《わがまま娘はやんごとない!~年下の天才と謎を解いてたら、いつの間にか囲われてたんですけど~》番外之話「沙和のイタズラと、○○しないと出られない部屋」上

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沙和さわは墓石に腰かけ、頭をひねっていた。

皇都を出た先で出會ったとその従者の年と共に、妖怪退治と灑落こんだことは覚えている。

その後、と料理をしたり、をからかったり、森を探検したりした。

そして寒い窟に連れていかれて、なぜか出られなくて、明るくなった頃に年に連れ戻された。

……しかし、それより後の記憶が無い。

気付けば、この共同墓地にいた。

周囲のものより裝飾がしだけ豪華な墓石に、今のように腰かけていたのだ。

考えることは得意でない沙和だったが、彼の出した結論は「どうも自分は死んでしまったらしい」ということだった。

さて、そんな沙和には一つ、困ったことがある。

暇なのだ。

周囲に自分と同じような人たちが十人程度いたが、どうもみんな暗くていけない。

一通り世間話をしてみたが、誰もが何か薄暗いを抱えているようだった。

逆に沙和自はこの狀況を楽しんでいる節があって、し集中すれば宙に浮けるも気にっていた。

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しかし、絶的に暇だった。

昔誰かが言っていた、「退屈は人の神を殺す水毒」という言葉の意味は、沙和は今更ながら痛していた。

しかし、ここに來て一週間ほど経ったころ、沙和は一つの心躍る事実に気が付いた。

何となく墓地からは出られないと思っていたのだが、その気になれば墓地の外へ漂っていけるのだ。

この発見は鬱屈した気分を晴らすには十分すぎるもので、沙和を小躍りさせた。

まあ、足は無かったが。

それから、皇都を飛び回って様々なものを見た。

多くの人が行きう往來をのんびり眺めるだけでも気が紛れたが、やはり共に旅をした者たちのことは気がかりだった。

そのの小柄なが屋敷に囚われていたときはその姿に同したし、彼年によって助け出されたときは心が躍った。

しかし何より目を見張ったのが、が持ち前の弁舌で父親と渉し、うまく丸め込んでしまったことだ。

その結果、は基本的には屋敷で暮らすが、年の家に出りすることが出來るようになったらしい。

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二人の仲がサッパリ進展しないのを見ているのは、相変わらずもどかしかったが、それでも楽しくやっているらしい。

墓前にも、月に一度ほど足を運んでくれていた。

しかし、暇だった。

ひとしきり漂って気付いたのは、沙和は墓所から出ることは出來るが、皇都からは出られないということだ。

無論、皇都でも様々な事件が起きていたが、興味のそそられることは多くない。

皇都に知り合いはないし、沙和のでは何も介できないから、なおさら白けてしまう。

沙和はよく晴れた空を見上げ、首をかしげて考え込む。

「やっぱり、今日も遊びに行ってみよう」

そう獨り言をらして、沙和はふよふよと宙を漂っていった。

――

「平間! 父上はひどい! 私の言うことを何も聞いてくれぬ!!」

小さな長屋の小さな一室で、小柄なが涙ながらに訴えた。

その手には濡れた手拭いがあるから、多分ウソ泣きだろう。

「また喧嘩したの? こうして自由にさせてもらっているんだから、些細なことで文句を言っていたら罰が當たるよ」

の愚癡には慣れっこなのか、平間と呼ばれた年は淡々と返す。

その口ぶりが気にらなかったのか、は頬を膨らせて平間を睨んだ。

「……喧嘩の訳を聞かぬのか」

「聞いてほしいなら、聞くけど」

「そんな態度ばかり取っていると、実家に帰ってしまうぞ」

「だいたい毎日帰っているじゃないか」

「むぅ……!」

はさらに頬を膨らせて、濡れた手拭いで平間の頭をはたく。

「冷たっ! 壱子、何するんだ!」

「平間、こんなに可らしい娘が、どうしてお主と一つ屋の下で暮らしているか、分かるか」

「玄風くろかぜさんと喧嘩したからでしょ」

「それもあるが……のう平間、お主は知っておるか? なんでも、仲の良い男には、必ずやらねばならぬことがあるらしい」

「なにそれ? 誰が言ってたの?」

「梅乃」

その名を聞いて、平間はあからさまに眉をひそめる。

平間はどうも梅乃に苦手意識があった。

先日、囚われていた――壱子を助けに屋敷に乗り込んだ時も、単純な利害関係でなく、自らの信念のもとで梅乃はいていた。

しかしその信念は平間には理解の付かない底知れぬもので……とにかく不気味ですらあったのだ。

そういうわけで、梅乃の名前を聞いたとき、平間は何となく構えるようになっていた。

今回も、妙に嫌な予がする。

平間は心を落ち著けるために、水筒に殘っていた水を一気にあおる。

「で、やらなきゃいけないことって何?」

「うむ、それがな……梅乃が言うには『契りを結ぶ』ことが必要らしい」

「ブハッ!!」

盛大に吹き出した平間に、壱子は苦言を呈する。

「平間、汚いぞ。……大丈夫か?」

「げほ、げほっ……えぇ?」

「だからな『契り』を――」

「待った待った! 壱子、その話はやめよう!」

「なんじゃ、何かまずいのか?」

きょとんとする壱子は、不思議そうに首をかしげる。

一方の平間は、俯いて壱子に背を向ける。

「のう平間―、何かまずいのか?」

「まずくはないけど……梅乃さんは、その、『契り』について何か言っていたの?」

「いや、何も? 詳しくは平間に教えてもらえと言っておったが」

「あの人は……」

「平間、もしやお主も知らぬのか? だったら今度、二人で梅乃に訊きに――」

「それはダメだ!」

平間は反的に首を振る。

その眼は真剣そのもので、壱子も何かを察したらしい。

「分かった、ではお主が教えてくれ」

「それは……また今度ね」

「なんじゃ、やはり知らぬのか?」

「知って、る! けど、また今度だ……!」

「ふーん、まあ良いが」

つまらなそうに呟いて、壱子は畳に寢転がった。

平間がこの時かつてなく赤面していることに、壱子はもちろん気付いていない。

――

「はー! 本當に、本っ當に、じれったい!!」

平間の家の上で浮かんだ沙和は、誰にも聞こえぬ聲でぶ。

先ほどのやり取りをこっそり覗き見ていた彼は、この時ほど彼らに自分の聲が聞こえぬことを悔やんだことは無い。

「なんとかしてやりたいけど、もう私は幽霊なんだよなあ……」

もし彼らの間になんらかの障害があったのなら、その障害になっている人間に取り憑いてやることも出來たかも知れない。

しかし、今回は平間と壱子そのものが問題なのだ。

沙和は、自分がもうしそのあたりの「知識」を壱子に教えておけば良かったと後悔した。

「んー、どうしたものかな。どっちかに取り憑いちゃおうかな。出來るか知らないけど」

壱子を真似て、沙和は顎先に手を當てて考え込む。

その時。

「お困りのようね」

「うわぁっ!!」

予想だにしなかった聲に、沙和は飛び上がる。

振り向けば、そこには見目麗しい人が沙和と同じように宙で漂っていた。

沙和は聞こえるはずのない悸を抑えて、人に尋ねる。

「ビックリしたー! 心臓が止まるかと思ったよ。ま、もう止まってるけど」

「ごめんなさいね。貴あなた、壱子ちゃんの知り合い?」

「え? ええ、あなたこそ知り合い?」

「そう、可い妹なの」

「あー、そうですか。って、お姉さん!?」

「佐田梅乃と言います。よろしくね」

そう言って微笑む梅乃を、沙和は訝いぶかしげに見つめる。

そして両手を元で垂らして、

「もしかして、梅乃さんも幽霊これですか?」

「いいえ、幽霊それではないわ。言うなれば、生霊いきりょうってところね」

「生霊!? って、幽霊のあたしが驚くのもヘンな気がするけど、本當にいるんですね……」

「もちろん。強い気持ちがあれば、誰だって生霊になれるのよ。まあ、ちょっとだけコツが必要だけどね」

「はへー。すごいですねぇ」

子供並みの想を言う沙和に、梅乃は屈託なく笑う。

どこか悪戯っぽいその笑みの中に、沙和は壱子に似たものをじた。

「ところで、貴が壱子ちゃんたちの仲を進展させる方法があるとしたら、知りたい?」

「そんなのあるんですか? 知りたいです、知りたいです! 教えてください!」

「ものすごく正直ね……まあ良いでしょう。実は、縁えにしの深い二人は同じ夢を見ることがあるの。そして、生霊や幽霊は同じ夢を『見させる』ことも出來る」

「ふむふむ」

「そして恐らく、私と貴の力を合わせれば、二人に同じ夢を見させることができるはず。容も自由自在だわ」

そう言う梅乃の眼に、怪しいが宿る。

「そして、二人に見させる夢は……ごにょごにょ」

「な! それは何と刺激的な……!」

「どう、良い考えだと思わない? それに壱子ちゃんは本當は……ごにょごにょ」

梅乃の耳打ちに、沙和の表はみるみる明るくなる。

「ななな! あなたも中々のワルですね!」

「ワルじゃないわ。ただの妹が大好きなお姉ちゃんよ」

「なんでも良いですけど、やりましょう! 決行は今夜でいいですか?」

「ええ、楽しみにしてるわ」

そう言って梅乃は手を振り、屋敷の方へ漂っていった。

沙和は數か月ぶりにを躍らせ、壱子と平間のいる長屋を見つめて目を細めた。

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