《わがまま娘はやんごとない!~年下の天才と謎を解いてたら、いつの間にか囲われてたんですけど~》十九話「心を強く持ちましょう」三
壱子の口ぶりからは、傲慢や自尊や虛栄のは見えない。
しかしそれでも、平間には壱子のいう事がにわかには信じられなかった。
「醫事方の記録は壱子の頭の中にあるってこと……?」
「うむ。ちなみに記憶する者は他にも何人かいるらしいが、それぞれがずべてを覚えることを義務付けられている。なぜ分散させずに全員に全てを覚えさせるのかまでは知らぬ。恐らく記憶違いとか、記憶者の急逝に対応するためじゃろうとは思うが」
「でも、それなら普通に記録した方が良くないか」
「そうとも言えぬ。竹簡などは酷くかさばるし、紙だとさっき言ったように『無粋』なものになる。それに対し、記憶に頼るなら扱うべきは人だけじゃ。覚えさせると、持ち運びが楽になる。処分も含めてな」
壱子は薄く、自嘲気味に笑う。
彼の言う「持ち運び」「処分」の意味はぼんやりとしか分からなかったが、恐らく良い意味ではないのだろう。
深くれるべきではないのかもしれないと、平間は話題を変える。
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「つかぬ事を聞くけど、醫事方の記録ってどれくらいあるの?」
「皇國自がまだ若い國じゃから、諸王國まえの時代から引き継いだ記録が多あるが、大した量ではないよ」
「そうじゃな、これくらいの厚さの紙の本が――」
そう言いつつ、壱子は親指と人差し指で隙間を作る。
それはおおよそ一寸いっすん(三センチメートル)ほどだ。
「――だいたい二萬冊くらいじゃな」
「にまん……?」
「二萬じゃ。一萬の二倍のことで、一萬は千の十倍、千は百の――」
「それは分かる! そうじゃなくて……二萬って可能なのか? その、人間の能力的に……」
「可能なのじゃろう。現に、私は覚えている」
平然と言う壱子に対して、平間は何を言うべきか迷う。
あまりに突拍子の無い話だ。
すると平間は、壱子がこちらにどこか不機嫌そうな視線を送っていることに気づく。
「……平間、もしやお主、疑っておるのか?」
「正直、まあ、し」
「言っておくが、私は人間じゃぞ。何を以って人とするかは議論の起こるところであるが……例えば、母親の胎からが全部出たら人間とするとか、いや一部だけでも良いとか、ではが全く出來ていない未な赤子はどこまで人間なのか、というような話もある。しかしいずれにせよ、私は人間じゃ。慣用表現として才能が突出した子供を鬼子おにごということもあるし、私もそう呼ばれたこともあるが、それはあくまで表現の一つ出會って、人間であるかどうかについて言及しているわけでは……」
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「分かってる! 壱子が人間かどうかを疑っているんじゃないよ」
「ん、そうか? では何が疑問なのじゃ?」
本當に分からない、と言うように、壱子は不思議そうな表を浮かべて平間を見やる。
それと同時に、平間も不思議に思った。
幅広い知識を持っているのに、壱子は今のように本當に的外れなことを言うことがある。
もちろんそんなことはあまり無いのだが。
庶民である平間と大貴族の娘である壱子。
この二人の間にある生活環境の違いが、今回のような會話の齟齬を生むのかもしれない。
「壱子、僕が疑っているのは壱子が人間なのかどうかじゃなくて、二萬冊の知識が本當に一人の頭にるものなのかってことだよ。それに、醫事方の記録となれば、よほど正確に覚えておかなきゃいけないだろ? 正確に、かつ大量に覚えておくことなんて……」
「では、一つ見せるものがある」
そう言うと壱子は立ち上がり、チラリと沙和の亡骸を見やる。
それから何かを短く小聲で呟いたかと思うと、障子を開けて部屋を出た。
平間は戸ったが、壱子が通った障子の隙間が開けっ放しになっているところを見ると、どうやら「付いて來い」と言っているらしい。
平間も立ち上がり、つい沙和のほうを見る。
布団に橫たわる彼の表は安らかで、眠っているといわれても違和は抱かないだろう。
そう思えば思うほど、平間には沙和がなぜ命を落としたのか疑問にじざるを得ない
つい數日まで健康だった人が、突然帰らぬ人となることがある。
それは平間だって分かっていた。
しかしそれが近な人間で起こるとは思っていなかったし、それがまさか沙和のような若い娘だとは想像もしていなかった。
そして今の壱子は、平間から見てどこかおかしい。
いや、だいたい何時いつもどこか言などがおかしいのだが、今はそうではなく、もっと漠然としたおかしさだ。
もしかしたらそれは、何時も以上に彼が何を考えているのか分かっていないからかも知れない。
廊下へ出た壱子の後を平間が追うと、壱子は自分に割り振られている部屋にっていく。
そして部屋の片隅に積まれていた本の一冊を取って、平間に寄越す。
その本の表紙には「丙四〇二二、三」と書かれている。
表題だろうか。
そして表紙の下辺には割印わりいんが二つ。
それだけしかない表紙は、ずいぶんと味気ない。
「これは?」
「醫事方の仮記録じゃ。私が覚えるために渡されたもので、覚え終えたら返卻するように言われておる」
「醫事方の記録って……え、こんなもの持ち出していいの!?」
「ダメに決まっているじゃろう。しかしまあ、々対策はしているらしい。開いてみよ」
壱子の言うとおりに、平間は本の中をぱらぱらとめくってみる。
中にはぎっしりと文字が書かれていた……のだが、その文字は奇怪で、見たことの無いものだった。
「読めない」
「それはそうじゃろう。醫事方で使われている暗號じゃ。古いにしえの神代に使われていた文字から作ったらしい」
「なるほどね。ちなみに、これって僕が見てもいいの?」
「ダメに決まっている。醫事方の人間が見たら、ただでは済まぬぞ」
平間は顔をしかめて、即座に本を閉じた。
とんでもないものを何でも無いように見せないでしい。
押し付けるように本を壱子に返すと、ふと平間の頭に疑問が浮かぶ。
「ていうかさ、醫事方の記録って言うのは、それ自が機なんだよね」
「ああ、その通りじゃな」
「で、壱子はその醫事方の記録を暗記しているんだよね」
「その通りじゃ。しかしまだ完全ではない。九割がた、と言ったところじゃ」
「だとしたら、壱子は機の塊みたいものになるよね」
「そうとも言えるな」
「だったら、君がこんな所に居ていいの?」
平間の問いかけに、壱子は目を丸くした。
そしてすぐに、こらえるように笑い始める。
つられて、平間も曖昧な笑みを作った。
「ふふふ、平間、お主もおかしなことを聞くのう」
「そうだよね。ダメならこんな所にいるわけが――」
「いやいや、ダメに決まっておるじゃろう。むしろ皇都から出ることはもちろん、屋敷から出るのもじられておる。なんなら、私を連れ出した者は大逆罪に準じた罰をけるぞ」
悪びれずに、真顔で言ってのける壱子。
対照的に、平間は作り笑いのまま表をこわばらせたままだ。
「ん、どうかしたか?」
小首をかしげて言う壱子に、平間は聲にならぬ聲を上げて髪をかきむしる。
「壱子、おかしくないか!? どうして外に出たらいけない君が外に出ているんだ!?」
「確かにおかしいよ。私もそう思った。しかしまあ、私を連れ出したのは梅乃だし、そんなことを言われても困る」
「ああ、梅乃さんか……。ん、壱子?」
平間はふと、壱子の表が寂しげなのに気付いた。
「……あ」
そうか。
先ほどの自分の言葉を、平間は思い出す。
『どうして外に出たらいけない君が外に出ているんだ』
言った平間にとっては何気ない一言だったが、壱子はそれをどう聞いていたのだろう。
皇都や、関から勝未村までの道のりで、周囲の景を目を輝かせて見ていた壱子の顔を思い出す。
自分で恥じるほど、あまりに配慮に欠けた言葉だ。
「こめん壱子、変な意味で言ったんじゃないんだ」
「大丈夫じゃ。私のことは私が一番よく分かっておる。梅乃とて、そのことを分かっているからこそ、私をお主と引き合わせたのじゃろう」
つまり梅乃は、屋敷の中という狹い世界しか知らない壱子に、広い世界を見せてやろうとしたのだ。
出會った時の壱子の話から考えると、恐らくそれは梅乃の獨斷だと思われる。
だとすれば、梅乃は壱子の外出をうまく隠してくれているのだろうか。
しかしそうだとしても、壱子が屋敷と皇都を離れてから、もう二週間以上経っている。
どこまで誤魔化しきれるのかは分からないし、あるいはもうバレてしまって壱子の追っ手が放たれていることも考えられる。
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