《【完結】辛口バーテンダーの別の顔はワイルド曹司》14.マサは一何者か
翌日はレンタカーを借りて、めぐみと久しぶりにショッピングに出掛けた。
天気の良い土曜ということもあり、郊外のアウトレットモールは家族連れやカップルが多く見られた。
お互いの好きなブランドの服や小を見たり、食や家も見て回った。
「私も引っ越そうかな」
「ああ、気分が変わって良いんじゃない?」
「ね。短大の時からだから9年目だよ」
「環境変えた方が良いよ。だいたいあそこ學生向けの件でしょ、いい加減引っ越しなよ」
「そうだね」
あちこちの店を見て回って、比較的列の並びがないアジアンカフェで晝食をとる。
他無い話でめぐみと笑い合って、晝食後もショッピングをして回り、気付けば18時前になっていた。
「ちょっと道香!」
急に腕を引っ張られて何事かと振り返る。めぐみは怒った顔をして、あれ見てみと顎で斜め先の方向を指す。
「え……」
「だよね?あれ、マサさんじゃん」
めぐみが指した方向には確かに見覚えのある男が立っていた。
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ツーブロックの髪は短く整えられ、見たことがないスーツ姿で一人ではない。7センチほどのヒールを履きこなすと一緒だ。
「どうしても外せない用事ってと會うこと?なんなのアイツ腹立つ」
「いや、私たち付き合ってるわけじゃないし……」
「合鍵まで渡しといて、それはないでしょ」
するとめぐみは突然急ぎ足でマサの方へ突進していく。
「ち、ちょっと!めぐみ」
諫める道香の聲を無視して、人波に消えそうな二人を鬼の形相で追い掛けると、めぐみはマサを捕まえて話し掛ける。
「こんなところで奇遇ですね」
覚えてますか?と苛立った聲のままマサを睨む。
「あれ?アンタ、あの時の道香の連れの子だよな」
「そうです。道香がお世話になってるみたいですけど、遊びだったらあの子に構うのやめてもらっていいですか!」
「は?」
「傷付いてるところにつけ込んで、あの子はおもちゃじゃないんですよ?」
「ちょっと落ち著け。芝田しばた、悪いけど先に行って貰って良いか。プライベートなことでね」
「……はい、専務」
マサの隣のは苦笑いで微笑むと、打ち合わせの5分前までにはお願いしますねとその場を離れた。
道香は離れた場所にいるのでめぐみとマサの様子や會話が分からない。ただ、そばにいたが困ったように笑ってその場を離れていったのだけは見えた。
「めぐみ……」
遠巻きに二人の姿を見ながら、けれど真実を知るのも怖くて道香はその場からけずにいた。
一方めぐみは、マサから落ち著けと改めて聲を掛けられる。
「悪いけどあまり時間がない」
「マサさん、アンタ一何者なの?ただのバーテンじゃないってこと?」
「もしかして道香も來てるのか」
「ええ、あっちに」
振り返って道香を指差す。
道香にもその姿は見えた。そしてマサが道香に手招きする。気まずいが居るのを知られてしまったのなら行かなければいけない。道香は重たい足を引きずってめぐみとマサのもとへ向かう。
「道香、昨日から友だちと一緒だったのか」
「え、あ。うん」
「いや、マサさん!アンタね、そうじゃなくてさっきのはなんなんだって話よ」
「アレは俺の書だよ」
「は?」
めぐみと道香の聲が重なる。
「悪いけど本當に時間がないんだ。道香、戻ったら俺の家で待っててくれるか」
「それは、良いけど」
「つけ込んで悪さしてるわけじゃないって言い切れますか?」
「あのな……道香が自分のでもなかったら家の鍵まで渡すと思うか?」
食って掛かるめぐみに対して盛大な溜め息を吐き出すと、本當に時間がないと言い改めて、マサは元から革のケースを取り出すと、名刺を二枚引き抜いて二人に渡した。
「細かい話は帰ってからするから。それにアンタも、俺が嫌いなのか道香が大事なのか知らないけど、大事な商談相手だったら人の仕事ブッ潰してるところだぞ」
めぐみの短気さに釘を刺すと、必ず家で待っててくれと言い殘してマサは急ぎ足でその場を離れていった。
道香はいつもと違ういでたちのマサの後ろ姿を茫然と見送る。
「ねえ!ちょっと道香!」
周りの人が何事かと振り返る大聲で、めぐみは道香の肩を叩くと、マサが殘していった名刺をよく見ろと騒ぐ。
「グラッツ&ブレイザー……」
道香もよく知っている。確か元々は町の小さなテイラーが始まりで、近年は若年層をターゲットにしたメンズ向けの老舗ブランドだ。マサの殘した名刺には専務取締役、盛長高政もりながたかまさと書いてある。
「グラブレの専務が、なんであんなとこでバーテンしてんのよ?」
「……だから、オーナーに恩があるって」
「なに?アンタ本當になにも聞いてないの」
「うん。本職?を聞いても、バーの店員で良いじゃんとか、バタバタしてるからそのとか、はぐらかされて」
まさか老舗ブランドの専務だったとは。
―――もりなが、たかまさ。
それがマサの本名なのか。名前すら知らなかった。やはり同して哀れんでくれただけだったのか。
道香は気が付くと涙を溢していた。めぐみはギョッとしてタオルハンカチを取り出すと、とりあえず家に帰ろうと道香の手を引いて駐車場に足を進めた。
「いつまで泣いてんの。つかなんで泣くの」
「だって、私何も知らない。名前すら知らなかった」
「バカね、あの人の言葉聞いてなかったの?自分のでもない子に鍵渡さないって言ってたでしょ。しっかりしなさいよ」
「でも……」
「さっきは見るからに忙しそうだったし、連れのが書ってのも本當だと思う。それにアンタ、あの人に家で待ってろって言われたんだから、帰ったら問い詰めてやれば良いのよ。なんなら私も行こうか?」
「來てしいけど、話が拗れそう」
「あら、言い返す元気は出たみたいね」
めぐみがらかい笑みを浮かべて道香の手を引く。その頃にはもう涙も止まっていた。
「で?いったん帰ってからアンタを送れば良い?」
「一人で行けるから大丈夫だよ」
「アンタね、危ない目に遭ったのに危機が足りないのよ!そんな泣きはらした目で大荷抱えて電車に乗るつもりなの」
「う……」
「まあ、良いわ。とりあえず車乗って」
道香からショッピングバッグを奪うように取ると、めぐみはトランクを開けて荷を積み込む。
道香は言われたとおり助手席に乗り込んでシートベルトを締める。
運転席に乗り込んだめぐみがエンジンを掛け、じゃあ出すよとハンドルを切った。
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