《ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく》閑話 「商人戦爭 ローランドの納品した素材の顛末 後編」

當然供給量に対し、需要が追いついていないため件の素材の価格は高騰し、それに伴い職人たちの作ったものも軒並み価格が上昇した。

そして、俺が高品質なダッシュボアの素材と出會って六日目、朝の早い時間帯だというのに商業ギルドは數十人の商人でごった返していた。目的は言うまでもなく高品質なダッシュボアの素材の買い付けだ。

「なあ、聞いたか?」

「ああ、例の駆け出し冒険者の話だろ?」

「トーマスが冒険者ギルドに直接その冒険者に指名依頼を出そうとしたら斷られたそうだ」

「他の商人や職人たちの依頼もすべて斷られてるらしいぞ」

「冒険者ギルドの言い分としては、駆け出し冒険者に負擔を掛けたくないって話だが、要は商業ギルドと結託して利益を獨占したいだけなんだろうよ」

商業ギルドの業務開始までの時間、待っていた俺の近くの商人たちからそんな話がれ聞こえてきた。

これだけ報がれてしまえば、當然素材の出どころが気になるのが普通だ。俺もできる限りの報を集めたところ、冒険者ギルドのとある駆け出し冒険者が素材を納品しているということがわかった。

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しかし、それだけ報が出ているにもかかわらず、誰もその駆け出し冒険者と接できた者はいない。理由は単純で冒険者ギルドが件の冒険者を守っているからだ。

素材の出どころがわかっているのであれば、そこに直接依頼を出せばいい。誰もが考える當たり前のことだが、それができない理由があった。

さっきの商人の話にも出たが、素材の出どころを突き止めた商人や職人たちがこぞって冒険者ギルドに依頼を出した。しかし、その依頼が理されることはなかったのだ。

なぜなら冒険者ギルドと商業ギルドが相互関係にあるからだ。

二つの組織は元々一つの組織だったこともあり、長年に渡って既得権益というものを保持してきた。

冒険者ギルドは冒険者が手にれた素材を買い取り、それを買い取った分の金額に利益を上乗せした金額で商業ギルドに卸している。

商業ギルドはさらにその買い取った金額に利益を上乗せした金額を商人などに売り付けることで、お互いに利益が発生するようにしているのだ。

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しかしここで他の外部の人間が直接素材を手にれるような真似をすれば、冒険者ギルドと商業ギルドの間に他の第三者が介することになってしまい、商業ギルドが手にれるはずだった利益をそっくりそのまま奪ってしまうことになるのである。

そういった理由から基本的に冒険者ギルドは、例外を除いて依頼主が冒険者に直接素材を手にれさせるような依頼を理することはない。

しかし抜け道のような方法としての一例を挙げるのであれば、冒険者に“この素材を手にれてきてほしい”という依頼は理しないが、“この素材を手して冒険者ギルドに納品してほしい”という依頼は理できたりする。

そして、商業ギルドはその納品された品をそれを求めている依頼主に優先的に販売するのだ。

これが冒険者ギルドと商業ギルドとの間で長年培ってきた相互関係と既得損益の全貌なのである。

ここで話は変わるが、そのような権利を主張して國は黙っていないのかという疑問を抱く者もいるだろう。次にこの二つのギルドの立ち位置を説明しよう。

冒険者ギルド並びに商業ギルドは國に屬していない組織であり、國の影響を一切けることのない獨立団なのだ。

かつて時の権力者だったとある國の國王が、冒険者ギルドと商業ギルドの保持する権益を我がにしようと、権力に訴えかけてきたことがあった。

それをけた両ギルドは、他國のギルドと協力しその國からすべての冒険者ギルドと商業ギルドを撤退させる措置を取った。

その結果として、國にいた冒険者と商人の數が激減し経済が回らなくなり、経済破綻にまで追い込まれる事態へと発展した。

のちにその國は、攻め込んできた他國によって滅ぼされ、今では古い歴史書に名を殘すだけとなったのである。

このことを教訓に、周辺諸國の王たちの間である暗黙のルールが作られることになった。そのルールとは――。

“冒険者ギルドと商業ギルドには手を出すな”である。

その事件を境に、冒険者ギルドと商業ギルドは國ですら手が出せない獨立した組織となり、確固たる地位を確立してきたという訳なのである。

「おっ、どうやら始まるみたいだぞ」

「やっとか、待ちくたびれたぜ」

ようやく商業ギルドの付業務が開始される時間となり、シャーリーンが姿を現す。ここ數日の間にいつの間にか彼がダッシュボアの素材擔當者となっており、今まで開催された競売も彼が取り仕切ってきた。

「皆様、おはようございます。本日は競売を始める前に、皆様へ告知しておかなければならないことがございます」

の言葉を皮切りに周囲が騒がしくなる。彼の口から何が語られるのかと見守っていると、それはとんでもない容だった。

「誠に申し訳ございませんが、本日競売にかける予定のダッシュボアの素材が品薄となっておりまして、前回よりも提供できる量に限りがございます」

その言葉が放たれた瞬間周囲の音が消えた。そして、彼の言葉を理解した剎那それはざわつきとなって返ってくる。

「ど、どいうことだ!?」

「なんで突然品薄になるんだ!?」

「納品している冒険者が怪我でもしたのか!?」

まさに阿鼻喚とはこのことで、自分たちが買い付けに來た品がない事実にあるものは憤慨し、ある者は疑問を投げかける者もいた。

騒ぎが収まらないかに見えたその時、突如として“ぱんっ”という大きな音が響き渡る。音の発生源は擔當者のシャーリーンだ。その音でギルド全が靜寂に包まれる。

「本日、冒険者ギルドより新しい素材が荷しました。ダッシュボアが品薄なのは、納品されたその素材を手した冒険者が優先した結果だと考えております」

シャーリーンの言葉に再び場がどよめき立つ。彼の続きの言葉を聞き逃さないようすぐにそれは小さくなっていく。

「今回の競売はダッシュボアの素材と合わせてそちらの素材も競売にかけますので、買い付け希の方はってご參加いただきますようお願いいたします」

「その素材とはどんな素材なんだ!?」

の焦らすような言いに、とうとう我慢できなくなった商人が聲高に聲を上げる。

その問いに答えるように、シャーリーンの口からその素材が何なのかが語られた。

「本日新たに荷した商品。それは……フォレストウルフです」

その瞬間今日一番のざわつきがギルドに響き渡る。

予想外の品の登場に歓喜の雄たけびを上げる商人もいたほどだ。

「聞いたか!? フォレストウルフだってよ!」

「ああ、これは戦爭になるな……」

その商人の言葉に俺も心で同意する。これはとんでもないことになったぞ……。

フォレストウルフ……それは、ダッシュボアより一つ上のランクであり素材としてもダッシュボアの上位互換と言われているモンスターだ。

はダッシュボアよりも味であり、皮も丈夫で質が良く、魔石も大きく、骨や牙なども含めすべて品質がいいとされている。

だからこそ、商人たちの目のが変わるのも仕方のないことであり、さらに最悪の事態を招くことにもなった。

(やはりあれは參加してくるだろうな……くそっ)

実を言えば、この競売には何もダッシュボアの素材がしい商人だけが參加しているわけではない。競売には參加しないが見學をする人間もいる。

それは商人の中でも自の店舗を持ち、ある程度の稼ぎを出している中規模の商人たちだ。

そういった連中にとってダッシュボアの素材はそれほど魅力的なものではなく、そのため競売には參加せずその様子だけを傍観するだけのはずだった。

ところが土壇場でフォレストウルフの素材が競売にかけられるという弾が投下されたことで、さすがの連中も黙って見ているという訳にはいかなくなったということだ。

これがただのフォレストウルフであればおそらく彼らはなんの興味も持たなかっただろうが、最高品質のフォレストウルフの素材であれば話は変わってくる。

ダッシュボアでさえ相場の數倍の値段で取引されているのだ。これがさらに上位のフォレストウルフともなればその売り上げはダッシュボアの比ではない。

だからこそ連中も目のを変えて參戦してくるだろう。そうなったら、商人の中でも若手の俺など到底太刀打ちできない。

「それでは、只今より競売を始めたいと思います」

(こうなったら、ダメもとで當たって砕けてやる!!)

それからの記憶はただ必死になって限界まで札を繰り返したが、結局フォレストウルフの素材は中規模の商人連中に買い占められてしまった。

あとになってダッシュボアの素材の競売も行われたが、買い付けられなかった中規模の商人に掠め取られてしまい、結果として何も仕れることができなかったのである。

(どうしてこうなった? 俺が最初に見つけたものだったのに……)

こうして商人たちの熾烈な商戦は終わりを告げ、そのまま流れるように解散となった。

何も買えなかった悔しさが殘りつつも、次の仕れに備えるべく俺はギルドの目録を手に取り、目録とのにらめっこを開始したのであった。

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