《ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく》14話「父の葛藤と決意」

~side ランドール~

私の名はランドール・フォン・マルベルト。マルベルト領の初代當主である。

初代といっても、マルベルト家の歴史はそれほど長い年月が経過しているわけではない。寧ろ、まだ始まったばかりだ。

先の戦爭によって立てた武功により、運よく男爵の位とこのマルベルトの地を賜下されただけで未だ開拓途中の弱小領地だ。

領民の數もいまだ五百に屆くか屆かないかというくらいで、隣領のバイレウス領と比べれば天と地ほどの差がある。

そんな私にも最の妻との間に三人の子寶に恵まれ、後継ぎができたことで安心しきっていたのだが、そこで問題が起きた。

我が息子であるロランが何を迷ったか事あるごとに愚かな行為をするようになってしまったのだ。

どこで教育を間違えたのかと頭を抱える日々が続いたが、そんな中一筋の明が差す出來事が起こった。

もう一人の雙子の息子のマークが、様々な才能を開花し始めたのだ。

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僅か五歳にして読み書きを覚え、剣や魔法を教えればすぐに習得し自分のものとしてしまう。

そのあまりの才能に親である私ですら嫉妬したほどだ。

だが、だからこそ私は選択を間違えることはできない。その選択とは即ち……そう、後継者を誰にするかという選択だ。

ロランが生まれた當初は、我が後継は長男であるロランがなるはずであった。しかし、ロランの度重なる愚行により屋敷の使用人や村の領民たちの信頼は地に落ちてしまった。

一方のマークはその類まれなる優秀さと溫和で優しい格が人々に好かれ、今では次の後継者はマークだと噂されるほどだ。

最終的な後継者は當主である私に判斷が委ねられているが、周囲の人間の意見を重視することもまた重要なことだと私は考えている。

そんな折、隣領のバイレウス辺境伯が視察のため我が領地に來訪する機會があった。おそらく目的は、私の次の後継を見定めるためだだろう。

バイレウス辺境伯の目から見ても長男ロランは後継者としてはふさわしくないと考えるだろう。なにせ親である私ですらそう思っているのだから。まったく、我が息子ながら頭が痛い思いだ。

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「ランドール殿?」

そんなことを頭の中で考えていると、いつの間にか黙り込んでいた私を不審に思ったのだろう。バイレウス辺境伯が訝し気に私の名を呼んだ。

なんとか取り繕うと口を開こうとしたその時、バイレウス辺境伯が先に聲を上げた。

「後継のことで悩んでいるのだろう?」

「……!?」

を言い當てられ、數瞬反応するのが遅れてしまった。バイレウス辺境伯の言葉は反応するのが遅れるほど私の中で大きな問題としてのしかかっていたのだ。

これ以上隠し通すことはできないと諦め、私は彼に自の思いを語った。

「私は一どうすればいいのでしょうか?」

「そんなことは俺の知ったことではない」

彼の尤もな言葉に私は顔を俯かせた。しかし、バイレウス辺境伯はさらに言葉を続ける。

「知ったことではないが、俺がランドール殿の立場なら……俺は迷わずマークを選ぶだろうな」

「理由を聞いても?」

「貴族とは元來優秀な人間が當主を務めることでやってきた存在だからだ。最近の王都の貴族たちはその権力を笠に著せ私腹をやし、民に重稅を課している。実に愚かな行為だ」

そう吐き捨てながら、バイレウス辺境伯はそばにあった大木を拳で毆りつけた。それだけで十數メートルはあろうかという大木がその衝撃で今にも折れてしまいそうなほど軋む。

平民での私とは違い、バイレウス家はその歴史もそれなりにあり、現在の當主で六代目だと聞いている。

これはひとづてに聞いた話だが、バイレウス辺境伯の四代前つまり二代目當主がの頃から素行が悪く、それこそロランのように振舞っていたらしい。

そして、その二代目に代替わりした途端に領地の経営が立ち行かなくなってしまい、なんとかギリギリの狀態を維持していたのが優秀だった弟だ。

兄の素行の悪さを見かねた二代目の弟であるのちの三代目が幾度となく兄の行を諫めたが、弟の言葉など耳にらず暴の限りを盡くしていたそうだ。

そんな中、とうとう王都から監査が視察に訪れこれ以上領地経営が改善されなければ爵位と領地を召し上げるとお達しをけてしまった。

そして、三代目はとうとう兄である二代目を見限り自分が新たな當主として発起することにしたのだが、當然ながら二代目はそれを良しとはせず実の兄弟での継承爭いにまで発展する。

を洗う激しい戦の末、最終的に弟が勝ち當主の座を手にれた。

それから、新當主の制のもと経営改善のための改革が行われ、なんとか領地を立て直すことに功したという過去がある。

そして、三代目以降バイレウス家の家訓に【傲慢になるべからず、常に謙虛であれ】という言葉がいつしか加えられた。

バイレウスの歴史の中でもこの話はかなり有名で、子供の時によく聞かされる話としてシェルズ王國中に知れ渡っているほどだ。

今の私の置かれている狀況が過去のバイレウス家の狀況と似ていることを危懼しているのだろう。バイレウス辺境伯の気遣いが伝わってくる。

「まあ、なんにせよ。最後に決めるのはランドール殿だ。悔いのないようにな」

「お心遣い、痛みります」

結局のところ最後に決めるのは他でもない私自ということなのだろう。だからこそ、バイレウス辺境伯は自分の意見を述べはするが、それを押し付けることはしてこない。

最終的にロランかマークのどちらかを選ばなければならない時が來たら、どちらを選ぶにせよその決斷に悔いを殘さないようにしようと私は決意を新たにした。

視察も一段落して一度屋敷に戻ると、何やら屋敷の使用人が慌ただしくいている。

どうしたことだと思っていると、一人の侍が駆け寄ってくる。顔に覚えがないのでバイレウス家の使用人だろう。

「だ、旦那様大変です!」

「どうしたリリン」

「お、お嬢様が。ローレンお嬢様の行方がわからなくなってしまいました」

「なんだと!?」

珍しく狼狽えるバイレウス辺境伯だったが、すぐに平靜を取り戻し侍に引き続き娘の捜索をするよう命じる。

私も近くにいた使用人に命じ、可能な限りの人出で捜索するよう指示を出した。

「ランドール殿、申し訳ないが視察は一旦保留とさせていただきたい」

「わかっております。こちらも可能な限りの人出を出して捜索させましょう」

「すまない」

しばらく彼と二人で屋敷の周辺を探してみたが、ローレン嬢は見つからずもうすぐ日が暮れ始めようとしたその時、屋敷の裏手にある森から數人の人影が出てくるのが見えた。

その人影の正を知るべく足を向けてみる。すると、そこにいたのは探し人のローレン嬢とロランにマークとローラの四人であった。

なぜこの四人が行を共にしているのかという疑問があったが、ローレン嬢のドレスが泥で汚れているところを鑑みるに、森の中でなにかあったのは確かだ。

ひとまず狀況を把握するため、私はなにがあったか問い掛けることにした。

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