《わがまま娘はやんごとない!~年下の天才と謎を解いてたら、いつの間にか囲われてたんですけど~》十二話「死者の骸と戯れましょう」中

その表は真剣そのものだが、平間にはどこか壱子がこの狀況を楽しんでいるように見えた。

何かを模索しているこの不可解な狀況に興しているのか。

だとしたら、狀況が狀況だけに微妙に不謹慎だと平間は思うのだが、そこの辺りはどうなのだろう。

「おい平間、聞いておるか?」

ハッとして視線を落とすと、頬を膨らせて不満げに平間に視線を向ける壱子と目が合った。

「え? ああ、うん。窟の方が良い理由だよね」

「そうじゃ。なにがあると思う?」

平間は思考を巡らせるため、腕を組んで視線を上げた。

木々の隙間からのぞく空が青い。

……じゃなくて。

もし自分が死を棄てなければならない立場だったら?

まず、この森を選ぶのは悪くない。ヌエビトの噂と、昨晩壱子が言っていたツツガムシ病による「呪い」のせいで、誰もこの森にろうとしないからだ。

森にる人がいなければ、運び込むことさえ出來れば死が見つかる心配は無い。

それなのに、わざわざ窟の中に運び込んだ理由は……やはりさらに念を押して隠したかったからじゃないか?

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……いや、違う。

さっきから言っているじゃないか、隠したいのなら埋めればいいんだ。

確実にそのほうが見つかりにくい。

現にいま、平間たちが窟で骨を見つけてしまっている。

そういえば、気を失った人を運ぶのは、そうでない人を運ぶよりもずっと大変だと聞いたことがある。

やはり死んだ人を運ぶのも、同じように大変なのだろうか。

大変といえば、埋めるためのを掘るのもかなり労力が要る。

それも十何人ものとなれば……。まさか。

窟なら、埋めるためのを掘らなくていいから?」

「悪くないが、それは考えにくいと思う」

「え、違うの?」

「違わない。その可能も大いにあるし、私もそれを考えた。しかし、ここに死を運んだ者はとにかく『死を見つけられたくなかった』はずなのじゃ」

「なんでそんなことが分かるんだ?」

「骨の狀態から、彼らが棄されたと思われる期間は十年弱の間で、しかもバラつきがある。これが七年か八年だとすると。およそ年間二の頻度で棄が行われていることになるが、これはそんなに頻繁とは言いがたい。年に二なら、極端な手間にはならぬ。自分も森の呪いにかかる危険を犯すような人間が、その程度の手間を惜しむとは思えぬのじゃ」

「つまり、一度にたくさんの死を棄てたわけじゃないから、埋めるための労力はそんなに関係ないってこと?」

「そういうことじゃ」

なるほど。

しかし、見つけられたくないなら窟を選ぶって……。

その時、平間にある仮説が浮かんだ。

「ねえ壱子、村長さんは、數年前に勝未村の人たちがこの森にったって言っていたよね。たしか、薬草を探すために」

「ああ、言っておったな……ああ、そういうことか!」

壱子は口角を上げて、目を輝かせた。

平間もつい早口になる。

「薬草ってさ、『地面を掘らなきゃ見つからないもの』ってある?」

「あるぞ。たくさんある」

だとしたら。

「死を運んだ人は、『勝未村の村人が森で薬草を探すことを知っていた』んじゃないかな。だから掘り返されて見つかるかもしれない地中より、滝のおかげで存在が知られにくい窟を選んだ」

「それじゃ。私もそう思う。骨の狀態から見ても、棄てられた時期と勝未村の村人が森にった時期とが一致するしな」

満足げに壱子がうなずく、

その時、沙和がおずおずと口を開いた。

「……ってことはさ、あの窟の人たちを殺して運んだ人は、勝未村の人の中にいるってこと……?」

……あ、そうだ。

順當に考えれば、そうなる。

壱子と平間がうなずくと、表を曇らせたままの沙和が続けた。

「だったらさ、アタシ達がこの窟を見つけたってことが知られたら、不味くないかな?だって、犯人って言うのかな、その人は死を見つけられたくないから窟に隠したわけで……。そんな人が近くにいるかも知れないってことは、もしかしたらアタシ達、夜中に襲われたりして……」

沙和が言葉を紡いでいくにつれて、重苦しい空気が三人の間に漂い始める。

の心配はもっともだ。

相手は、こんなにもたくさんの人を手にかけている人間だ。しかも、それを隠蔽するために「ったら死ぬ」と言われる森に立ちることまでしている。

よほど発覚を恐れていると考えてしかるべきだろう。

そんな人間だったら、口封じのために平間たちを殺そうとする可能だってある。

この沈黙を破ったのは、壱子だった。

「分かった、このことは三人意外には口外無用としよう。あ、隕鉄には言ってよいな?」

壱子の問いかけに、沙和は黙ってうなずいた。

「よし、では次の問題は『あの骨の主は誰か』ということじゃ」

壱子がそう切り出したが、平間は首を傾げて言った。

「散した骨が十五人分、それに『夫婦』の骨があるから、全部で十七人か……やっぱり多いね」

「多いな。それに私たちが知っている森での犠牲者が旅商人の夫婦の二人だけ、最初にヌエビトを見たと言って失蹤した男を含めても三人だけじゃ。これでは全く數が合わぬ。この辺りでそれだけの人間が消えたという話がないか、調べねばならぬじゃろう」

「調べることが増えたね……というか、骨から持ち主が分かるものなのか?」

「骨そのものからでは分からん。ある程度誰のものか目星をつけて、生前の報を集めてから、ようやく分かるか分からないか、というところじゃな」

「だったら、かなり難しそうだね……」

「うむ。それゆえ、何の手がかりも無い今の狀態で骨の主を探すよりも、いっそ犯人を見つけて吐かせたほうが楽かも知れぬ」

「分かった、そうしよう」

とにもかくにも、誰がこの森に多數の死を棄てたのかを探らなければならないということだ。

「さて壱子、この後はどうしようか?」

「まあ、日暮れまで森を歩いてみよう。あ、その前に晝食じゃな」

「確かに、お腹空いてきたね」

「それならさ、さっき良いじの空き地を見つけたから、そこで食べない?」

「いいですね、そうしましょう」

沙和の提案に平間は大きくうなずいた。

が、壱子は浮かない顔だ。

「……どうしたの、壱子」

「私は、その……森の中で食べるのは反対じゃ」

「え、どうして?」

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