《【書籍化作品】自宅にダンジョンが出來た。》聖夜の日
ラパーク千城臺前に到著。
今回は、1萬円札を渡したあとしっかりとお釣りをもらう。
前回のように、釣りはイラネ! 釣りはとっておいてくれ! という男気あるような振る舞いは控えておく。
ガラスの修理費や今後のことを考えると、さすがに無駄遣いはできない。
――何せ、俺は無職だからな。
タクシーから降りた俺はラパーク千城臺にある生鮮食品売り場に向かう。
すると――、やはり俺の睨んだとおりクリスマス限定の商品が惣菜コーナーに置かれている。
鳥モモを焼いたモノ――。
これは、クリスマス時期にしか売られないものだ。
果で言うなら季節商品。
――否! 斷じて否!
數日しか惣菜コーナーに並ばないのなら、それは季節商品ではない。
超プレミアム季節商品と言える。
そのレア度は、SSRのカードよりもレアと言えるかもしれない。
ちなみにネットの仲間から聞いた話によるとSSRという意味は、すーぱーすごいレアカードという意味らしいが……。
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「とりあえず、あれだな……」
まずは鳥モモを3つ、籠にれる。
さらに、鳥の丸焼きも1個いれた。
やはりクリスマスと言えば鳥は外せない。
しかも1匹まるごとと言えば、リッチ度が跳ねあがる。
クリスマスには必需品と言っても過言ではない。
次に籠にれるのはお子様用のシャンパン、それを5本れる。
もちろんアルコールはっていない。
アルコールに極端に弱い俺にとって必需品である。
あとはガーリックトーストを籠にれたあと、ケーキもホールごと籠にれていく。
さらにシチューのレトルトも忘れない。
もちろん3人前。
「ふう……、これで完璧だな」
さっそくレジに並ぶ。
そしてお會計は5000円近かった。
まぁ、年に一回のクリスマスだから仕方無い。
日頃から頑張っている自分へのご褒というやつだ。
これで一人クリスマスの用意が整った。
アパートの玄関が見えてくると、何やらアパート前にモリゾーのマークが書かれているトラックが停まっている。
すでに作業は終わっていたようで俺がアパートに到著する前にトラックは走り去ってしまった。
「ふむ……、新居者でもったのか? それとも出ていったのか?」
今一、判斷がつかないな。
まぁ、俺には関係の無いことだ。
「山岸さん」
「杵柄(きねづか)さん、おひさしぶりです」
大家の杵柄――、俺が住んでいるアパートの管理人もしている。
それにしても、家賃は払っているはず……。
何の用だ?
普段は、あまり話しかけてはこないはずなのに……。
「ひさしぶりだね。じつはね……」
「どうかしたんですか?」
「うむ……。最近、腰が痛くてね……、私も管理人の仕事がきつくて今度、管理人の仕事を孫に任せることにしたんだよ」
「そうなんですか……」
意外だ……、背筋がピンとびているのに腰が痛いとは……、人というのは見た目によらないものだな。
「それで、どなたが?」
俺の言葉に後ろを振り返る杵柄さん。
「まったく、ほら! 出てきなさい」
「あの……」
から出てきたのは、見覚えのある。
「この子が孫の江原(えはら) 萌絵(もえ)だよ。山岸さん、よろしく頼むよ」
「孫? 失禮ですが……、名字が……」
「ああ、娘の旦那の名字だからね。それよりも――、今日からは、孫がアパートの管理人をするからよろしく頼むね!」
「分かりました。ですが、彼は確か日本ダンジョン探索者協會の職員では?」
俺の記憶だと公務員は原則、アルバイトは止だったはず。
「ああ、それがね。この子ったら辭めたんだよ」
「辭めた?」
ステータス
名前 江原(えはら) 萌絵(もえ)
職業 無職 ※アパート管理人
年齢 20歳
長 148センチ
重 49キログラム
レベル91
HP910/HP910
MP910/MP910
力10(+)
敏捷19(+)
腕力12(+)
魔力 0(+)
幸運10(+)
魅力37(+)
所有ポイント90
ほんとうだ……、職業が無職になっているな。
つまり俺と同じ無職になったということか。
それにしても公務員は給料待遇とかも良かったはずなのにどうしてだ?
「例の貝塚ダンジョン事件で、々と思う所があったらしいよ」
「なるほど……」
まぁ、彼は死にかけたのだから怖くなって辭めても仕方無いだろうな。
「江原さん」
「ひゃ、ひゃい!」
――ん? ダンジョンツアーの時は、ハキハキしている印象だったが、どうしてそんなに俺の顔を何度もチラチラと挙不審者のように見てくるんだ?
「これからよろしくお願いします」
「こちらこそ! よろしくお願いします! 山岸さんっ!」
まぁ、どっちでもいいか。
とりあえず今日は、一人クリスマスイブをエンジョイするだけだからな。
「それじゃ私はこれで失禮するよ」
大家の杵柄さんが、アパート裏の本宅へと帰っていくと俺と江原さん2人だけになった。
さて、じゃあ俺も部屋に戻るとするか。
階段を上がろうとしたところで、服の袖を摑まれる。
「………あ、あの……、山岸さん……」
「なんでしょうか?」
とりあえず親しい仲ではないのだから、紳士的に話しておくことにしよう。
「――わ、私! まだお禮を言ってなかったので……」
「お禮?」
「はい! 発から助けてもらったお禮とか……」
「それなら気にすることはないです。私は、當然のことをしただけですから、それじゃ失禮します」
再度、階段を上がろうとする。
すると今度は腕を摑まれた。
「――ま、まだ……何か……」
「あの……、私……、婆ちゃんのアパートに山岸さんが住んでいるって知らなくて、さっき山岸さんの姿が見えた時に、すごく……。あ、あの! 山岸さんは、クリスマスに一緒に過ごされる特別な人って……え?」
何故か知らないが途中で、江原の視線が俺の手に持っている袋に向けられていく。
袋は半明で中がよく見える。
つまり、お一人様クリスマス會で俺が食するが丸見えなわけで……。
しばらく俺が手に提げていた袋をジッと見ていた江原が、突然泣き出す。
意味がわからん。
俺何かしたか? 何もしていないよな?
「……そ、そうですよね……、山岸さん、カッコいいですものね。えへへ――」
中年の男を捕まえてどこがカッコいいのかと小1時間ほど突っ込みをれたいところだ。
そもそも、このアパートは一人暮らし専用で二人暮らしは契約違反。
「江原さん、ここのアパートは一人暮らし契約です。ですのでこれは……」
「――え? あ……。そうですよね……。あれ? で、でも……、この量って……、一人で食べられる量では……、あ! もしかしてちゃんの分もあるんですか?」
「――? いえ、佐々木とは元職場で知り合っただけで先輩と後輩という仲ですよ? それとこれは私、一人で食べるものですから」
「そ、そうなんですか! 山岸さんはフリーなんですか!?」
「ええ、まあ……」
どうして、こうもぐいぐいと江原が俺に語りかけてくるのか意味が分からん。
まるで俺に好意を抱いているようじゃないか。
正直、俺じゃなかったら好きだと勘違いしているところだぞ。
「山岸さん!」
「な、なんでしょうか……」
「今日の夜は空いているってことですよね!」
「そ、そうですね……」
「それじゃ今日は私の引っ越し祝いを一緒にしてくれませんか!」
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