《ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく》24話「自由になってもネガティブキャンペーンは続く」
男の案に従ってやってきたのは、冒険者ギルドの裏手にある演習場だった。
踏み固められた土に遠距離練習用の人型を模した木製の的や巻き藁らしきものも設置されている。
よく見ると訓練している冒険者もちらほらいて、こちらが演習場にやってきたときに視線を向けてくる者もいた。
そして、演習場の中心部にある武舞臺のような正方形の舞臺があって、主に模擬試合を行う場所らしい。
酒場にいた冒険者たちも俺とラボラスの決著が気になるのか、ぞろぞろと後ろをついてきていた。……己金魚の糞共め。
「ここで模擬試合をする。このDランク冒険者のラボラス様を怒らせるとどうなるのか、そのにたっぷりと教えてやるぜ!」
そう言いながら醜い顔をさらに醜悪な笑みに染めるラボラスに対し、心で顔を顰めつつも何とか顔に出さないようにする。
ここから俺が得意とする一計を案じる時が來たのだ。まあ、ネガティブキャンペーン再びってところだなこりゃ。
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模擬戦のルールは実にシンプルで、參ったと宣言するか続行不可能と見なされた場合負けとなる。
審判はマリアンが務めてくれるらしく、武舞臺の定位置に颯爽と陣取った。
「それではお互い正々堂々戦ってくださいね」
彼の言葉に俺もラボラスも互いに頷き、一定の距離を取る。距離が取れたところで、相手のラボラスの能力を鑑定する。
【名前】:ラボラス
【年齢】:二十八歳
【別】:男
【種族】:人間
【職業】:冒険者(Dランク)
力:500
魔力:200
筋力:D+
耐久力:D
素早さ:E
用さ:F
神力:D+
抵抗力:D−
幸運:F-
【スキル】:剣Lv2、格闘Lv2
(ふーん、しょぼいな。この程度の能力で俺に突っかかってきたのか?)
あまりの能力の低さに思わず検定結果を二度見してしまったが、どうやら俺の見間違いではなくこれがラボラスが持つ実力のすべてのようだ。
他の冒険者たちも鑑定してみるが、これといって特質すべき者はおらず々一般の兵士と同等レベルだった。一人を除いては……。
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相手の実力を知ってどうしたものかと考えていたその時、ラボラスが何かを投げてよこしてきた。どうやら訓練用の木剣のようだ。
「ふん、お前みたいな実力もねぇ口だけの世間知らず、素手で十分だ。おら、かかってこいやぁー!!」
(木剣すらも使わねぇとかどんだけ舐めてんだよ……)
相手の実力云々よりもまず人としての禮儀がなっていないことに呆れを含んだ視線を向けるも、俺の視線の意図など理解していないのか太い腕をぶんぶんと振り回している。
ラボラスにも聞こえるようにはっきりと嘆息した俺は、気だるげに木剣を拾うと基本的な剣の型の構えを取る。
「ほう、構えだけは一丁前だな」
「でも相手はあのラボラスだぜ。勝てっこねぇよ」
「あの坊主、死んだな」
などと周囲の冒険者が口々に発するも、俺は特に反応することなく試合開始の合図を待つ。それと同時にで循環させていた魔力を作し、強化の魔法を一時的に遮斷する。
「二人とも準備は整いましたね? ……それでは、始め!」
マリアンの試合開始の合図と共に、ラボラスがこちらに向かって……こないだと?
俺の予想ではああいた脳筋タイプは力に任せて突っ込んでくると思ったんだが、宛が外れたな。
俺が突っ込んでこないのを様子見だと思ったのか、ふんぞり返った態度でラボラスが挑発する。
「どうしたどうしたよーい! 先手はおめぇに譲ってやっからよ。さっさとせめてこいやー。それとも今更になって怖気づいちまったのかー。おお?」
(仕方ない、ここはこちらから手を出すとしよう)
これ以上まごまごしていても無駄に時間を消費してしまうと考えた俺は、こちらの様子を窺っている人を警戒しながら地面を蹴ってラボラスに接近する。
そして、できるだけ……そう、できるだけ力を籠めずにこちらの攻撃を避けやすいように木剣を橫なぎに振るう。
「おっと。へぇー、ちったあ剣に心得があるようじゃねぇか。ほら、どんどんきやがれ!」
では、お言葉に甘えて攻めさせてもらおう。
ラボラスの言葉通り、俺は奴に木剣で攻撃を仕掛けていく。袈裟斬り、突き、橫薙ぎといった剣の基本的な型を放っていくが、盡くラボラスに躱されてしまう。
しばらくラボラスの防戦が続いたが、俺が肩で息をする演技を見せ始めると今まで防戦だったラボラスがここで攻撃に転じた。
「今度はこっちの番だ。食らいやがれぇー!!」
「ぐはっ」
ラボラスの放った拳が俺の鳩尾にクリーンヒットする。堪らずそのが宙に投げ出され、地面に叩きつけられる。
俺が立ち上がる気配がないことをじると、倉を摑んで無理矢理にを起こされる。
その顔を優越に浸ったような醜い顔を浮かべながら、罵聲を浴びせかけられる。
「世の中のことを何もわかってねぇガキが。調子に乗るんじゃねぇ!!」
「うっ」
さらに顔面に拳を叩きつけられ、再び地面に伏す。……くそう、反撃したいがここは我慢だ。我慢。
俺の無様な醜態を曬している演技を見て、汚らしいだみ聲でラボラスが笑う。それを見た審判のマリアンが、試合を止めようとするのだが――。
「ラボラスさん、そこまでです!」
「あん? 何言ってやがる。これからが面白くなるんじゃねぇか?」
彼の制止も聞かず、ラボラスは俺へと近づき再び倉を摑み持ち上げる。そして、その狀態でまるで嬲るように毆りつけていく。
一つ一つの拳が俺の顔、、腹へと突き刺さり、その衝撃を伝達させ痛みという信號に変換する。
このままでは嬲り殺しにされると考えたのか、マリアンの悲鳴のような聲が響き渡る。
「いい加減にしてください!! ラボラスさん、このまま続けるのなら冒険者の資格を剝奪することになりますよ!?」
「ちっ。おい、小僧。これに懲りたら二度と調子に乗らねぇこった。しでも長生きしたいのならなっ!!」
そう言い放ち、まるで俺をゴミくずのように放り投げる。それを見屆けたラボラスは“ふん”と鼻を鳴らし、演習場をあとにした。
二人の決著を見屆けた他の冒険者たちも、興味をなくしたようにラボラスに続いた。あの冒険者も同じように……。
「大丈夫ですか!? ローランドさん!! しっかり、しっかりしてください!!」
「あ、あたし治癒師の人を呼んできます!」
一方、最悪の結末を迎えてしまったと勘違いしているマリアンは、俺に駆け寄りそのを揺すって安否の確認をしてくる。
大怪我をしている可能のある人間を揺するのはいかがなものかと頭の中で思いつつも、しばらく彼のなすがままの狀態に甘んじる。
ニコルはニコルでこの狀況を良しとせず、俺の怪我の治療のためギルド常駐の治癒師を呼びに駆け出して行った。
(全員行ったな……)
他の冒険者と俺が警戒していた人の気配が遠ざかったところで、強化の魔法と水魔法の治癒魔法を無詠唱で発させて瞬く間に傷を癒し、元の狀態に完全回復する。
ひとまずについていた傷の治療が完了した。尤も、ラボラスによってつけられた傷は一つもなく、自分で自分のを地面に叩きつけたことでついた傷なのだがな……。
「ローランドさん! ローランドさん!!」
「……なんだ? さっきからうるさいんだが」
「うぇ?」
俺を呼ぶ聲がうるさかったので、その聲に応えてみると返事を返されると思っていなかったのか、変な聲をマリアンが出す。
そうこうしているうちに、ニコルが治癒師を連れてきた。見たところ四十代の中年男で、これといった特徴のない人だ。
「つ、連れてきましたー。ってあれ?」
「悪いが、治癒の必要はないぞ」
「ニコルちゃん、これは一?」
治療の必要はないとばかりに俺は両手を広げる。それを見た治癒師がニコルに詰め寄る。顔は笑顔だが、マリアンと同じように負のオーラが出ているので、怒っているようだ。
俺はニコルをフォローする意味で、派手に毆られたが実際大したことはないと治癒師に説明し、持ち場にお帰り願った。
とりあえず、面倒事は済んだので薬草の清算のお金は明日け取ることにし、その旨をマリアンたちに伝えその場をあとにしようとした。
「ローランドさん、あなたは一何者なんです?」
「それを君が知る必要はない」
マリアンの問いに対し、意味ありげな言葉を殘しつつ俺は裏口から演習場をあとにした。表から出るとまだラボラスが酒場にいそうだったからだ。
いろいろあったが、ひとまずごまかすことには功したのでそのまま街の散策に出かけることにした。
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