《【書籍化作品】自宅にダンジョンが出來た。》ダンジョン講習會(1)
電車が四街道駅に到著する。
ホームから階段を上がり改札口を通過したあと、南口の階段をおりていく。
「寒いな……」
もうすぐ冬ということもあり寒い――。
それに、講習會など何年ぶり? いや何十年ぶりだろうか?
以前に講習會に出たのは、惰で若いころに取得した第二種電気工事士免狀の認定を取りに行った時だったか。
「それにしても……」
南口に著いたが、目にるのがオリジナル弁當くらいとは――。
以前にも四街道駅を利用したことがあったが、こんなに寂れてはいなかったと記憶している。
まぁ、俺としては靜かな方が好みだから寂れていても何の問題もない。
むしろ良いまである。
俺は、腕時計で現在の時刻を確認する。
「8時30分か……。たしか、講習會は9時30分からスタートだったな」
一人呟きながら、エレベーター前の脇に置かれている木材で作られた椅子に腰を下ろす。
椅子が冷え切っていて寒い……。
自然と貧乏揺すりをしてしまうのを必死に堪えながら待つこと20分。
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「山岸先輩。早いっすね!」
階段を下りて周囲を見渡していた佐々木が俺を見つけて近寄ってくる。
一瞬、お前が遅いんだと突っ込みをれそうになるが。
「いま來たばかりだ」
大人の対応を取る。
ここで文句を言っても仕方ないし、何より大學生に社會の規律を教える義務は俺にはない。
だからパーカーで來たことに対しても何とも思わない。
まぁ、俺から言わせてもらえば講習會であろうと面接であろうと基本的にスーツ著用で赴くのは社會人としての嗜みだとは思っているが。
「さて――、いくか」
椅子から腰を上げてタクシー乗り場へと視線を向けるが――。
「タクシーないですね」
「……そう……だな……」
どうやら、あまりにも過疎化しすぎたため、四街道駅にはタクシーが常駐待機することが無くなったようだ。
さっきは寒村として靜かな場所も良いと思ったが、やはりある程度は人は必要だと俺はに考えを変える。
――それにしてもだ。
今までだって、々と不都合な乗りは利用してきたつもりだった。
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千葉都市モノレールという採算が取れているかどうか分からないくせに、やたらと區間料金が高い乗りや、天候次第で毎度停止する京葉線などを利用してきた。
それでも時間が來れば電車やモノレールはきたが! 今は、いつ來るかも分からないタクシーを待ち続けなければいけない。
何たることだ……。
明らかに俺の失態。
佐々木を待っている間にタクシーを呼んでおくべきだった。
「山岸さん。都賀駅行きのバスが10分後に來るみたいです」
「――バス!?」
そうか……。
日本にはバスという乗りがあった。
ずっと乗っていないとつい忘れてしまう。
俺も若いときはバスをよく利用していたな……。
10分後にバスが來た。
さすが日本。
時刻の正確さには定評がある。
これが外國だと一日遅れとかもあるとか以前に畫サイトで見たことがあるな。
というかバスが一日遅れで來るとかどうなんだ? と、いう突っ込みは良しとしよう。
何故なら一日ズレているだけなら結局、ところてんのように時刻表がズレているだけで時間どおりバスが到著していることになるからな。
佐々木と二人してバスに乗り陸上自衛隊 下志津駐屯地前のバス停に到著したのは20分後。
講習會開始まで10分前と言ったところだ。
「山岸先輩、何を急いでいるんですか?」
「社會人としては10分前到著は當たり前だろう?」
「いや、これ講習會ですし――」
たしかに、佐々木の言っていることは一理あるが! に染みついている慣習は中々拭い去ることができない。
ようやく陸上自衛隊の敷地にる際に通り抜けるゲートが見えてきた。
「……なんだろうか? あれは……」
陸上自衛隊 下志津駐屯地のり口には、大きな垂れ幕が掛かっている。
そこには『ようこそ! 陸上自衛隊 下志津駐屯地へ! ダンジョン探索者を目指す皆様、大歓迎!』と、書かれている。
「山岸先輩、いまの自衛隊って人材確保が大変らしいですよ? それで、ダンジョン探索者に聲をかけているってSNSで見たことがあります」
「なるほど……」
そういえば、最近は選挙にも行っていないな。
り口に近づくと自衛が近づいてくると佐々木に「自衛隊に興味はありませんか?」と聲をかけている。
ちなみに俺の方はと言うと、一目、俺を見てきたあとはまったくの無視だ。
まぁ、自衛隊の場合は年齢制限があるからな。
40歳を超えている俺には聲が掛からないのは當然と言える。
しばらく自衛の営業と、佐々木の攻防を見ていたが飽きてきた。
「すみません。今日はダンジョン講習會で來たのですが?」
近くの男自衛に話を聞くとしよう。
別に俺は暇だが暇ではないのだ。
「――あ、すみません。ダンジョン探索者希の方でしたか――」
「それ以外に何に見えると?」
若干、不機嫌さを醸し出しながら俺は佐々木の腕を摑み案すると言った男自衛のあとをついていく。
どうやら説明は育館でやるようだ。
ほとんど暖房をつけていないことから寒いことこの上ない。
中年の俺には応える寒さだ。
そんな中、俺たちは中學校以來のパイプ椅子に案されて座る。
「思ったより人數がないんだな」
周りを見ながら集まっている人數を數えていく。
もちろん口に出してカウントするような失禮な真似はしない。
人數は18人、俺と佐々木を含めてだ。
「……せ……せせせ……先輩……、さ、さむいっすね!」
ガタガタと佐々木は震えながら俺に話しかけてくる。
ふむ、どうやら若者にもこの寒さは応えるらしい。
まぁ、俺の場合は皮下脂肪がたくさんある中年太りだから、慣れてくればし寒いかな? と思うくらいだ。
自慢ではないがコールセンター業務というのはストレスが貯まるから食べる量は増えるのは當たり前のことはほとんどかさないから太る。
それは森羅萬象の摂理のごとくだ!
だから、俺が太っていると言っても、それは世界のり立ちの源だから俺が悪いわけではないということだけは弁明しておこう。
「佐々木、心頭滅卻すれば火もまた涼しという諺を知らないのか?」
「それは暑い場合に適用ですよね?」
「ふっ、まぁそうだな」
俺と佐々木が話していると壇上にスクリーンが下りてくるのが見えた。
そして映像が映し出されると共に男自衛が俺たちの前に歩いてきた。
「えー、第87回ダンジョン講習會を開きたいと思います。今回の講習擔當を務めさせていただきます山2等陸尉です」
「2等陸尉? おい、佐々木」
「何ですか?」
「陸上自衛隊の階級はよく知らないが、2等陸尉って何だ? 軍曹より偉いのか?」
「さあ? 俺に聞かれても分かりませんよ」
「ふむ……」
――俺は顎に手を當てながら考える。
大抵の講習は、一般企業の場合では上の人間が行うことはまずない。
コールセンターなどで言うと大抵は契約社員であるSVという管理職(スーパーバイザー)の仕事だったりする。
長年培ってきた社會人としての一般常識。
それに當てはめて見れば答えは自ずと導きだされる。
――つまり……。
「軍曹と同等か、それともそれ以下といったところだな」
「そうなんっすか?」
「間違いない。いままで俺の読みが外れたことはほとんどないからな」
「あの――、いいでしょうか?」
先ほどの山2等陸尉という男が、苦笑いをしながら俺たちに語りかけてくる。
「申し訳ありません」
今回はこちらに非がある。
非があるなら謝るのは社會人としては當然のこと。
俺は頭を下げる。
「そ、そこまでしなくても大丈夫ですから!」
逆に恐させてしまったようだ。
しかし、俺と佐々木の會話はかなり小さく行ったはずだが、よく聞こえたものだな。
「それでは、ダンジョンについて説明をさせていただきたいと思います」
目の前のスクリーンには落花生畑が表示された。
――そう、千葉県の名産である落花生だ。
千葉マッキーランドと並んで世界的に有名だと俺が思っている千葉県の唯一の特産である落花生だ。
そういえば、千葉県には落花生以外に何か特産があっただろうか?
以前にふるさと納稅をしたら、落花生が10キロ送られてきたとSNSで上がっていてバズっていたことを思い出す。
まぁ、そんなことはどうでもいいか。
俺は落花生畑をスクリーンに映して何をしたいのか? と疑問に思って見ていると落花生畑が突然発した。
何の前ぶれも無い発、――そして空中に舞い上がる落花生。
しかも殻つき。
――そして、落花生畑には地下に通じる巨大な石の建造――、階段が出來上がっていた。
「スクリーンを見てお分かりいただけた通り、ダンジョンは世界各地に同時多発的に5年前に出現しました」
5年前か……。
たしか管規制法が設立されたころだったな。
「世界同時多発的にダンジョンは同時に出現しましたが。その數は666個、そのうち600個が日本にあります」
「――ん?」
いま、ダンジョンの大半は日本にあると言わなかったか?
そんなことニュースでは一度も……、そういえば家にはテレビが無かったな。
大抵のニュースはネットで見ていたからな。
「これから詳しい説明をさせていただきたいと思います。いま、資料をお配りします」
別の男自衛が資料というかパンフレットを參加者全員に配っていく。
もちろん、俺も一枚もらったがパンフレットの表面には、ホワイトでアットホームな自衛隊に就職しませんか? と書かれている。
俺はダンジョン講習會に來たわけであって自衛隊に興味があるわけではない。
――というより、どれだけ自衛隊は人手不足なんだ……。
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