人族大陸の南西の地、フードを深くかぶった１組の男が、町中の人混みを歩いている。

２人とも腰に２本の刀を差している。

「…………っ！？　父上！」

「あぁ、つけられている」

お互い顔を見る訳でもなく、小聲で話し合う２人。

會話からすると２人の関係は親子のようだ。

後方からは數人が人混みに紛れながら、付かず離れず２人を追いかけてきている。

“バッ！！”

尾行に気付いた２人は街角を曲がると走り出した。

「っ！？」

急に走り出した２人を尾行していた者たちも、追いかけるように走り出す。

リーダーらしき男が指で合図を送ると、どこからか現れた者たちが増え、先行していた者たちを追いかけ始めた。

「っ！？　速い！？」

懸命に逃走する親子だが、追っ手から距離を取ることができない。

それどころかジワジワと詰められてきている。

「…………花！　俺が囮になる。先に予定地に向かえ！」

このままでは追っ手を撒けないと判斷したのか、父親の方は腰に刺した刀を抜いた。

迎え撃つつもりのようだ。

「そんな、私だけ……」

追ってきている者たちは、その速さからいってその道に長けた者なのだろう。

そんな者たちが、探知で分かるだけで５人。

自國ではそれなりに名を馳せた実力を持つとはいえ、父１人で抑えきれる保証はない。

父を置いていくことにためらい、花と呼ばれた娘は足を止める。

「いいから、行け！！」

「…………はい！」

自國ではが武を習うなど良く思われない風がある。

しかし、花は追われる。

父の憲正のりまさは娘の花が自らのを守るように剣を教えだした。

剣の才があったのか、花はメキメキ腕を上げたが、それでもまだまだ父には遠く及ばない。

今この場に自分がいるのは、父にとって足手纏い。

それを理解した花は、役に立てない悔しさにを噛みながらも父の指示に従い走り出した。

「あった！！」

數隻の船が停泊している予定の場所にたどり著いた花。

そこからし離れた所にある巖場に隠れるように、１隻の船が隠すように停泊してあった。

「……はっ！？」

“スタッ！”

父が來たらすぐに出せるようにと船に乗り込もうとした花だったが、その手前で１人の男が目の前に降り立った。

そのすぐ後、その者と同じ黒の忍び裝束をした者たちが降り立ち花を囲んだ。

それに対し、花は刀を抜いて構える。

「花様。大人しく我々についてきてもらえませんか？」

「斷るわ！」

船の前に降り立った男が言うと、囲んだ者たちは全員膝をついて花へと頭を下げた。

この男がリーダーのようだ。

しかし、その言葉を花は取り付く島無しと言わんばかりに斬り捨てる。

「爺様で在らせられる貞満さだみつ様の加減が宜しくありません」

「………………」

爺様とは、首都に住む皇族より統治を任された綱泉將軍家、その初代のをけ継ぐ一族の一つで、國の西方を任された一族、西方將軍家と呼ばれている。

そこの現當主は子に恵まれず、唯一の娘は一人の男と姿をくらました。

その娘が花の母である。

大陸へ逃げ花を生むが、花が７歳の時病にかかり命を落とした。

花からしたら、見たこともない祖父の名前を出されても知ったことではない。

どうやって彼らの囲みを突破するべきか、話を聞き流しながら無言で隙をうかがう。

「現在西方將軍家のをけ継ぐ方は花様しかおりません」

「私の知ったことではないわ！」

話していたリーダーの男がさらに深く頭を下げた。

それを隙ありと判斷した花は、地を蹴り斬りかかった。

「申し訳ありませんが、々手荒でも構わぬと申し使っております」

花の攻撃をあっさりと橫に躱し、男は拳を握った。

「っ！？」

その男の拳が花の腹に振るわれる寸前、男に向かって刀が飛んできた。

腹を毆るのを中斷し、男は大きく後ろに飛び退きその刀を回避する。

「待たせた……」

「父…………上？」

飛んで來た刀から分かっていたが、追っ手を相手にしていた父が來たことで花は安心から笑みを浮かべた。

が、笑みはすぐに驚愕へと変わった。

花を背にかばい、敵に目を向ける父の憲正は中まみれで、斬り傷だらけだった。

「……花。済まんが俺はここまでのようだ」

「……父上？」

父娘２人を囲む者たちも、憲正が現れたことで背中に背負っていた鞘から短刀を抜いた。

殺気のこもった目を見る限り、憲正は殺害対象なようだ。

これまでとは比べにならないほどの実力の追っ手に、憲正も自分の命の最期を悟ったように呟いた。

「花、お前には剣の才能がある。生き抜いて自由に生きろ！　お前の母のように……」

「父上！」

今まで一度として褒めたことなどなかった父の言葉に、花も父との逃走が終わりだと分かった。

「切り開く！　行け！　花！」

「…………はい！」

斬りかかり、そのままぶつかるようにをぶつけて先程の男を抑え込む憲正。

父との別れに涙を流しながら、花は父の空けた道を走って船に乗り込んだ。

「待て！」

「逃がすな！ 追え！」

止められたリーダーの男は、他の男たちに向かって花を追うことを指示する。

「行かせん！」

船を出発させた花が陸を離れるまで男たちを行かせるわけにはいかない。

花を追おうといた者たちに向かって憲正は斬りかかる。

わざと大振りし、男たちに躱させ距離を取らせる。

「さらばだ！　花！」

「父上！」

背後の花がしずつ離れて行き、流石に追っ手の者たちでも飛び移れないほどの距離に達すると、憲正は大きな聲で別れの言葉を告げた。

そして、憲正はそのまま男たちに斬りかかる。

「父上！！」

遠く離れ、小さく見える父が斬りかかるが、多勢に無勢。

１人を斬るも、淺かったのかそのまま抱きつかれる。

きできなくなった憲正は、左右から腹を刺されを吐く。

その一部始終を見ていた花は、大きな聲でんだ。

「父うえぇ～……！！」

腹を短刀で刺され、それでも倒れまいと踏ん張る憲正。

しかし、力が抜け、手から刀が落ちる。

その狀態の憲正をリーダーの男がゆっくり近づき、首を刎ねた。

大粒の涙を流しながら、花は大聲でんだ。

もう屆かないと分かっていながらも……。

追っ手から逃れ、どこへ向かっているかも分からず、それから何日の漂流を続けただろう。

花は船をこぎ続けた。

元々なかった食料も底をついた日、遠の魔道で僅かに島が見えた。

しかし、希が見えたと思った花と船を、悪天候によって荒れた波が飲み込んだ。

″ザッ！ ザッ！ ザッ！″

「……………………」