《わがまま娘はやんごとない!~年下の天才と謎を解いてたら、いつの間にか囲われてたんですけど~》二十話「憎き化生を斬り裂きましょう」上
【皇紀五五年三月十七日(翌日)、夕暮れ】
勝未の森のり口に「ヌエビト」はいた。
その巨大な軀を暮れ行く太から背けさせ、ゆらりゆらりと左右に揺れていた。
二つの頭にそれぞれ付いた二対の虛ろな眼を村の方へ眼を向けて、いずれ來るであろう敵に備えている。
ヌエビトの周囲には、異様な「気」が漂っていた。
自然的な腐臭と、人工的な悪臭が混ざり合っている。
その臭気は、周囲の人間の顔をしかめさせるのに十分すぎるほどに強い。
「全く、鼻が曲がりそうじゃな」
突如として聞こえてきた涼しげな聲に、ヌエビトがぐらりと大きく揺れた。
「どういう処理をしているか分からぬが、あまり上手くは無いな。それだけ年月としつきを経ているということかも知れぬが」
その聲は、小柄なのものだ。
しかしその姿を「ヌエビトの眼」が捉えることは出來ない。
不自然に高い場所から聞こえてくることは分かるのだが。
「いつから使っておるのじゃ? その様子を見ると、せいぜい三年位か、それとも継ぎ足し継ぎ足し使っておるのか。まるで伝統のタレのようではないか。のう、隕鉄?」
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「まことに」
に応じる、太い男の聲。
その時ついに、「眼」がの姿を捉えた。
彼は一際大きな木の上で、これまた大きな男に抱きかかえられてこちらを見ていた。
「見つかってしまった。隕鉄、もういいじゃろう。降ろしてくれ」
「意ぎょいに」
大男はそう言うと、ひらりと木の枝から飛び降りて音もなく著地する。
男の軀に全く似合わない、そのあまりにらかな著地に、「ヌエビトの眼」には男が人外の何かであるかのような錯覚を覚える。
しかし、おかしい。
このは森にいるという話だったはずだ。
あっけに取られていると、がスルリと男の手から降りる。
そして懐から淡い桜の扇子を取り出し、ひらひらと己に風を送る。
「こうもジメジメとしていると、屋敷の氷菓子がしくなってくるな」
「……」
「さてヌエビト殿、本來私たちは“こちら側から”お主と會うことは無いが……果たして私はどうなってしまうのかな?」
はニヤリと笑う。
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細められた目の奧からは、ギラギラとした挑戦的なが宿る。
だがその中に彼の悲哀が隠れていることは、本人でさえ気付かなかった。
「ヌエビトの眼」は考えた。
予想外の事態だ。
いままで全て上手く行っていたこともあって、思考が上手く回らない。
……いや、こういう時こそ単純に考えよう。
このを“黙らせる”ことは許されているのだ。
「おお、そう來るか。鉈に匕首あいくちに鎌……まことに、妖怪あやかしより人の子のほうが恐ろしいとはよく言ったものじゃな」
ぱちり。と小気味良い音を立てて、が扇子を閉じる。
それと同時に、彼の後ろに控えていた大男がかすかに揺れるのが見えた。
――
【しさかのぼって、同日、朝】
壱子はちゃぶ臺をはさみ、平間の向かいに腰を下ろした。
二人の間には平間の用意した朝食がある。
とはいえ、昨晩炊いた米の殘りと簡単なだけの質素な食事だ。
壱子はついさっき「この村にはもう、そう長くは居ないじゃろう」と言って、平間が朝食を用意する橫でやたらめったらに食材を使わせようとしていた。
材料を余らせまいと思ったのだろうが、下手に手を加えては帰って食材を無駄にしてしまうと考えた平間は、慣れない手つきで野菜に包丁をれようとしていた壱子を寸でのところで制した。
壱子はムッとした。
平間は、なぜ壱子がこの勝未村に長居しないと言ったのか、不思議だった。
もしかしたら、壱子の中では沙和の死因が判明していて、かつヌエビトの謎が綺麗さっぱり解けたからだろうか。
あるいはこの宿舎の一室で眠っている沙和の亡骸を葬らなければいけないからか、なんてことも考えた。
しかしそれと同時に、「もう暑くなってくる時期だもんな」なんて考えてしまった自分が、平間は嫌で堪たまらなかった。
この日の朝食は平間と壱子の二人きりだった。
隕鉄はまだ眠っているのだろうか。
昨日帰ってきたばかりだし、いくら鉄のようなを持っている隕鉄でさえ、疲れが溜まってしまったのかもしれない。
二人は、珍しく言葉なに、黙々と箸を進めていた。
箸と食の當たる音。
咀嚼音。
をすする音。
無機質な音と生々しい生きの音が、雑にじり合って響く。
この広間は、たった二人には広すぎる。
「平間。お主は、演技が下手そうじゃのう」
不意に、壱子が口を開いた。
その発言の趣旨が分からず、し黃くなっていた米を嚥下しながら、平間は首をかしげる。
「……演技? 演技って、芝居のこと?」
「うむ」
いきなり下手だ、と決め付けられて、平間はしムッとする。
実際、平間に演技をする自信は無かった。
しかしそもそもなぜ演技をする必要があるのか疑問だったし、第一、噓をつくのが凄まじく下手な壱子に、そんなことを言われたくはない。
そんなことを平間が考えていると、壱子は返事を待たずに続ける。
「まあ良い、お主の今日の予定は?」
「あまり無いけど……というか壱子、何か分かったなら教えてくれ」
「急いてはことを仕損じる。準備を萬全にするのが肝要じゃ」
「それらしいことを……。で、予定を聞くってことは何かしたいことがあるんでしょ?」
「うむ、まあな……」
平間の問いかけに壱子は俯き、言葉を濁す。
そしてし考え込むと、顔を上げて言う。
「……よし決めた。今日は森に行く。し調べたいことがあるからな」
「分かった、じゃあ食事が終わったら用意するよ」
「いや、今日は私だけで行く」
「え?」
壱子の予想外の言葉に、平間は思わず耳を疑った。
「壱子、一人で森に行くって……そんなの危険すぎる」
「大丈夫じゃ。森のり口でし用事があるくらいだから、晝過ぎまでには戻る」
「でも――」
「大丈夫じゃ」
壱子は平間の言葉をぴしゃりと遮ると、小鉢の漬の最後の一切れを口に放り込んだ。
こりこりと口をかしながらそっぽを向く壱子の態度からは、平間に一切の反論を許さないという彼の意思がふつふつとじられる。
今の壱子は、何か急いでいるような気がする。
それにこの村で、あるいは沙和のに何が起きていたのか分かったようなのに、それを教えてくれるような様子も無い。
平間が知っては、何か不都合でもあるのか。
妙な憤りに駆られて、平間は眉をひそめた。
「あ、そうじゃ平間、言い忘れておった」
「何?」
壱子は平間の目を真っ直ぐに見て、小さく微笑む。
しかし、その表がどこかいように見えるのは気のせいだろうか。
「今日の夜は忙しくなりそうじゃ。晝の間あいだにしっかりと休んでおくのが良いと思うぞ」
「……はぁ」
「頼んだぞ。何があっても良いように、な」
釈然としない表の平間を殘して、壱子はそそくさと席を立った。
そして自分の使った食を持って臺所に向かう。
それは、彼がここに來て始めてにつけた習慣だった。
確か、沙和が壱子にそうさせたのだった。
そう思った瞬間、平間はの奧がカッと熱くなるのをじた。
結局その日、壱子は晝過ぎどころか、日が暮れる頃になっても戻らなかった。
――
【再び、同日の夕暮れ。森のり口付近】
一人、平間は村を出て、森へ至る道を進んでいた。
壱子が消えて、その姿を探し回っていた平間は、最後に捜す場所としてこの森を選んだのだ。
もし彼が意図せず森ここにっていたなら……。
そんな嫌な想像を、平間は首を振って否定する。
森が近付いてくると、平間の目に人間にしてはあまりに巨大な影が映る。
間違いない、ヌエビトだ。
前に壱子と見た時と同じように、ヌエビトは西日を背にして立っていた。
そのせいで、その細かな容貌はハッキリしない。
しかし今回は、以前のヌエビトとは何かが違うような気がした。
それが壱子や皿江がいないからなのか、あるいは前には聞こえた不気味な唸り聲が無いからなのか、平間には分からない。
「參ったな、やっぱり出てくるか」
おそらく平間は、壱子が行きそうな森以外の場所を全て探した。
宿舎の中はもちろん、川べりや広場、皿江の屋敷周辺、それに萬が一に備えて井戸の中。
無論、村人にも壱子の行方を尋ねて回った。
しかし、それでも壱子は見つからなかった。
平間はその上でここに來ている。
ヌエビトを見定めた平間はしだけ足を止めてから、しかし前へ――ヌエビトへ足を進める。
襲われたとしても、何か手がかりは得られるはずだ。
それに、前方に立ちはだかるヌエビトからは、何とも言い難いが、生気のようなものをじなかった。
徐々に、ヌエビトはその正を曬していく。
その雙頭の巨軀は、太いのびっしり生えた皮で覆われていた。
と同時に、獨特の臭いが風に乗って平間の鼻を突く。
腐ったと、糊のりと、飼育小屋の臭いが混ざったような、奇妙な香りだ。
「これが妖怪の発する臭いか、話の種にはなるかな」などと呑気に考えながら、平間はなおも一歩一歩、足を前に運んでいく。
平間が一五間(十八メートル)ほどの距離まで近づいても、なぜかヌエビトは一向にこうとしない。
すると平間は、ヌエビトのの流れにどことない違和があることに気付いた。
よくよく見ると、二つの頭の間で谷になっている部分にい痕がある。
首から下も近付けば近付くほどに不自然で、肩から腕にかけては不恰好な綿袋のように不自然な凹凸を描いていて、遠目に見て初めてそれが腕のように見えるのだと気付いた。
足元に至るとなお酷く、足の形を再現するどころか臺のようになっていて、よく見ると車らしきものも見える。
気を存分に含んだ風に揺れる獣の間に覗く目は白く乾き、おぼろげな眼差しを村に向けていた。
虛像だ。
そう確信した平間がさらにヌエビトに近付き、そのにれる。
太いがれて、カサリ、と乾いた音がした。
その時、平間の耳に明るい聲が響く。
「やあ平間、來ると思っておったぞ」
聲の主が、ヌエビトの像の後ろから姿を現す。
それは、平間が見慣れた小柄なだった。
――
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