《ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく》36話「知らないうちに大事になっていた」

「ということがあったわけですよ」

「まさかそんな大事になっているとは……」

ギルドマスターとの邂逅の翌日、冒険者ギルドに赴くとニコルが昨日納品したフォレストウルフの素材がどうなったのかという話を聞かせてくれた。

何でも、フォレストウルフ自が素材的にダッシュボアの上位互換のような位置付けにあり、ダッシュボアよりも討伐の難易度が難しいとあって価格が凄いことになったらしい。

俺が元から納品していたダッシュボアの人気も高く買い付けに來た商人たちが殺到しすぎたため、商業ギルドとしては異例の最も高値を付けた人に販売する権利を與えるという競売方式で、売り手を決める選択肢を取る事態になっているらしい。

當然フォレストウルフの素材も競売に掛けられたが、參加する予定のなかった中規模の商人たちが目のを変えて參戦してきたため、販売価格も相場の何倍にも膨れ上がったとのことだ。

そこまでのことになっていると聞かされた時、ふと疑問に思ったことがあった。それをそのままニコルにぶつけてみる。

「そこまで人気になってるなら俺に直接依頼がありそうなんだが?」

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「ああ、そういう依頼は注しないようにしてるんですよ」

「なんでだ?」

「実はですね……」

ニコルの説明では、冒険者ギルドと商業ギルドはお互いの利益を確保するため、協力関係にあるということだった。

既得損益とかいう難しい言葉も出てきたが、要はお互いに儲かるシステムを構築しているいうことは何となくわかった。

それから過去にその権利を我がにしようとする権力者がいたらしいが、その國にいた冒険者ギルドと商業ギルドを撤退させたことで國が滅んだらしい。

それを教訓に周辺の國々は、冒険者ギルドと商業ギルドには手を出さないという決まりができたというところまで聞いた。

「なんか、いろいろとすごい話だな」

「そうですね。というわけで今日もお願いしますね」

「これ俺が素材を納品しなくなったら大変だな?」

「……お願いしますね?」

冗談めかして素材の納品をしないことを仄めかしてみたが、営業スマイルで返されてしまった。

しかし、俺にはニコルの心の聲が聞こえた。「そんなことしたらどうなるのかわかってんだろうな?」という聲が……。

の笑顔という名の無言の重圧に肩をすくめて答えると、俺はいつもの狩り場へと出かけた。

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街を出てから強化付きの疾走で數分の距離にある草原へとやってくる。

前回は森の探索でダッシュボアをあまり狩れなかったので、今回はそれなりに狩っておく。

ニコルの話を聞いてフォレストウルフの素材にも需要があることがわかったので、そっちの方も一定數狩ることにする。

「もう魔法鞄の容量が足りなくなってきているな。こりゃ早くお金を貯めて次の魔法鞄を買わないといかんかもしれん」

現在俺の所持している魔法鞄は収納可能な重さが五十キロのものと百キロのものだ。

とりあえず、百キロの魔法鞄の中に五十キロの魔法鞄を収納しているので、見た目的にいえば魔法鞄を一つ所持しているじに見える。

総重量百五十キロと言えばかなりの量を運ぶことができるように聞こえるが、実際のところあまり多いとは言えない。

今狩っているダッシュボアの一匹當たりの重量が十キロ前後として余裕を見た場合十四匹、ぱんぱんに詰め込んだ場合十五匹が限界なのだ。

前回狩ったフォレストウルフで言えば、一匹當たりの重量が十五キロ程度なので九匹か十匹がいいところである。

もちろんこれは解をせずにそのまま扱った時の重さなのだが、解をしたとしても二十匹分がるかどうかなのだ。

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今回の狩りで収納できたのはダッシュボアが十匹とフォレストウルフが三匹だった。

ここから解をして収納すればあとダッシュボアであれば二匹分、フォレストウルフなら一匹くらいであれば追加できるといったところだ。

「まあ、今回はこれくらいにしておこうかな」

それから収納した獲を解したあと、街に戻って冒険者ギルドに納品した。

最近値段が高騰しているということもあってかなりの報酬が増えており、全部で中銀貨六枚ほどになった。日本円で六萬円也。

「このペースなら、あと一日狩れば次の魔法鞄が買えそうだな」

次なるステップを目指し、宿に戻ってその日は眠りに就いた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

二日後の朝、ようやく次の魔法鞄を買うお金が貯まったので、俺は前回魔法鞄を買った道屋を訪れた。

屋は相変わらず薄暗くて怪しい雰囲気だったが、前も來たことがあるのでそのまま普通に店員に話しかける。

しいいか?」

「あら、あの時の坊やね。最近稼いでいるそうじゃないの。いろいろと噂になってるわよ」

「まあ、それはそれとしてだ。新しい魔法鞄がしい。見せてくれ」

「わかったわ。し待っててちょうだい」

前と同様裏の方へと引っ込んでしばらくすると、魔法鞄を持ってきてくれた。

が持ってきてくれたのは、前回もあった二百キロの魔法鞄の他にもし豪華な造りをした二つの魔法鞄だった。

俺が訝し気な表を浮かべていると、ローブにを包んだ店員が補足の説明をしてくれる。

「この魔法鞄は前にもあった二百キロの鞄ね。こっちの二つは、あれから王都から新しい魔法鞄を仕れてね。こっちのやつは五百キロまで収納可能な魔法鞄で、こっちのやつは時空屬が付與された魔法鞄になってて、れたものが劣化しない仕様になっているわ」

「ほう、それはまたすごい鞄だな。ちなみに時空屬の魔法鞄の限界収納量は?」

「三百キロよ」

重さ的にもなかなかのもので、しかも食べなどをれても劣化しないとなればかなりいい魔法鞄なのだろう。しかし、がいい分それだけ値段の方も高くなるのは當然なわけで……。

「一応だが、こっちの二つの値段を聞こうか」

「五百キロの方は大銀貨二枚、時空屬の方は大銀貨七枚よ」

「さすがに高いな……」

いいものはやはり高いというのは異世界でも同じらしく、二つの魔法鞄はとても高額だ。二十萬と七十萬だぞ?

だが、値段に見合う能はちゃんと持っているため、高いがぼったくりという訳ではない。寧ろ、この能でこの値段は良心的だと言えるのかもしれない。

今の俺の所持金は、ダッシュボアとフォレストウルフの素材を売ったおで大銀貨一枚と中銀貨二枚ほどある。

この金額なら二百キロの魔法鞄なら何とか買えるが、それよりも能のいい魔法鞄があるのなら是非ともそっちの鞄がしい。そこで俺は彼にある提案を出すことにした。

「提案なんだが?」

「いくら坊やでも、値引きには応じないよ」

「斷るのは俺の提案を聞いてからにしてくれ。俺からの提案はこうだ」

俺は五百キロの魔法鞄を購するために足りていない中銀貨八枚分を埋めるための提案を彼にした。

俺が出した提案とは、簡単に言えば……下取りである。

つまり、今俺が持っている五十キロの魔法鞄と百キロの魔法鞄を不足分の中銀貨八枚分として補填し、それと換で五百キロの魔法鞄を手にれられないかというものだ。

「俺の今の全財産は、大銀貨一枚と中銀貨二枚だ。その五百キロの魔法鞄を買うためには中銀貨八枚分が足りない。なら今俺が持ってる五十キロと百キロの魔法鞄を不足分として補填する代わりに、その五百キロの魔法鞄を大銀貨一枚と中銀貨二枚で売ってくれないかという提案だ。どうだ、悪い話じゃないだろ?」

「話にならないねー。その二つの魔法鞄を足しても中銀貨六枚がいいところだわ。仮に坊やがその二つの魔法鞄を出しても、中銀貨二枚分足りないわよ」

「それは以前の相場での話だろう?」

「っ……」

俺の提案に否定的な意見を返す店員に、さらに追撃を加える。俺の予期せぬ反撃に彼は言葉を詰まらせた。さらに追い打ちをかけるべく、続けて説明してやる。

「確かにあんたの言う通り、以前の相場なら五十キロと百キロの魔法鞄を売った金額は中銀貨六枚だった。だが、ここ最近商業ギルドが活発になったことで魔法鞄の需要が上がって、魔法鞄自の相場が上がったらしい。誰かさんのおでな」

「……知ってたのね」

「今の相場だと五十キロの魔法鞄なら中銀貨三枚、百キロの魔法鞄は中銀貨六枚くらいになるはずだ。合計すれば中銀貨九枚だ。五百キロの魔法鞄を買うための不足分には、十分足りるじゃないか」

「はあ……坊やの勝ちよ。わかったわ、それで手を打つことにするわ」

見た目が子供の俺が世間知らずな人間に見えたらしく、どうやらこちらの足元を見るつもりだったようだ。殘念でした。

こちらの提案をれ、今まで使ってきた五十キロと百キロの魔法鞄二つと五百キロの魔法鞄を換する。もちろん全財産の大銀貨一枚と中銀貨二枚も支払った上でだ。

取引が完了したその時、店員が今まで被っていたローブをおもむろにぎ出すと、そこには香漂う妙齢のの姿がそこにあった。

長い髪に整った目鼻立ち、男が好むつきという非の打ち所がないほどにしく、そして何よりも艶めかしい。

突然のに目を見開いて驚いていると、しなを作りながらが貓なで聲で話しかけてきた。

「ねぇ坊や、あたしといいことしない?」

「俺みたいなガキ相手にするよりも、もっと甲斐のあるいい男を見つけた方がいいぞ? 特にあんたみたいないいなら尚更だ」

ローブの中がまさかこれほどのだとは思わなかったが、俺は彼のおいを斷り店をあとにした。

店を出る時「あーん」という悩ましい聲が聞こえていたが、振り返りたい衝を押し殺すことにかろうじて功するのだった。

何はともあれ、これで収納できる量が増えたことで供給量がかなり増えたので、今回はいい買いだった。

新しい魔法鞄を買ったその足で冒険者ギルドへ行ってみると、この時間帯には珍しくギルドがごった返していた。ただし、そこにいたのは冒険者ではなかった。

「なんで依頼を注してくれないんだ!?」

「規則ですので」

「ちょっとくらいけてくれてもいいだろう!」

「申し訳ありませんが、規則ですので」

冒険者ギルドにいたのは、商人や職人の恰好をした連中だった。

どうやら、何かの依頼を出したいらしいがその依頼が注されないことに苛立っているようだ。

他にも商人や職人たちがいて、同じように依頼を斷られていたのだが、その依頼容が一人の商人がんだことでわかった。

「なんで駆け出し冒険者一人に指名依頼が出せない!? 例の駆け出し冒険者にフォレストウルフの素材を取ってきてもらいたいだけなんだぞ!」

「何度もご説明している通り、それは規則ですのでその依頼はおけできません」

(えー、なんかすげー騒ぎになってるんですけどー)

俺の納品する素材が人気だとは聞かされていたが、まさかこれほどの騒ぎになるほどだとは思わなかった。

どうやら俺が思っていたよりも大事になっていたらしい。そんなことを頭の中で考えていると、俺を見つけた一部の商人が俺に詰め寄ってきた。

「おお、君があの質のいい素材を納品している冒険者だね。お願いだ。君に指名依頼を出したい。報酬もちゃんと払う」

「あのー」

「おい、抜け駆けはずるいぞ。私のところも依頼を出す。中銀貨五枚でどうだね?」

「なら、うちはその倍の大銀貨一枚だ!」

「うちは大銀貨一枚と中銀貨三枚出す!」

俺に出す依頼の報酬額を巡って、商人たちが爭い始めた。

その様子はまるで戦場で戦ている兵士たちのようで、商人たちの戦爭が繰り広げられていた。

どう対処すればいいのか悩み始めたその時、救いの手を差しべるかのように大きな音が響き渡った。

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