《ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく》5話「ネガティブキャンペーン(兄ロラン)」

父ランドールに連れられて、俺はローグ村へとやって來た。マルベルト男爵領には四つの村があり、ローグ村は俺が住む屋敷から最も距離が近く徒歩三十分ほどの場所にある村だ。

マルベルト男爵領には五百人ほどの領民がおり、それぞれ四つの村に百三十人弱ほどが住んでいる。村には特質すべき建などはなく、々が雑貨屋や酒場といった場所があるくらいだ。

父と俺、そして父の護衛二人と俺の護衛一人の合計五人でローグ村に足を踏みれると、ローグ村の村長が出迎えてくれた。

「これはこれは領主様、ようこそおいでくださいました」

「うむ」

白髪白髭の村長の仰々しい言葉に、珍しく橫風な態度で父が頷く。領主としての威厳を保つためなのか、はたまた息子である俺の前で格好を付けたいだけなのかは定かではないが、いつもと違う父の雰囲気に新鮮さをじる。

(まあ、無理矢理に連れて來られたが、これは俺にとっても都合が良かったかもな。せっかく村に連れて來てもらったことだし、し計畫を前倒しにするとしようか)

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俺がそんなことを考えていると、村長が俺に目を向けていることに気付いたので俺も村長に顔を向ける。

「領主様、こちらの坊ちゃんはもしや」

「うむ、息子だ。ロラン、挨拶をしろ」

父に促され、俺は自己紹介をすることになったが、ここは高慢なドラ息子という印象を與えたいのであからさまな風を裝って口を開いた。

「マルベルト男爵家次期當主のロランだ。せいぜい俺が當主になった時に楽ができるよう、今からしっかりと勵んでおけよ」

「……」

「……」

俺のあまりにもあまりな自己紹介に、二人とも言葉を失っている。特に父であるランドールは、眉を寄せ俺の言に嫌悪を抱いているのが見て取れる。

一緒に付いてきた護衛も、そのあまりの傲岸不遜な態度に困した様子だが、余計な口を開いて不興を買わないようにと考えているのか、俺の態度を窘めることはしない。

それから、村長が當り障りのない返答をしたあと、二人とも大事な話があるということでその間村でも見學して來いと父に言い付かった。

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二人に悪印象を與えることに功した俺は、誰にもバレないように小さくガッツポーズをしたあと、更に印象を悪くするべく俺の護衛を擔當している者と共に村唯一の雑貨屋に向かった。

雑貨屋には、料理に使用する調味料や生活必需品などの品々が所狹しと陳列されており、竃に使う薪から畑を耕す鍬など取り扱っているラインナップは多種多様だ。

「いらっしゃい」

三十代くらいの男店主が元気な聲で出迎えてくれたが、それはそれを無視して品を舐めまわすように見て回る。そして、あからさまに不機嫌に鼻を鳴らすと、俺は店主に問い掛ける。

「おい、ここにはまともなものはないのか?」

「見ての通り扱ってるのは村の必需品がほとんどです。坊ちゃまの眼鏡に適う品はありません」

俺の問いに遜って店主が答える。どうやら領主の息子が村に來ることは村長から知らされていたようで、最低限の禮儀は守っているようだ。ここで無禮な態度を取ればそれをネタに叱責してやろうかと考えていたが、當てが外れてしまった。

さて、ここでも俺に対して悪印象を植え付けるため、ドラ息子のテンプレであるあのイベントを消化しておこう。

「ほう、これは……水あめか」

「はい、ちょうど昨日村にやってきました行商人から仕れました。數はないですが、質のいいものが手にり――」

「もらっておこう。じゃあな」

「へ?」

そう言いながら、俺は護衛の男に指示し水あめのった小壺を持ってこさせる。そして、金を払うことなく俺はその場を後にした。

水あめの代金を支払っていないと追いかけてくるかと思ったが、予想に反して追いかけてこなかったためここでも傍若無人モードは出さずに次の場所へと向かう。

次にやって來たのは畑で、小麥や豆類などといった比較的どんな貧相な土地でも育つと言われている作がほとんどだ。栄養価の高いとされている野菜類は、育てばいいが育たなければ種を購した分の代金が無駄となってしまうため、基本的に確実に育つ作しか扱えないのである。

畑には十數人の村人が畑仕事に従事しており、全員が額に汗して働いている。そんな真面目に仕事をしている人間がいるところに俺はずけずけと畑に侵し、立て掛けてあった鍬を手に取り畑を耕し始めた。

「見ていろ! 次期當主であるこの俺ロラン様が、畑仕事を手伝ってやる。栄に思うがいい!!」

「お、おやめください! そこはすでに耕した場所でございます!!」

「坊ちゃま、おやめください!」

護衛の男と近くにいた村人の二人が駆け寄って來て靜止するも、當然そんなことなどお構いなしに鍬を振るい続ける。村人たちが汗水たらして整地したであろう畑は、ものの數分と経たずに単なる土くれが散する場所とり果ててしまった。

そんな騒ぎが起きれば、近くにいた村人たちが集まってくるのは必然であり、その騒ぎが村全に伝わるのもごく自然だ。そして、その騒ぎを聞きつけた村長と俺の父親がやってくるのも極々自然な流れであるからして――。

「なにをやっている?」

我が父ランドールが発した普段の數倍低く重い聲が、俺の耳に響き渡る。聲の主がいるであろう場所を振り向くと、眉間にこれでもかという皺を寄せた父と困した表を浮かべた村長がいた。

どうやら俺の狙い通り、村人たちの騒ぎを聞きつけた父と村長が騒ぎの中心にやってきたところで俺を発見したというり行きだろう。父の問い掛けに俺は自信満々に答えてやった。

「村人たちの畑仕事の手伝いをしていたのです。いずれ當主となるこの俺が領民の仕事を経験するのは決して無駄ではないことですから」

「この愚か者め! 誰がそんなことをしろと言ったのだ!?」

「りょ、領主様、さすがにこれは……」

俺の愚行を叱責する父に対し、さすがの村長も黙って見ているというわけにもいかず何か言いたそうな雰囲気を出す。父もその言わんとしている容を理解しているのか、謝罪の言葉を口にする。

「すまない村長。我が愚息が迷を掛けた」

「それはよいのですが、この狀態の畑を元に戻すのは相當骨でございまして……」

「わかっている。詫びと言ってはなんだが、今年の稅率を幾ばくか引き下げる。それでこの場はおさめてしい」

その後、父が稅率を引き下げることで対応したようだが、それで俺の失態が消えるわけもなく父のかみなりが炸裂し「お前はもう屋敷に戻っていろ」というお言葉を頂いた。

さらにダメ押しで「俺が一なにをしたというのですか?」と言ってやったら頭に拳骨を落とされ、俺の護衛をしていた男に無理矢理引っ張られるようにして屋敷に強制送還された。

かくして、俺に対するネガティブキャンペーンは大功し、俺は心でほくそ笑みながらも次なる計畫に向けてき出すのであった。

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