アリエデ、數話続きます。

聖リアが戦場に旅立った翌日、大神カラムがこの世を去った。

「ニコライ殿下、必ずやこの國の護國聖とご婚を」

最期をみとった神たちが言うには、それがカラムのいまわのきわの言葉だという。

戦時ゆえ、つつましやかな葬儀がすんだあと、王太子はカラトリ神殿の水晶の間に案された。するとそこには、神、聖が居並んでいた。

「これは何事か？」

ニコライが問えば、フリューゲルは

「今から、聖判定を行います」

と厳かな面持ちで告げる。

「護國聖はリアに決まっているのだろう？　それ以降の聖判定に私が立ち會う必要があるのか？」

忙しいだ。たいして信心深くもない王太子はこれ以上神殿の行事に時間を割かれたくないと考えていた。

それでなくとも魔の封じ込めが見事功したら、あのやせぎすで、魅力のない娘を否応なく娶らねばならない。

大神カラムは妻をせと言った。この國はいつまで神殿の主張する霊との契約に縛られ続けるのかとうんざりする。

フリューゲルは大神カラム亡きあと神殿の権威を示したいのだろうが、聖判定のたびに呼び出されてたまったものではない。

「大ありでございます。プリシラ様、殿下の前へ」

呼ばれて、現れたプリシラは、聖リアの実の姉だ。今日も華やかなしさを振りまいている。なぜこの娘ではなく、リアだったのか。王太子はそのことを殘念に思い、いら立ちと諦めをじていた。

聖は闇を払うしさと伝承にある。カラムが啓示をけた時から、信心は淺いものの、まだ見ぬ聖を心待ちにしていた。

しかし、現れたリアは、よくよくみれば、顔立ちは整っているが、はくすみ、髪は老婆と見紛う様な灰。濁っているとしか思えないの失せたブルーグレイの瞳。若い娘であるのはずなのに疲れ切ったような表。リアを目にして、どれほど失したことか。

だが、あの日聖判定で、水晶が影を奪うほどまばゆく輝いた。聖は彼で決定だ。

リアが聖だと認識した瞬間、立ち直るのに努力としの時間を要した。

正式な儀式にもかからず正裝すらしていない、ボロボロのローブ姿の非常識な娘。

だが、何か深い事があってのことかもしれない。本當は機知に富む、頭の良いかもしれないと己に言い聞かせた。しかし、その期待もむなしく、すぐに裏切られた。

いつも疲れていて、もっさりとして気で気の利かない娘。

誕生日に何がしいか聞いたら、一緒に出掛けたいといった。普段はこちらの顔を見ておどおどしているくせに図々しい。

十日に一度會うのも神殿まで出向かねばならず面倒なのに、これ以上彼に時間を奪われたくない。指やネックレスなら、人を買いにやらせれば済むのに……。

もとよりそんな約束を守る気はない。討伐に送り清々した。

王子がそんな仄暗い回想に浸っている間に、皆が注視する中、靜々とプリシラが、水晶の前で進み出る。彼は丁寧に祈りを捧げ、手をかざす。すると水晶は、まぶしくり輝いた。闇を払うそのものだ。

（リアではなく、彼が本の聖なのか？）

水晶の間が騒然とした。

フリューゲルは、含み笑いを浮かべ、王太子の元へ近づいた。

「殿下、失禮を承知で言いますが、本當に聖リアは次期王妃の資格があるのでしょうか？　私にはプリシラ殿の方が相応しいように思えます」

その後、すぐにプリシラの父・ウラジミール・フォーガサイス伯爵が接してきた。

「リアは戦場にいってしまいました。そこで、命を落とすかもしれません。よって代わりにプリシラにお妃教育を施してはいかがでしょう？」

心がくが、病床の父王にも聖リアと婚姻するように厳命されている。弱っているとはいえ國王だ。

「まさか。護國聖には霊の加護がある。簡単に死んだりはしない。それにリアは後方支援であって、戦うわけではない。魔がこれ以上湧かないように、結界を張るだけの簡単な仕事を済ませてじき帰って來る」

聖の仕事は結界を張るだけのかんたんな仕事。これは事実ではないが、フリューゲルが広めた話だ。

フリューゲルにとって聖が尊重され神が蔑ろにされることがあってはならない。彼はリアを蔑ろにしつつ、心では彼の力に脅威をじていた。あの娘は力を持ちすぎる前に早くつぶしてしまわなくてはならない存在。

「しかし、殿下、聖リアは神殿で修行を行ってきましたが、まともな淑教育をけてはいません。ましてや社などできません。機転が利くとはいえません」

ニコライの心はゆらりと傾いだ。フリューゲルのいう事ももっともだ。

そこへウラジミールに口添えする。

「そうです。もしもの場合のスペアとしてで構いません。どうかプリシラをお妃候補とお考え下さい」

ここぞとばかりに押してくる。

プリシラは國一番のというわけではないが、リアに比べたらその華やかさとしさは雲泥の差だ。心変わりするのに時間はかからなかった。