《エルティモエルフォ ―最後のエルフ―》第19話

西に行くようになってから1ヵ月たった。

しずつだが西の陸地のことを把握できてきた。

スライムや蛇や蛙以外にも、魔を何種類か見るようになってきた。

アンヘルの知識に魔の名前が浮かんできたので、頻繁に出現する魔なのだろう。

ある日、尾が挾みのような形をした貓ほどの大きさの蟲型魔に遭遇した。

ハサミ蟲のようだが、【ティジェレタ】とか言う名前らしい。

初見だったので安全を意識しすぎたのか、遠すぎた距離から放った魔法は途中で察知され、回避されてしまった。

「ギギッ!!」

いきなりの攻撃に怒りを覚えたのか、そのハサミ蟲は離れた場所にいるケイに向かって突進し始めた。

アンヘルの知識だと、捕まった人間が尾のハサミに挾まれ、腕一本切り落とされると言った事件があったらしい。

「要するに捕まらなければいいんだろ?」

先程は躱されてしまったが、今度は外さない。

ある程度ハサミ蟲を引き寄せてから魔法を放った。

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「ギッ!?」

ハサミ蟲は真っすぐ迫って來ていた。

魔法が飛んで來る気配がなかったからだろうか。

そのため、前方ばかりに気を取られ、足元を気にしていなかった。

突如地面から突き出た石の槍によってを貫かれ、ハサミ蟲はを巻き散らした。

蟲だからなのか、生命力が高く、しばらく串刺しになったまま暴れていたのだが、そのまま放って置いたらかなくなった。

他には【グリーリョ】とかいうコオロギの魔で、遠くから風の刃を放って頭を刎ね一撃で倒せた。

しかし、後からアンヘルの知識を呼び起こして見て顔を青くした。

コオロギの魔の面倒な所は、綺麗な鳴き聲をあげ、仲間を呼び寄せる特質があるらしい。

今回は上手く一撃で倒せたから良かったが、仲間でも呼ばれていたらと考えると恐ろしく思えた。

の魔なら、しっかり離れた位置からの魔法で何とかなるかもしれないが、複數の魔相手に戦わなければならなくなった場合、まだ自分の実力では危険だとケイは考えている。

一撃で倒せてよかったと安堵した魔だった。

「ヤバッ!?」

ある日、アンヘルの知識の中になかったので名前が分からないが、羽が腕のようにムッキムキに発達した鶏が戦っていたのを探知した。

戦っているというより、逃げる蛇の魔を追いかけていた。

蛇も懸命に逃げているが、鶏の足の方が速く次第に距離がんでいき、とうとう蛇に追いついた。

すると、鶏は思いっきり打ち下ろしのパンチを放ち、食らった方の蛇は一撃で頭が吹き飛んだ。

頭を吹き飛ばしても勢いが止まらず、鶏の拳はそのまま地面を毆っていたが、遠く離れた位置で見ているケイに屆くほどの音を轟かせていた。

今目の前に現れたなら、ケイも蛇と同じようになりそうだ。

「……魔法効くかな? ……いや、やめとこ」

仕留めた蛇のをついばみ始めた鶏が無防備だったので、風の魔法で首を切ってしまおうかと考えケイだったが、あんなの振り回して追いかけられたら恐ろしい。

「……異世界の鶏って怖いんだな」

は食べたいが、やめておくことにしてケイはその場を離れた。

ある日、樹に巻き付いている植があったのでよく見てみたら、トマトを発見した。

大きさ的にはプチトマトよりちょっと小さいくらいだ。

鑑定すると食べられるようなので、生で食べたらマズかった。

前世の日本の品質とは雲泥の差だ。

育てればもうしは味しくなるかと思い、拠點に一株持ち帰り、ケイは畑に植えることにした。

ちょっと困った事がある。

料理についてだ。

大工作業で鍛えられたからだろうか、ケイは手先が用な方なので前世で食べていた料理はある程度作れると思う。

しかし、魚料理で思いつくのなんて煮るか焼くか位なもので、流石に飽きて來た。

「天ぷら食べたい」

結構生えている野草のヨモギを摘みながら、ケイはふとそんなことを思ってしまった。

食べられる野草は多いので喜ばしい所なのだが、苦みが強いが多い。

前世の時でもふきのとうとか天ぷらで食べると苦いとじていたが、今のこのだと味覚も子供なのか、昆布出で煮込んだりしてもかなり苦い。

天ぷらの時の苦さの方がまだましだし、単純に揚げが食べたいと思っていた。

だが、今のケイの持ちの中に油がない。

ゆえに天ぷらができない。

「…………菜の花きれいだな」

ここの島の植は、日本の植の生態系に近いのだろうか。

く咲いた菜の花が結構咲いている。

花が開いていない時に食べたらなかなか味しかったので、ちょこちょこ食べていたのだが、しして花が咲いて菜の花だと気が付いた。

「菜の花………………ん? 菜の花?」

ケイがぼ~っと菜の花を見ていたら、あることを思い出した。

「菜種……油だ!」

そう、菜種油のことを思い出したのだ。

菜種油の作り方をザックリいうと、菜の花の種を潰して出してできるはずだ。

油がとれるということは天ぷらができるということだ。

「……でも、もうし先か……」

確かにこれで油が取れれば天ぷらができるかもしれないが、菜種油は名前の通り、菜の花の種から出する油だ。

今は花がまだ咲いているので、枯れて種ができるまで2、3ヵ月先といったところだろうか。

すぐにでも食べたいところだが、それまではお預けだろう。

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