《わがまま娘はやんごとない!~年下の天才と謎を解いてたら、いつの間にか囲われてたんですけど~》十三話「罪なき命を刈り取りましょう」上

気が付くと、平間は周囲を無數の熊に囲まれていた。

「平間、カレヤギならまだあるぞ!」

服姿の壱子はそう言うと、平間の慎重の二倍はあるかという、巨大なカレヤギを平間に手渡した。

抱きかかえるようにして平間がカレヤギをけ取ると、壱子は黃金こがねいろのに覆われた尖った耳をピクリとかした。

「……壱子、その耳は?」

「かわいいじゃろ? しかし細かいことは後で話す。今は熊を何とかせねば。さあ平間、そのカレヤギにまたがるのじゃ」

そうだ、この熊から逃げないと。

壱子に言われた通りに平間は巨大カレヤギにまたがると、後ろの鉄球部分から猛烈な火炎が噴き出した。

そして、グンとが押し上げられたかと思うと、平間はカレヤギと共にあっという間に空高く舞い上がった。

眼下には無數の茶い點となった熊たちが、はるか遠くにぼうっと見える。

「ふう、何とかなったのう」

平間が聲のするほうへ目を向けると、相変わらず尖った獣の耳を生やし、巫裝束を纏った壱子がそこにいた。

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どういうわけか、ぷかぷかと空に浮いている。

「だから壱子、その頭から生えている耳は何なんだ? それに服も……」

「何を言うておる、お主が著ろと言うたから著ているのじゃぞ。この耳はおまけじゃ。さ、分かったら早く起きるのじゃ」

「起きるって……? あと、狐の耳だよね、それ。僕は貓のほうが似合うと思う」

「ふむ、ならば次は貓にするか……」

などと良く分からない會話をしているうちに、カレヤギの鉄球から出ていた火炎はしゅるしゅると小さくなっていく。そしてついに、「ぷすん」とけない音を立てたっきり、完全に消えてしまった。

炎を失ったカレヤギは、平間を乗せたまま、まっさかさまに地面に向かって落ちていく。

カレヤギにしがみつく平間に、壱子は急かすように言った。

「さあさあ、早く起きよ平間」

「でも、落ちてる!」

「さっきから何を訳の分からないことを言うておるのじゃ。起きろと言うに!」

落下はどんどん加速し、景がぐるぐると回転する。

地面と衝突するまさにその時、目の前には怪訝そうに覗き込む壱子の顔があった。

【皇紀五五年三月五日(森の初探索の翌日)、朝】

「あれ、壱子、耳は?」

「寢ぼけておるのか? さっきから狐だの貓だのと寢言を言いおって、一どんな夢を見ておったのだか」

「夢……。夢か、そうだよな……」

巨大カレヤギで空を飛んでいた気がする。

壱子の格好もおかしかったし。

そういえば、夢には見た人の潛在意識が影響すると聞いたことがある。

もしそうなのだとしたら、狐耳を生やし巫の格好をしたあの壱子は……。

「いや、やめよう。考えてもロクなことが無さそうだ」

「何を言っておるのか分からぬが、よほど深く眠っていたようじゃな。ふふ、森での疲れで睡するとは、お主も可らしいところがあるではないか」

なぜか嬉しそうに言う壱子の額ひたいを、平間は何も言わず指で弾いた。

「あいたっ! 何をする!」

「……なんとなく腹が立った」

両手で額ひたいをおさえて抗議する壱子が、平間にはなんとなくおかしかった。

そんな平間を見て、壱子は怪訝な顔をしながら立ち上がる。

「まったく、朝から訳の分からぬやつじゃ。さ、食事にするぞ。今日も森を歩き回るから、しっかり食べねばが持たぬ」

――

食事を済ませ、平間、壱子、沙和の三人は今日も勝未の森に向けて宿舎を発った。

前日同様に厚手の革靴を履き、袴の裾を絞って森へ向かう。

「壱子ちゃん、今日も昨日みたいに森を歩くの?」

「そうじゃな。ただ、それに加えて今日はこれも仕掛けたい」

そう言って、壱子は自分の背負った荷を指した。

「『これ』って、ヌエビト用を仕掛けるの? ずいぶん騒な罠を使うんだね……」

「いや、カレヤギは昨日の一本きりじゃ。今日仕掛けるのは……」

壱子が取り出したのは、昨日隕鉄が大量に運んできた小さな檻だった。

「このネズミ捕りを森のあちこちに仕掛けようと思う」

「……なんで? 食べるの? 私も本當にお金が無いとき食べたことがあるけど、はっきり言ってあんまり味しくないからオススメはしないかな」

し舌を出しながら顔をしかめて沙和は言う。

「あ、でも街のネズミは痩せてたから味しくなかっただけで、森のネズミはいっぱい食べてるから味しいのかも? いや、でも呪いがある森のネズミはちょっとヤだなあ……」

「待て待て待て、私は一言も『捕まえたネズミを食べる』などとは言っておらぬぞ」

「……? じゃあネズミなんか捕まえてどうするのさ」

沙和の問いに、壱子は「良くぞ聞いてくれました」と言わんばかりにニッと笑う。

「気取って言うなら、ヌエビトを倒すためじゃ!」

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