《【完結】辛口バーテンダーの別の顔はワイルド曹司》2.いざ參る

ターミナル駅の繁華街は、週末も相まって、歩行者専用に區切られた道路が人でごった返していた。

その喧騒からし外れた裏手の細い道に、小さな看板の掛かった一枚板の扉が見えて來る。タクミが務めるショットバー『アスタリスク』だ。

燻んで良い味を出しているその重たい扉を開けると、地下に続く階段を降りる。

「足元、気をつけてね」

めぐみに聲を掛けながら、道香は三日前に訪れたばかりのバーの扉を開く。カランとドアベルが鳴ると、道香に気付いてタクミが聲を上げた。

「いらっしゃい。あれ、今日は一人じゃないんだね」

親しい友人に向けるようなタクミの笑顔の花が咲く。

「こんばんは。友だちが來たがって」

道香はめぐみの腕を取ると、タクミに向かって彼を紹介する。

馴染みのめぐみです。めぐみ、こちらがタクミさん」

こんばんは。めぐみは探るような目つきタクミを見るが、その不躾な視線に臆することなく笑顔のままで片手を振って挨拶をする。

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「どうも。道香ちゃんのお友だちなら大歓迎だよ」

座って座ってとカウンターに二人を呼ぶ。

「まあ、アンタが夢中になるのは仕方ないわ」

めぐみは小聲で道香の耳元に囁いた。

カウンター越しなので下はギャルソンエプロンしか見えないが、首元のボタンをラフに開けたタイトな黒のシャツは腕を捲り、指元にいくつかシルバーのアクセサリが遠慮がちにる。

タクミは長でスラリとしたつきで、肩口までばした髪は無造作に後ろで縛っており、そのおかげで整った顔がわになり、し垂れた髪のを耳に掛ける仕草が妙にっぽい。

「さて、道香ちゃんはピーチフィズで良いよね?めぐみちゃんは何を飲む?」

ナッツをセットすると、印象的なハスキーな聲でめぐみに尋ねる。

「グラスワインいただけますか。白で」

「りょーかい、白ワインね。しお待ち下さい」

めぐみのオーダーを聞くと、タクミは飲みの用意に取り掛かった。

まずは長くしなやかな指でワインボトルの底を持ち、片手を添えて白ワインを注ぐ。

「辛口だけど大丈夫かな」

めぐみにワインを差し出すと、すぐに次の材料を手元に置いて道香のドリンクを作り始める。

馴染みなんだ?」

「腐れ縁ですね」

流れるようにけ応えするめぐみに、タクミは笑ってその言い方はないんじゃないと手をかす。

「まあでも保育園からの付き合いだから」

道香はタクミの手元を見ながら苦笑いした。

「はい、道香スペシャル。甘めだよ」

すっかり覚えたらしい道香の好みの味に仕上げたピーチフィズのグラスを差し出す。

「ありがとうございます」

じゃあ乾杯しようかとめぐみがグラスを低く掲げる。今日二回目の乾杯を口にして、道香はピーチフィズを一口飲んだ。

ザッと辺りを見ると、道香たち以外に客はない。週末でまだまだ電車も走ってる時間帯なのに、平日の方が多くじる。

「タクミさんて、やっぱりモテるんですか」

つまみに頼んだグリルソーセージの出來上がりを待つ間、冷えたワインに味しい!と呟きながら、めぐみはグラスから視線を移して質問する。

「どうかな。有難いことにお客様けは良いかもね」

手元をかしながら、タクミはよく聞かれる質問なのか表一つ変えずにめぐみにそう返した。

「めぐみ……なんでそんな質問してんの。タクミさん、この子ちょっと変わってて。ごめんなさい」

道香は頭を抱えて代わりに謝る。めぐみの真っ直ぐな格は好きだが、たまに空気を読まない不躾なところがあるのはいただけない。

「いいよ道香ちゃん。気にしないで」

よく人がいるのかとか聞かれるし。とタクミは道香に微笑み掛ける。

「二人は馴染みの割にはタイプが正反対ってじだね」

料理をサーブすると、今度はタクミから質問が投げかけられる。

確かに道香とめぐみは見た目のじ、服の好みや、格まで180度違う。デコとボコと言うのが分かりやすい表現かもしれない。

「お互いのない部分がスポッと埋まるんですよ」

めぐみはそう言うと半分ほど飲んだワイングラスをカウンターに置いた。

「なるほど。そういう友だちって珍しいね」

そこまで言うと、他の客に呼ばれてタクミはその場から離れる。

「ふーん。タクミさんねぇ」

「なによ」

「あれは相當遊んでるよ」

めぐみは再びグラスワインを手に取ると、あんたの手に負える男じゃないわよと道香を見た。

「ちょっと話しただけじゃない。なんでそんなに否定ばっかりするの。彼氏とのことでイライラして八つ當たりの捌け口探してるの?」

「そんな下らない暇つぶしするわけないでしょ。アンタを心配してんのよ。今まで私が忠告して當たらなかったことないでしょ」

「それは……」

「不以前の問題児だよあれ」

聲を潛めて耳元に囁くと、めぐみはアンタお酒が減ってないわよと苦笑いした。

「なに?子トークかな」

カウンターに戻ってきたタクミが、新たなドリンクを作りながら二人を見てそう言う。

「いや、彼氏の愚癡を聞いてもらってたんですよ。聞いてくれます?アイツ……」

めぐみはすっかり話題を変えてしまう。

道香は薄く水滴が浮いたグラスをしっかりと両手で持つと、グリルソーセージを一口頬張り、そんなタクミとめぐみの他無いやり取りを聞きながら一杯目のピーチフィズを飲み干した。

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