《ロング・ロング・ラブ・ストーリーズ 4度目のさようなら that had occurred during the 172 years》第3章 1983年 プラス20 – 始まりから20年後 〜 3 止まっていた時

3 止まっていた時

それからしばらくして、二人は離れにある一室にいた。

大きい座卓に向かい合い、それぞれ張の面持ちを見せ合っている。

あの時、驚いた顔で振り返った智子へ、剛志はここぞとばかりに言い切ったのだ。

とにかく話がしたい、怪しい者じゃないから安心してほしいと告げて、彼をなんとか離れに招きれた。

きっと、剛志に會いたいどうこうよりも、知っているという事実が効いたのだと思う。

なくとも目の前の男が、別世界の人間ではないくらいには思えたに違いない。それからは、黙って剛志の後についてきて、差し出した座布団の上にチョコンと座った。

「実は、あなたを迎えにいってほしいと頼まれたんです。今日この時間に、あなたがこの場所に現れるから、心配することのないよう説明してほしいと……」

伊藤にそう頼まれたと告げて、剛志は智子の前に淹れたてのお茶を差し出した。

「実はあれから、しだけ時間が経っているんです。だから、火事はちょっと前のことですし、本當はこの場所も、火事のあったあの林とおんなじところなんですよ……」

そう告げた途端、智子はいきなり立ち上がった。驚いて目を見張る剛志に背を向け、そのまま和室に面した窓まで走る。そして窓ガラスに顔をりつけるようにして、さっきまで自分のいた辺りに目を向けた。

しかし、どうにも納得いかないのだろう。

釈然としない顔で振り返り、それでもしっかり核心だけは突いてくる。

「さっき、わたしがっていたのって、あそこになんとなく見えているあれ、ですよね? あれっていったい、なんなんですか?」

なんとなく見えている――とは、まさに上手く言ったものだった。

それは、近くからではまずわからない。緩やかなスロープもいつの間にか消え失せていて、一見そこには何もないように思えるのだ。

ところが距離を取ってから眺めると、そこに丸みを帯びた何かがある、という印象を強くける。しかしきっとそんなのも、ついさっきまでの経験がなかったならば、目の錯覚くらいにしか思えないに違いない。ただそんなわけで、智子の言いたい意味はすぐにわかった。

だから正直に、あれが何かはわからないんだと打ち明けてから、

「あなたはあれに、どうやってったんですか?」

と、ずっと気になっていた疑問を彼に向けて聲にした。

あの日、智子は伊藤を殘して、火事現場から一人消え失せる。それから二十年、彼の生存は確認されず、剛志でさえ死んだものと諦めていたのだ。

ところがどっこい智子はしっかり生きていた。見ている限りあの頃のまま、何ひとつ変わったように思えない。きっとあの日、剛志が駆けつけた時にはすでにあれに乗っていて、そしてそのまま、冷凍狀態にでもされたのか?

もしかすると、ものすごい速度で宇宙の果てまで行ってきたのかもしれない。その移速度がより速ければ、地球での二十年だって數日程度にじられるらしい。

確かあれは、〝猿の星〟だったと思う。

宇宙へ飛び立ったクルーたちが不時著した場所、それこそが猿の支配する星で、遠い未來に存在する地球だったというオチだ。

そんな事実が明らかとなるシーンを、剛志はテレビか何かで偶然目にした覚えがあった。

若かりし頃のチャールストン・ヘストンが、水か何かで滅びてしまった人類に向け、強烈なる悪態を浴びせかける。そんな映畫でも、クルーたちは冬眠狀態になっていたせいで、ほとんど歳を取らないまま未來の地球に帰還した。彼も同じような理由なら、庭に現れたこそが宇宙船だということになる。

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