《【完結】辛口バーテンダーの別の顔はワイルド曹司》5.土砂降りの先に行くところ

「……ちか、おい道香」

「ふぇ?」

「突然寢るなよ。ビビるだろ」

カウンター越しにウイスキーを飲むマサは、もう打ち止めだなと道香のグラスを下げる。

「なんかフワフワしてて。久々にハメをはずし過ぎたかな」

首や肩を捻ると、道香は大きくびをしてマサが注いだ水を口に含んだ。

「あれ、他のお客さんは?」

「……お前だいぶ飲んだろ。會話の容もまともに覚えてねえだろ」

「後半寢ながら喋ってたかも。でもさっきお手洗い借りてから最後の一杯ってお願いして……ああ!私のお酒」

「お前、今日はもう充分飲んだろ」

「んー。じゃあお會計お願いします」

「今日は良いよ。俺の奢り」

「なんで!それはダメだよ」

三時間以上話し込んですっかり気を許した道香は、友達に話し掛けるようにそれだけはダメとカバンから財布を取り出す。

マサは笑いながら本當に今日は良いってと財布をしまうように言うと、たまには夜中も顔を出せと道香に飲みに來るよう促した。

「夜中だったら、週末くらいしか來れないけど。今度は払うからね!」

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「おう。來い來い」

「んー。でもまだ飲み足りない」

「寢落ちしといてそれ言うのかよ」

困った顔で笑いながらグラスを片付けると、マサは戸締りするから出る支度をしろと道香に聲を掛ける。

マサは不思議な男だ。見た目はし凄味があるが人目を引くしい容姿をしている。男的だが妙な気がある。なのに今日會ったばかりのクセににタクミよりも話がしやすい。

道香はタクミに助けてもらって舞い上がっていたが、今まで通ってこんなふうに酔いが回るほど楽しく飲んだことはない。

タクミのことが気になっているとはいえ、マサは道香の好みの顔立ちをしている。野的だがしく、男らしい顔立ちに沿って格もいい。一見するとぶっきらぼうな印象をけるが、客商売で慣れているのか、話してみると會話も弾んだ。

聞き上手かと思えば、博識な面も見せてくれて話上手で飽きることがない。

「お前立って寢てんの」

用だなとマサが笑って道香の髪をくしゃっとでる。大きな掌とその熱に一瞬でカッとがのぼせたように熱くなる。

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「ほら、閉めるから先に出ろ」

「あ、はい。了解です」

「なんだよそれ」

扉を施錠して階段を上ると、ザーッという音と雨獨特の香りが鼻につく。

「うそ、雨降ってるの?」

階段を登り切って外の扉を開けると、バケツをひっくり返したような雨が地面を叩きつけるように降っている。

「あー。こりゃすごいな」

マサは空を見上げて稲を見つけると、雷まで鳴ってるぞと道香を見た。

白のシフォンシャツに薄手の黒いカーディガンを羽織り、下はベージュのタイトな膝下丈のスカート。店先に立っただけで雨に濡れて寒そうに震えている。

マサは無言で自分のライダースジャケットを道香に羽織らせると、お前んち遠いのかと聲を掛けた。

「電車乗り継いで2、30分」

「なら雨宿りに連れてくぞ」

「え?どこいくの?」

「いつ止むか分かんねえから俺んち」

「え!」

「駅まで歩いたらびしょ濡れだろ。俺んちも近くはないけどまだマシだ」

「そんなの無理だよー」

「あのな、はっきり言ったらお前……服けてんだよ。それで電車に乗せらんないって事だ。タクシーもな」

「あ……え、えっ!」

道香は自分の服を見て、マサが言う通り下著がけて見えていることに気が付いて急に恥ずかしくなる。ライダースジャケットを借りているので前を閉じればごまかせないことはない。

「でも、これ閉じたら大丈夫じゃない?」

「そんなずぶ濡れでタクシー乗せてくれねえって」

マサはポンと道香の頭に手を添えると、急ぐぞと店の施錠を済ませて歩き始めた。

マサの後を追うしかないので、土砂降りの中、既に濡れてしまっている道香は空を仰いで両手を広げたりして大聲で笑う。

そんな様子を時折振り返って見ては転ぶなよとマサが困った顔で笑う。

5分ほど歩いてそろそろの芯まで冷えてきたころ、マサがここだと言ったのはお灑落なマンションだった。

「ずぶ濡れだけど、乾燥機あるからお前の服も乾くだろ」

エレベーターに乗り込むと、道香の震える手をそっと握って冷えたなと濡れて頬に張り付いた髪を拭った。

7階に到著すると、廊下を進んで左の角部屋がマサの部屋らしく、鍵を差し込んで扉を開ける。

玄関を上るとすぐに右手の扉を開けて道香にもそこにるように促した。

「お邪魔します……」

「とりあえず、ジャケット以外は洗濯機にれてシャワー浴びろ。風呂貯めてやるからあったまれ」

浴室のパネルを作して湯を張ると、道香のライダースジャケットをがせ、自分もびしょびしょになった服をいで下著姿になる。

「ちょっと!ほぼ全じゃん。やめてよ」

「仕方ないだろ。部屋びしょびしょにしたくねえし」

「分かった……」

想像以上に引き締まったに、道香は目のやり場に困りながらも返事をする。

「そっちこそ冷えてないの?」

「お前が上がったら後でる」

マサはタオルの準備をして、さっさとあったまれとバスルームから出ていこうとするが、思い出したように振り返って道香を見た。

「悪いけどお前がシャワーったらすぐ洗濯機回したいからバスルームにるぞ」

「あ、うん。なんか々お世話になります」

「まあ、こんな天気だし仕方ねえわ」

まだ外は土砂降りの雨だ。マサがはバスルームから出て行ったので道香は下著も含めていだ服を洗濯機にれてシャワーを浴びることにした。

熱いシャワーにがビクッと震える。そこまで雨のせいでが冷えてしまっていたらしい。しばらくは何もせずシャワーに打たれるように棒立ちしていた。

湯船に湯が貯まっていくのを見ながら、なぜ今マサの家にいるのか不思議な気持ちになった。

「いやいや、ただの雨宿りだから」

首を振ると、浴室の磨りガラス越しにマサがバスルームにってきたのが見える。先に言っていたとおり洗濯機を回しに來たようだ。

しばらくガサゴソと音を立てて用事を片付けていたようだが、マサは一通りの作を終えるとバスルームから出て行った。

道香はようやくが溫まってきたのでシャンプーやボディソープを借りてを洗い、湯船でしっかりと溫まった。

風呂から上がると、洗濯機の脇の低い棚にバスタオルと黒のTシャツ、未開封らしい男用下著とジャージが置かれていた。

バスタオルでを拭き、髪の滴を絞ってからタオルドライで乾かすと、マサが用意した著替えに袖を通して鏡に映った自分の姿に笑いが込み上げた。

「ブカブカすぎ」

思わず聲がれる。

「道香、俺そろそろ風邪引きそうなんだけど」

バスルームのドアの向こうからガチガチと歯を合わせる音が聞こえる。そういえばマサはジャケットを道香に貸していたので、道香よりも酷く雨に打たれたはずだ。

慌ててバスルームのドアを開けると、Tシャツにパーカーを羽織ったマサが風呂代なと服をぎ始めたので、道香は急いでバスルームを後にした。

廊下を抜けてドアを開けると広いリビングには白い大きなL字型のソファーが置かれている。視線を更に彷徨わせると、右手にカウンターキッチンがあり、左手には開け放たれたベッドルームが見えた。

「広っ」

的にモノトーンで統一され、簡素でないからか、やたら広くじる。

道香はお邪魔しますと呟いて大きなソファーに腰を下ろした。

マサが持ってきてくれたのか、玄関先に置いたはずのカバンがソファーの脇に置いてあったので、道香はスマホを取り出して著信を確認する。

メッセージが二件。

両方ともめぐみからで、ごめんのスタンプと、いつまで怒ってるの?と書かれていた。

「返事しなきゃ」

そう思ってメッセージを打ち始めてから、今が早朝であることを思い出し、道香はとりあえず気にしないでとスタンプだけを送った。

し落ち著いたように思ったが、風が強くなってきたのか、窓を叩くような激しい雨が雷を伴って降り続けている。

「ここまでタクシー呼んでもらう?でも服が乾くまで無理かな。最悪このジャージ借りて帰ればいいのか」

気が抜けたのかあくびが出たので口元に手を當てる。が渇いた。けれど家主が風呂にっているので勝手に冷蔵庫を覗くわけにもいかない。

開け放たれたベッドルームのベッドを見ると急に眠気が襲ってくる。

「ダメだ。あくびが止まんないや」

首や肩を回して大きくびをすると、足を乗せて膝を抱えるように橫向きにソファーにもたれる。

窓を叩く雨の音を聞きながら、マサと話したことを思い出していた。

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