《【書籍化作品】自宅にダンジョンが出來た。》ダンジョン講習會にわれた。
「――さて」
今日で仕事納めだ。
俺は、ノートパソコンに表示されているログイン畫面からログアウトする。
そしてデスクの中に置いてある私などを片付けるために引き出しを開けると研修マニュアルや、複數個の攜帯電話の説明書を取り出す。
何故、複數個の攜帯電話の説明書があるのかと言うと、毎年ごとに攜帯電話の端末が変わるからだ。
そして、日本では三大キャリアに數えられるノコモコは、舊日本電信電話公社の――、子會社ということもあり、高いサービスを求められている。
派遣ですら一ヵ月も研修期間があるのは、ノコモココールセンターくらいではないだろうか?
ノコモココールセンターのすごいところは、つねに人材が不足しているにもかかわらず、研修期間中に毎日のようにテストを行うことだ。
それは、きちんと研修を聞いて覚えているかのテスト。
もちろんテストの點數が悪ければ、お試し期間中なのでクビを切られるが、研修期間中の給料は支払われる。
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――が! 俺としては一ヵ月の研修と毎日のテストは社會人にはきついのではないのか? と思ってしまう。
とくに若い年齢層がない現在の日本では、中年や下手すると50代の人間ですら派遣企業は斡旋してくる。
それなのに、毎日のテストで覚えているかどうかを確認して、規定點數に屆かなければクビというのは、年中人員を募集している要因になっているとしか考えられない。
俺から言わせていただければ、どんなに優秀な人材だろうが頭が良かろうがコールセンターというのは神的に図太くなければ生きてはいけない。
エンドユーザーの話を気よく聞いて、場合によっては同意しながら相手の言から何をんでいるのか察して答える。
そして、一日の信擔當件數が規定に屆かなければSV(スーパーバイザー)、つまりグループのリーダーどころかセンター長に、「君、電話の対応が長すぎるよ!」と、文句を言われたりするし、短く対応ができたとしても電対応ログを聞かれて対応が杜撰だとOJTがりSVから指導されるのだ。
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まぁ、コールセンターというのは神を人間を削ってお金という対価を得る非常に神衛生上好ましくない職場でもある。
その分、給料は良いが――、時給1500円とかが普通にあるから。
まぁ、俺みたく人付き合いも適當で趣味も大してなくて主もないし人への配慮もほとんど行わずに打算的に相手の顔を窺うのだけが得意な人間からすれば天職だとは思うが。
それでも俺はやることはきちんとやる。
コールセンタールームから出たあと、ロッカーから菓子折りを取り出す。
もちろん、菓子折りと言っても一つ1000円ほどのクッキーの詰め合わせだ。
コンビニエンスストアで、店員の後ろに飾られているアレだ!
どうして1000円から3000円の菓子折りがコンビニに常設されていると思う?
――そう。
俺みたいに會社を辭める時に菓子折りを渡して相手の機嫌を取って辭める人間のためにコンビニは菓子折りを常時置いているのだ。
1000円の菓子折りでも嫌に思う人間はいない。
それにコールセンター業界というのは、広いようでいて実は狹い業界でもある。
とくに派遣會社を通してコールセンターに専屬している人間から見れば、別の派遣會社に登録してコールセンターに派遣されたら以前と同じ職場のコールセンターだった! というのが稀によくあるのだ。
だから、退職するときも波風を立てずに辭めるのがコールセンター業界で仕事をしていくうえでのマナーでもある。
コールセンタールームにり、真っ直ぐに乾さんのもとへと向かう。
「センター長」
「どうかしたかね?」
「はい。今日で仕事納めですので――、お世話になりました」
俺は頭を下げたあとに「皆様で、これでもお召し上がりください」と、袋ごと菓子折りを渡す。
よく菓子折りを袋から出して渡さないといけないというルールもあるが、基本的に會社で渡す場合には袋のまま渡した方がいい。
余計な手間や時間をかけることで相手に迷が掛かってしまうからだ。
「そうか……、これからも頑張ってくれ」
「はい。それでは、失禮します」
再度、頭を下げたあと俺は自分のデスクへと向かい攜帯電話の説明書やシステム作のマニュアル書、顧客対応のマニュアル書などを纏めた。
「神田さん」
「山岸さん? どうかしたの?」
「はい。今日で退職ですので、今までお世話になりました」
俺は、纏めた書類を彼に渡す。
年齢は俺よりも一回り下だが、上司は上司。
きちんと禮を持って接する。
「そう……、殘念ね。貴方は、クレームがほとんど無かったのに……」
「いえいえ、それは神田さんのご指導のおかげです。また何か縁がありましたら、よろしくお願い致します」
「わかったわ。がんばってね」
もう一度、頭を下げたあと自分のデスクへ戻り今度こそ私を纏めたあと手に持ったままコールセンタールームを出たあとビジネスバッグへ詰めた。
そこで俺は、首から下げているカードキーを返すのを忘れていたことに気が付く。
すぐにコールセンタールームに戻る。
するとやはりというか何と言うか、センター長自らが菓子折りを一個ずつ仕事をしている人間に渡して回っている姿が目にった。
センター長は忙しい分だが、個々の人間とのコミュニケーションを取るのも大事な職業でもある。
大変なことだ。
「神田さん、カードキーを渡し忘れていました」
「あ、ほうなの?」
センター長から配られたお饅頭を口の中にれながら神田さんが答えてくる。
飲み下してから話してほしいが、まぁそれは詮無きこと。
「それでは、今度こそ失禮します」
俺は、自分の職場をあとにした。
それにしても、會社を退職するときはいつも哀愁をじるものだ。
しかし、本當に無職になってしまったな。
ここ數日、【はたらいたネット】で仕事を探していたが、ほとんど仕事がなかったし、一応応募はしたが車の免許しかない中年の親父には仕事が回ってくることは稀だ。
「まったく、全然! 景気が上向いていないよな……」
一応、來月の25日までは給料は確保できているが早く仕事を探さないと貯金もほとんどないから本格的にまずい。
「まずは面接だな……」
そう思ったところでビジネススーツのポケットにっていた攜帯電話が振する。
誰だろうか? と思いスマートフォンを見ると佐々木の名前が――。
「どうかしたのか?」
「じつは、明後日からダンジョン講習會に行こうと思っているんですけど、一人だと心細くて山岸先輩も一緒にどうですか?」
「ダンジョン講習會?」
「今なら簡単な審査と講習だけでダンジョン免許がもらえるってネットに書いてあったんですよ!」
「車の免許かよ……」
「違いますよ! いまは車の免許取るのは大変なんですよ!?」
「――ん? そうなのか?」
俺の記憶にある免許取得方法は、教習所を卒業後、幕張免許センターで筆記試験をけて合格點に達すれば免許発行が付されたはずだが。
「いまは、免許取得に百萬円かかるんですよ!」
「――ひ、百萬!?」
「だから、いまの俺達大學生は車の免許を取得できないんですよ! 山岸先輩は免許は持ってますか?」
「まぁ、持っているが……。お前、まさか……、足が無いから俺をっているんじゃないだろうな?」
「わかりました!?」
「ああ、十分わかった。だが、俺はダンジョンにはまったく興味はないからパスだな」
「そんなこと言わないでくださいよ! すっごい不便なところにダンジョン講習會が開かれるんですから!」
「どこで開かれるんだ?」
「それが……、下志津駐屯地ってところで講習會があるみたいなんですよ」
「聞いたことがないな」
「陸上自衛隊の基地があるところですよ。ほら四街道の――」
「お前、それ四街道民に言ったら怒られるぞ。一応、総武本線の四街道駅が近くにあるだろ」
「でも歩いて30分くらいの距離ですよ!」
「どんだけ歩くのが遅いんだよ。ちなみに俺は車を持っていないぞ? 維持費が高いからな!」
「そ、そんな――!?」
「しかし……、まあ暇だから一緒に行ってやっていってもいい。ただしタクシー代はお前持ちな」
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