《ロング・ロング・ラブ・ストーリーズ 4度目のさようなら that had occurred during the 172 years》第2章 1983年 プラス20 – 始まりから20年後 6 二十年前の約束(3)

6 二十年前の約束(3)

紛れもなく、それはあの巖だった。伊藤が指差したあの時のまま、不思議なくらい周りの景観とも調和している。

――元からある自然を利用して、きっとこの庭園を造ったんだな……。

そしてとにかく、一番不安だったところがこれで一気に解消された。

あの巖自が取り除かれていたら? そんな心配がこの瞬間に消え失せたのだ。剛志は出しきった尿と引き換えに、上手くいくかもしれないという小さな自信を手にれる。

実際にその後は、呆気ないくらいに一事が萬事順調だった。

まず、この辺りで起きたことだと前置きをして、あの事件のあらましをささっと説明。もちろんその場に居合わせたことや、逮捕されたなんてことには一切れない。

そうしておいて、剛志はいきなり頼むのだった。

「二十年前と同じ三月九日に、事件のあった場所、すなわちお宅の庭に、お邪魔させていただきたいのですが……」

なんとかお願いできないかと続けて、剛志は唐突に立ち上がり、さらに勢いよく頭を下げた。

――二十年前、自宅の庭で殺人事件があった。

そんな事実を今さらながら告げられ、イヤな顔の一つくらい見せたって普通のはずだ。

ただ、顔の半分近くを覆っているヒゲと、かなり縁の太いべっ甲メガネ――ご丁寧にレンズまでが茶――のせいで、表の変化そのものがわかりにくい。

それでも彼の態度や言葉には、嫌がる雰囲気など微塵もじられなかった。

「ああ、その事件のことなら知っています。犯人はおろか、その場に居合わせたの子も見つかっていないんですよね……。そうですか、そのために、あなたはわざわざ……」

妙に慨深げな反応をして、迷がっている印象など皆無なのだ。

きっと剛志が手でも合わせて、亡くなった二人――智子が生きているとは、巖倉氏だって考えてはいまい――を偲ぶくらいに思っているのだろう。

そしてその日の帰り際、彼はさらにこんなことまで言ってくれる。

「その日、妻は旅行でいませんし、わたしも午後から出かけて數日は戻りませんので、門扉は開けっ放しにしておきます。それから、ちょうどおっしゃっていた辺りに、小さいですが、日本風の離れがあるんです。そこは鍵など掛けていませんし、もしよかったら遠慮なく、その離れを使ってください。三月九日ならまだまだ寒い。それにもし、雨でも降っていればなお大変です。どうぞ用事がお済みになるまで、そこを自由にお使いいただいて構いませんから……」

きっと自分に、こんな対応はまずできない。

もしも立場が逆だったなら、不審がって會おうとしないことだってあるだろう。剛志はあらためてそんなことを思い、巖倉氏に心から謝したい気持ちになった。

こんな人だから、あんな屋敷に住めるくらいになったのか?

それとも金があるからこそ、こんなにまで人に優しくできるのか……?

どっちにしても、これ以上ないくらいにありがたい話には違いない。

三月九日の午後三時、剛志は庭園にお邪魔する。

そして用事が済めば、そのまま帰ってしまって構わない。

ところが、何をして用事が済んだと判斷するか、実際はそれさえ不明なままだ。

ただなくとも、これであの約束だけは果たせる目処がついたと言えた。

――二十年後、またこの場所に來てほしい。

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