《ロング・ロング・ラブ・ストーリーズ 4度目のさようなら that had occurred during the 172 years》第2章 1983年 プラス20 – 始まりから20年後 2 二十年前
2 二十年前
――あれは、いったいなんだったのか……?
林でのことから二十年……剛志はすでに三十六歳になっていた。あの頃の記憶もかなり薄れ、それなのに、あの事件のことだけは今でもはっきり覚えている。
それでも大學を卒業、さらに就職する頃には、しょっちゅう思い出すこともなくなった。
辛かった日々は確実に、彼の中で遠い過去のことになっていた。
ところがある日、知らない男から電話がかかった。そいつは否応無しに過去の記憶を掘り起こし、忘れかけていた〝ある約束〟を思い出させる。
あの日、剛志は確かに気を失ったのだ。當時はそんなこと知りもせず、智子にもすぐに追いつけるだろうくらいに思っていた。
ところが行けども行けども姿は見えないし、霧雨だったはずがいつの間にか本降りだ。
そうしてとうとう剛志は智子に追いつけない。それでもきっと、広場に出られたのは偶然じゃなく、彼の想いが強かったせいだと信じたかった。
「ちょっと伊藤さん! どうしたんですか!? 大丈夫ですか!?」
倒れているのが伊藤とわかって、確かそんなじをんだと思う。
ところが剛志が呼びかけた途端、伊藤が口からを吐き出した。腹からもドクドクが流れ出し、雨水と混ざり合いながら辺り一面に広がっている。
剛志は慌てて伊藤の肩を抱き上げて、彼の耳元で再びんだ。
「伊藤さん! 何があったんです? 智子は、桐島智子はどこに行ったんですか!?」
そんな聲に目を覚まし、きっと何かを言いかけたのだ。
しかし、口からの息は聲とはならず、ドロッとしたの塊だけを吐き出させる。続いて辛そうに咳をして、そこでようやくうっすらとだが目を開けた。
見ればが微かにき、口元についたの塊が吐き出す息に震えて見える。
――何か言っている!
そう思うや否や、剛志は慌てて彼の口元に耳を寄せた。
それでもきっと、そうしていた時間は十秒ちょっとというところだろう。
伊藤は何度も同じ言葉を繰り返し、いきなり「ヒッ」と発して全の筋を弛緩させた。
それが伊藤の最期だったが、その時はまるで恐ろしさをじない。それどころか、剛志はしばらく立ち上がろうともしなかった。伊藤が必死になって伝えた言葉が、あまりに意味不明で理解できないものだったからだ。
――あの巖が、いったいなんだって言うんだ? わけがわかんねえって!
そんな思いで見つめる先に、自然のものとは思えぬあまりに大きな〝巖〟がある。
直徑が三メートルは優にあって、地上から三十センチくらいのところでキレイに平たくなっている。まるでスポットライトを浴びるステージ臺のようだが、そんなものがこんなところに用意されているはずがない。
伊藤は死に行く寸前に、この巖のことだけを剛志に向けて聲にした。
それがどんな理由によるものか、彼の言葉だけでは皆目見當つかないのだ。
剛志はやっと考えるのを諦めて、伊藤の亡骸をそっと橫たえ、土砂降りの中立ち上がる。直立不のまま辺りを見回し、すがるような思いで智子に繋がる〝何か〟を探した。
この時の剛志は、己の危機をまったく理解していなかった。
伊藤博志という人の死が、人生に大きく影響するとは夢にも思っていないのだ。
伊藤には、腹に四カ所の刺し傷と、後頭部にも鈍で毆られたような裂傷があった。となれば犯人はナイフのようなものを手にして、柄の部分で後頭部を毆りつけた後、刃先を伊藤目がけて振り下ろしたか?
もちろん剛志はそんなことなどしていない。
だいたいナイフなんて手にしたことないし、鉛筆を削る時だって彫刻刀だ。後はせいぜい〝ボンナイフ〟をいじくる程度で、その辺は智子だって似たようなものだろう。
それでもだ。彼が後頭部を毆りつけたとして、あの長差ではそうそう力はらない。まして一撃でどうにかするなんてどう考えても厳しいだろう。
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