《ロング・ロング・ラブ・ストーリーズ 4度目のさようなら that had occurred during the 172 years》第2章 1983年 プラス20 – 始まりから20年後 4 昭和五十八年 坂の上(2)
4 昭和五十八年 坂の上(2)
昔とおんなじメガネを掛けて、人のよさそうなところは変わっていない。
ところがその軀が別人なのだ。ほっそりしたシルエットが雲散霧消して、見事なまでに大きくなった彼がいた。
「ただでさえ、呑み屋なんて右も左もわからないからさ、〝アブさん〟らに教えてもらって始めてみたはいいけど、最初はとにかく売れ殘るのよ。殘ったからってさ、捨てるのはもったいないでしょ? だから食事代わりに、とにかく殘りモンをバクバク食べてたんだ。そしたらさ、いつの間にかこうなっちゃった……すごいでしょ?」
きっと、二、三十キロは太ったろう。
丸々突き出た腹をで、フナさんがニコニコしながらそう言った。
――契約書を見た時に、俺はどうして、彼だと気づかなかったか?
そうは思うが、実際のところ、船本洋次という名を目にしても、このフナさんを思い浮かべたかは甚だ怪しいものだった。
フナさんは五十五歳で勤めていた會社を定年退職。その退職金で児玉亭を購していた。そして今ではグルメ雑誌にも掲載される繁盛店、〝モツ煮亭〟の店主となっている。
それからフナさんは、近所に殘っている剛志の舊友たちへ、電話をかけまくって呼びつけるのだ。そうして一時間もすると、今やモツ煮亭の常連客となった同級生らが集まって、店の一角が懐かしの酒宴の場となった。
その中には、當時剛志が釈放されてから、さんざん悪態をついた輩もじっている。
それでもきっと當人は、そんな事実など忘れてしまっているのだろう。ただただ大変だった、俺はずいぶん心配したと口にして、あの頃も変わらず味方だったような顔をした。
だからと言って、腹が立つということもない。
二十年という歳月はやはり大きく、懐かしさが心地よくてそれなりに楽しい。あっという間に三時間が経過して、彼は多強引にモツ煮亭を抜け出した。
とにかく、暗くなっては困るのだ。記憶もずいぶんあやふやだったし、もしも見つからなければここに來た意味がなくなってしまう。
幸い、酔っぱらったというほどではなかった。それでも晝間の酒は影響したようで、もはや家を出る時の憂鬱な気分は跡形もなく消え失せていた。
火事のあった林……そこを訪れるということは、同時に智子のことを思い出すことになる。
毎日のように智子を捜しまわったあの日々は、三十六年という人生で一番辛いものだった。
そんな辛い日々が半年くらい続いて、ミヨさんを毆ってしまったあの日以來、彼は智子を捜すのをピタッとやめた。それ以降、林を見ていないし、あの丘へと続く急坂さえ一度だって上っていない。
あの日、林へのり口が遠くに見えて、智子はそのずいぶん手前を左に曲がった。
それはきっと、伊藤がそうしたからで、今となってはもうどうでもいいことだ。
とにかく、あの場所さえ見つかればいい。それだけを思って林に向かうと、いきなり予想外の景が現れるのだ。
林の中へ続いていた道が、途中で跡形もなく消え失せていた。
それ以前に、林そのものがなくなっている。林だった辺りが高い塀で囲われ、遠くにお屋敷らしい建だけがポツンと見えた。
きっとどこかの大金持ちが、この辺り一帯を買い占めてしまったに違いない。
――どうする? このまま諦めて、帰ってしまうか?
一瞬だけ、剛志はそんなことを思う。しかしそうしてしまうには、あまりに不可解なところが何から何まで多すぎた。
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