《【書籍化作品】自宅にダンジョンが出來た。》聖夜の夜
「……わたしが……です……か?」
「駄目でしょうか?」
……本來であるなら――、江原からの申し出は斷るべきだろう。
今日は、大切な日なのだから。
――だが……。
「わかりました」
これからアパートの管理人になる彼のいをけずに険悪な狀況になるのは、最善手だとは言えない。
社會人としては最低限の付き合いというのがあるからな。
それに……、引っ越しの祝い程度なら、そんなに時間はかかわらないだろう。
あくまでも俺は論理的に思考し打算を含めた結果から彼――、江原からの申し出をけた。
「ありがとうございます!」
「いえ、新しい管理人さんのお祝いですから」
あくまでも距離を置くように言葉を付け足す。
「それでは、午後7時に101號室に來てくださいね!」
「分かりました」
なるほど、俺の部屋が204號室だったが、管理人になる江原は101號室なのか。
そういえば、101號室に人が住んでいるのを見たことがないな。
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まぁ、深く考えても意味はないだろう。
「それでは失禮します」
俺は腕を摑んでいた彼の手を剝がすと階段を上っていく。
「佐々木――、何をしている?」
「……山岸先輩! どういうことですか?」
「どういう事とは、どういうことだ?」
「…………江原さんの家に行くって!」
「引っ越し祝いにわれただけだ。お前も一緒に參加すればいい」
「――え?」
「お前も一応は、ここのアパートの住人なんだから管理人の祝いをする義務はあるだろ?」
俺の言葉にポカーンとした表を佐々木が見せてくる。
何かおかしいことでも言ったか?
――いや、別に変なことは言っていないよな……。
「午後7時集合だそうだ。遅れないようにしろよ?」
「えーと、私が行ってもいいのでしょうか? だって江原さんは先輩の……」
「アイツは、アパートの管理人で――、それ以上でも――、それ以下でもない」
「それって……、もしかして……」
「何だ?」
「以前に先輩言いましたよね?」
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「何をだ?」
「暴漢が襲ってきた時に、「大切な者」だって……」
大切なか……。
「ああ、言ったな。それが、どうかしたのか?」
「ううん! 何でもないです!」
佐々木が、頬を赤くする。
そして、元で指先を組む。
「えっと、なんでもないです!」
へんな奴だな……。
風邪でもひいたのか?
俺は、左手を佐々木の額に當てる。
一瞬、佐々木のが直したような気がするが、まぁ別にいいか。
「せ、せんぱい……」
潤んだ瞳で佐々木が俺を見上げてくる。
「ふむ……、特に熱はないようだが――、12月も後半だからな。インフルエンザも考えるとを休めた方がいいかも知れないな」
「――え? ――そ、そうですね!」
俺の言葉に佐々木がアタフタした様子で「それでは午後7時に先輩の家にいきますね!」と、笑顔を見せたあと203號室――、佐々木の家に帰っていった。
やはり、佐々木はどこかの合が悪いのかもしれない。
無理にうのは良くなかったのかもしれないが……、まぁ他のアパートの連中が參加するか分からない現狀、を一人でも増やしておくのは、俺のの安全のためにも必要だろう。
それに、元・日本ダンジョン協會の職員同士だ。
顔見知りのようだし、祝いにはきちんと出た方が佐々木にとっても江原にとってもいいだろうからな。
佐々木と別れたあと自宅に戻る。
「さて――」
時間を見ると、時刻はお晝近い。
思ったよりも話しこんでしまっていたようだ。
江原や佐々木との予定が午後7時からっていることから、早めの用意をした方がいいかも知れないな。
購したケーキにシャンパン、チキンなどをテーブルの上に並べる。
グラスを2つ用意する。
子供用のシャンパンを、2つグラスに注ぐ。
テーブルの反対側には、もう1人分のシャンパンがったグラスを置きホールケーキを半分に切って並べる。
「鏡花――、今年も用意ができたぞ」
手に持ったグラスを、テーブルの反対側に置かれたグラスへと軽く宛ててから口に含む。
子供用のシャンパンというだけあって甘いが、酒を滅多に飲まない俺には丁度いい。
次に、妹――、鏡花が食べたいと生前言っていた鳥の丸焼きをテーブルの上に置くと、「カサッ」という音が聞こえてきた。
「――ん?」
何だ? いまの音から察するに郵便か?
外に出てポストを見る。
ポストにっているのは1枚の封書。
「お墓の維持費か……。一度、自徳寺に顔を出した方がいいな……」
維持費を払わないと撤去されてしまうからな。
――コンコン
「――ん?」
――コンコン
「…………なんだ……?」
何度か家のドアがノックされ――、目を覚ます。
部屋の中はすっかり暗闇に閉ざされていて薄暗い。
どうやら、妹――、鏡花の命日でもあるクリスマスイブをして食事をしたあと橫になっていたら寢てしまっていたようだ。
まぁ、自衛隊の駐屯地で慣れない生活をしていたのもあるのだろう。
疲れが溜まっていたのかも知れない。
「山岸せんぱーい!」
「佐々木か……し待ってろ」
反応しなかったら、焦れたようで佐々木がドアの外から俺の名前を呼んでくる。
部屋の中は暗い。
おそらく外から窓越しに中を見たときも暗いはずだが……。
よく俺が居ると分かったものだ。
時刻を見ると、すでに19時――、5分前を示している。
これは早めに用意して向かった方が良いかもしれないな。
男というのは、ズボンを履き、上著を替えるだけで用意が完了する生きだ。
つまり外行きの用意には1分も掛らない。
「またせたな」
ドアを開けると佐々木と丁度、目があった。
「先輩、そろそろ時間ですよ!」
「ああ、すまないな」
靴を履く。
家の鍵をかけたところで――、俺は思う。
どうして1階の管理人室にいくだけなのに、バックや紙袋を持っていく必要があるのかと。
しかも、洋服も上は白いセーターに下は赤のロングスカート。
黒のタイツに上著まで羽織っている。
完全に、どこかに出かける服裝なんだが……。
「佐々木、念のために言っておくが管理人室に行くだけだぞ? コートとか必要か?」
「――え? は、はい! 必要です!」
一瞬、惚けた佐々木が答えてきたがどこに必要なのかまったくわからん。
むしろジャージでいいような気がするが、というのは理解できないな。
佐々木を伴だって、1階の101號室の扉をノックする。
するとすぐに扉が開く。
「山岸さん、お待ちしていました! …………どうして、さんが……」
最初は、輝く笑顔だったというのに俺の後ろに立っている佐々木を見た瞬間、江原が突然不機嫌になった。
不機嫌になったのが分かったのは簡単だ。
彼――、江原の顔が変わったこと。
ついでに目つきも鋭くなった。
さすがに、それだけ変化があれば俺も気がつく。
それに、「…………どうして、さんが……」と呟いた時の彼の聲は明らかに不機嫌そのものであった。
コールセンター歴20年以上の俺だからこそ、聲質のわずかな変化に気がつけたとも言えるが……。
どちらにしても、江原にとって現狀は好ましい狀況ではないようだ。
ふむ……。
いくつかの課題――、江原が何故! 不機嫌になったのかを考える。
――まず1つ目に考えられるのは、江原が俺に好意を抱いているパターンだ。
この場合、のことを連れてきたという狀況から、どうして私の部屋に別のを連れてきたの! 山岸さんと一緒にクリスマス過ごしたかったのに! というじか?
……ふむ。脳シミュレートしてみたが、さすがに自意識過剰すぎか……、まず有り得ないな。
そもそも江原は、日本ダンジョン協會でキャンペーンガールをしていたほどの人さんだ。
俺のような41歳中年に好意を抱く確率はゼロに近い。
それに好意を抱かれたといって俺にはその資格がないからな……。
――2つ目は、二人とも俺に好意を抱いているパターン
それこそありえないな……。
――そうなると最後の可能は、実は二人とも仲が悪く話もしない犬猿の仲というパターンだ。
このパターンの可能が一番高そうだな。
同士は、表面は仲が良くても裏では々あるとネットで見たことがある。
そして、そんな二人を俺が引き合わせてしまった。
我ながら完璧な推理だ。
コールセンターで、エンドユーザーからの電、聲から顧客が何を求めているのか! それを一瞬で判斷してきた知識と考察力。
それらが一瞬で答えを導きだした!
なるほど……。
全ての答えは出た。
佐々木と江原が、俺を無言で見つめてくる意味すら、これで説明がつく。
つまり、お前が引き合わせたのだから取り持てということだな。
――ふっ、なるほど……。
20年間も伊達にコールセンターでクレーム擔當含むテレアポをしていた俺ではない。
この程度の問題、軽やかに片づけてみせよう。
「江原さん」
「…………はい」
「佐々木は俺の後輩で、このアパートに住む住民だということは知っていますよね?」
俺の言葉にコクリと頷く江原。
「江原さんのアパート管理人と引っ越し祝いは、アパートの住人でやった方がいいと私は思う。顔合わせをしていた方が何かと問題が起きた時に協力し合えるからね」
「…………はい」
「分かってくれたならいい。それにしても、8部屋あるアパートだけど、まるで私たち以外は住んではいないようですね」
俺は肩を竦めながら江原さんに語りかける。
すると彼は、「いま、このアパートに住んでいるのは私と佐々木さんと直人さんだけです」と答えてきた。
一瞬、下の名前で呼ばれたことに違和を覚えたが……。
それに、何故か知らないが佐々木が後ろから引っ付いてきた。
……寒いのか?
だからスカートなんて履くから……。
ズボンを履いておけばいいものを。
「さ、佐々木さん……、……す、――し自重してもらえますか?」
「江原さん、すみません。コイツ、スカートで寒いと思うので……」
「なるほど、なるほど」
江原さんが、何度も頷きながら近づいてくる。
笑顔だが、目が笑っていないような気がするのは気のせいだろうか?
「佐々木さん、お部屋にってください! 外は寒いですものね!」
江原が強引に佐々木の腕を摑むと部屋の中へ引っ張っていく。
その際に俺の腕は解放された。
どうやら、二人仲良くしてくれるようだな。
まぁ、近所がギスギスするというもの問題があるから、丁度いいだろう。
それにしても、アパートには空きがなかったはずだったんだが……、々とあって皆引っ越してしまったのか……。
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