《ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく》2話「勉強、勉強、また勉強」
前世の記憶が戻って初めての朝を迎えた。支度を整え、すぐに食堂へと向かう。
貴族の食事の作法の一つに食事は家族揃って食べるというものがある。と言っても、各貴族の家ごとに一緒に食べたり食べなかったりと差異はあるが、基本的には食事は同じテーブルで食べるのが一般的だ。
そして、食事は貴族家の當主がやってくるまで食べることができない。當主本人が先に食べてくれていいという許可があれば別だが、當主以外の家族は當主よりも先に食事を取ることが許されていないのである。
「では、いただこう」
家族全員が揃う中、マルベルト男爵家當主ランドールが朝食を食べる宣言をする。食堂には長さ十メートル幅四メートルという巨大なテーブルが設置され、そこに一定の間隔を開けて家族が椅子に座っている。
俺の父であるランドールは今年で二十二歳になる青年で、年齢にそぐわず悍な顔立ちと鋭い目つきが特徴的なイケメンだ。金髪碧眼の髪と瞳を持ち、その長も百八十センチ後半と高く、つきも武人とあって筋質だ。
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次に母クラリスは父と同じく艶のある長い金髪に緑眼を持ち顔つきは目鼻立ちがくっきりとしているものの、その雰囲気からおっとりとした印象をける人だ。二十歳という若さながらもとして均整取れたは、とても三人の子供を産んだとは思えないほどのプロポーションで、特にドレスを押し上げる二つの膨らみは圧巻の一言に盡きる。
そして、四歳になる俺の雙子の弟マークと妹ローラは、両親からけ継いだであろう金髪にこれまた両親からけ継いだ碧眼と緑眼の両方を持った所謂オッドアイで、マークは右目が碧眼左目が緑眼、ローラは右目が緑眼左目が碧眼となっている。
最後になったが、俺ことロランは今年で六歳になる年で例に違わず金髪だが、雙子たちとは異なり瞳は両目とも父親譲りの碧眼だ。六歳とあって長は百二十センチ前後と日本の六歳児の平均的な長ではあるが、この世界から見るとどうやら平均よりも高い部類にっているようだ。
「ロランよ。勉強は捗っておるか?」
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特にこれといった會話もなく食事をしていると、ランドールが俺に問い掛けてきた。今までの記憶を手繰り寄せたところ、六歳になると同時に本格的に家庭教師を付けての勉強が始まったばかりだということがわかった。
「あなた、まだ始まったばかりなんですからそんなに早く果は出ませんよ」
「……それもそうか」
父の問い掛けにどうこたえようか迷っていたら、母が諫めてくれた。さすがに始まって時間が経っていないのにそんなに早く果が出るのを期待されても困るので、母の言葉は正直助かった。
その後は何事もなく食事を済ませ、各々自分たちの部屋や仕事に向かって行く。俺も今後の計畫に向けてくため、とある場所へと足を運んだ。
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俺がやって來たのは、マルベルト家が所有するありとあらゆる書が納められている書斎だ。書斎と言ってもその規模は前世にあった地方の図書館並の規模があり、本棚に収納されている本の數はざっと見積もっても二千冊は下らない。
その分野も多種多様で歴史や専門的な知識、果ては絵本や小説など多岐にわたる。まだ勉強を始めたばかりということもあって、この世界の文字についてはどうなっているのかわからないが、計畫の実行のためには自分が知識を得ることは必須條件なため文字の修得を平行して他の勉強も同時並行で行う。
などという考えから、最初は簡単な絵本からスタートし軽く文字を覚えることにした。だが、この世界の文字は地球にいた時の文字と異なっているのかと思い意気込んで本を開いたのだが、なんと日本語が使用されていた。ただ、日本語と言っても使われている文字の種類が漢字だったり平仮名だったりカタカナだったりとまちまちで、読めるのだが読みにくかったりする。
とはいえ、前世で使っていた文字が使えるのは文字を覚える手間が省けてラッキーだったので、文字修得はすっ飛ばしてすぐに知識の詰め込みを行うことにした。
しばらく本の蟲と化していると、突如書斎のドアがノックされる。その音に瞬時に反応した俺は、すぐさま偽裝工作を施しってくる人間に対応する。的には読んでいた本を枕にして、あたかもそこでずっとサボっていたというような演技をしたのだ。
結果的にってきた人は、俺のの回りの世話をしてくれている世話係の侍ターニャだった。
栗のショートヘアーに黃がかった瞳を持つ十代後半のであり、つきは標準的で地味ではあるががある印象をける。俺の姿を見つけるなり、すぐに駆け寄ってくる。
「坊ちゃま、一なにをなされているのですかっ!?」
「見てわからない? 晝寢だよ、晝寢」
「まだ晝寢をするような時間ではありません! それと本を枕にしてはいけません!!」
俺の偽裝工作にまんまと嵌ったターニャは、その行為を諫める。貴族の嫡男としてあるまじき行為であるのは當然として、本という自が容的にも金額的にもとても価値のあるものであるからだ。
ターニャの言葉を渋々という雰囲気を醸し出しつつその言葉に従ってを起こす。ここで大事なのは、あくまでも“渋々”というニュアンスを持たせることにある。
どういうことかといえば、彼に自分が注意しなければいつまでもそうしていたという印象を抱かせることが重要であり、誰もいないところではそういうことを平然とやっているということを相手に思わせるのが本當の狙いだからだ。
「今日は新しい家庭教師の先生がやってくるのですから、すぐにお部屋にお戻りくださいませ」
「……ちっ、そういえばそうだったな。仕方ない」
そう吐き捨てるように呟くと、俺は書斎に散した本をそのままに部屋を出た。當然これも自分勝手な人間だと思わせるための演技である。
書斎からその足で自分の部屋へと戻ってきた俺は、新しい家庭教師がやってくるまでの間に書斎で読んでいた本の容を脳で復習する。一刻も早くこの世界の常識や貴族の當主になるために必要な知識を覚え、その全てを我が弟マークに叩き込まねばならない。
それもこれもすべては俺がこの家の當主にならないようにするためだ。時間は掛かるが、これが一番の近道だと信じて今は自分のできることをやっていくしかないと心に決める。
そんなこんなで、しばらく部屋でぼーっとしていると突然部屋のドアがノックされターニャがってくる。どうやら俺が散らかした本を片付けた後、家庭教師を出迎えに行っていたらしい。
「坊ちゃま、こちらは坊ちゃまにお勉強を教えてくださるサリエール先生です」
「ロラン様、初めまして。私があなた様の家庭教師を務めさせていただくサリエールと申します。以後お見知りおきを」
そう言って俺に恭しく頭を垂れてきたのは、二十代中頃のだった。特にこれといった特徴はないが、知識人特有の落ち著いた雰囲気を纏ったであることが窺える。
「そうか、よろしく頼む」
「では、さっそくですが勉強を始めていきましょう」
こうして、新たな家庭教師のもとでお勉強がスタートした。
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