レオンは森へ去るリアを見送りながら、霊の加護を祈った。これは絶対に間違っている。

彼をこの國から追放するなど、大変な誤りだ。

♢

神長フリューゲルは討伐前に神殿の者にも信者にも常々言っていた。

「護國聖には闇を払うしさと力がある。北の森は護國聖の祈りにより、速やかに鎮められるだろう。それが真の護國聖の業、それが出來ぬのであれば、護國聖にあらず」

レオンも最初の頃は神長フリューゲルの言葉を信じていた。しかし、戦場に一年いてその考えは揺らぐ。護國聖といえど、そのは人だ。

いま思うと戦場でのリアも十分超人的だった。

彼は魔の攻撃をかわしつつ、重癥の傭兵を擔いで走った。あれと同じことをプリシラとかいう新しい護國聖が出來るのだろうか？ はなはだ疑問だ。まだ彼の聖としての力を見たことがない。今後も力を示さないつもりだろうか？

そして、出世したいまレオンは文書館の立ちりを許可された。さすがに機文書はまだ見せてもらえないが、出來る限り、いろいろな記録をあさった。

しかし、「闇を払うしさ」というフリューゲルの言葉を裏付けるような文獻は見當たらない。

リアは顔立ちでいえば、整っているが、髪のやのがくすんでいる。決定的なのは瞳がにごっていること。人によっては不快をもよおす。聖の容姿にそぐわないと神殿でも貴族の間でも囁かれていた。

だが、生前大神カラムもフリューゲルのように護國聖が闇を払うしさだと語っていたという。

レオンは霊信仰に揺るぎないつもりだ。だが、神殿の教義に対して次第に疑いを持つようになってきていた。

どこかで誰かが捻じ曲げた？　恣意的に教義に手が加えられたのではないか……。