４　十六歳の

かなり揺していたが、城に到著する頃にはずいぶんと落ち著きを取り戻していた。

もちろん本當は、今でも不安でいっぱいだろう。それでも智子はタクシーを降りると、

「すみません、お借りしたハンカチ、どこかでちゃんと洗って返しますから」

元気よくそう言って、剛志にチョコンと頭を下げた。

そこは駅前、街燈のすぐ下だ。剛志はそこで改めて智子の立ち姿に目をやった。

元はきっと白かったのだ。しかし乾いた泥で覆われて、運靴に白いところは殘っていない。セーターにもあちこちに草木とれた跡があり、さらに転んで付いたのか、スカートには茶い土がしっかりこびりついている。

そんな自分の姿に、智子はきっと気づいていない。

――まずは、彼の格好をなんとかしなきゃ……。

剛志はすぐにそう考えて、思ったままを智子へ告げた。すると彼も自分の姿に十分驚き、

「さっきのタクシーの座席、きっと汚しちゃったわ……どうしよう……？」

そんなことを呟きながら、スカートに付いた土を必死になってり始める。

剛志はそんな仕草がおしく、智子を思わず抱きしめたいなどと思ってしまった。

もちろんそんなことをしてしまえば、智子はきっと大聲をあげ、その後はどうなってしまうか見當もつかない。だから己のをグッと堪え、平靜を裝い智子に言った。

「服を買いましょう。このすぐ近所に、昔會社で一緒だったがやってるブティックがあるんですよ」

ただし店では、今日あったことは緒だと続けて、

「親戚だってことにしましょう。僕が適當に説明しますから、あなたは黙って、ただ笑っていれば大丈夫……」

そう言った後、財布にいくらっていたかを思い浮かべた。

こんなこともあろうかと、十萬ちょっとくらいれてあったはずだ。しかし城にあるブティックの中で、その店は十分高級な部類にるのだ。

――十萬じゃ、足りないか……？

三月とはいえまだまだ寒い。していたはずのマフラーも消えて、智子はコートさえ羽織っていない。

――もし足りなければ、明日、持ってくるからと頼んでみよう。

彼は素直にそう思って、人通りのない道を選んでブティック目指して歩いていった。

前れなしの登場に、店主はその目を白黒させる。それでもすぐに、り口に立つ剛志を見つめて嬉しそうに笑って見せた。それからひと通りの挨拶をわし、いよいよ智子のことを切り出そうとした時だった。

「あら、可い……こちら、児玉さんのお嬢さんです？　あれ？　ちょっと待って、児玉さん、結婚してましたっけ？」

五年前まで、剛志のアシスタントだった店主、藤本早苗が、真剣な顔でそんなことを言ってくる。だから剛志は慌てて、用意していた言葉を捲し立てた。

「違う違う！　昔世話になった親戚の娘さんだよ。ここにくる前にね、彼つまずいて転んじゃって、服を上から下まで汚しちゃったんだ。だからすまないけどさ、彼に似合いそうなやつを見繕ってもらえるかな……？」