「えっ？　ダンジョンに？」

「そう」

ほとんど花のおかげだが、昨日の釣りはまあまあの釣果だった。

干にしようと捌いた魚を斜めになった網に乗せていると、花が急にダンジョンに行ってみたいと言い出した。

「連れてってくれないかな？」

「う～ん……、連れて行くだけなら大丈夫だけど……、何しに行くの？」

今のケイに、この島で脅威になるような魔はいない。

刀を持っているということは、花もある程度の実力はあるとは思う。

見に行くだけなら構わないが、中にりたいとなると話が変わってくる。

まだどれほど戦えるか見ていないので、ダンジョンに行って良いよとは言いづらい。

「私はもっと強くなりたい！」

「なるほど……」

ド直球な返事が來た。

その勢いに、ケイは若干気圧された。

とは言ってもどうしたものか。

「ケイもダンジョンで戦って強くなったんでしょ？」

「ま、まぁ……」

ケイがどう返すか考えていると、花は追撃のように話しかけてきた。

間違いではないため、返答に困る。

ダンジョンにると、ケイでもちゃんと警戒していないといけない。

そうなると、拠點付近の畑への注意を割いている訳にはいかない。

どの野菜も、種は魔法の指の中に保管しているので作り直せばいいのだが、せっかく実ったを魔に喰われるのは腹が立つ。

別にダンジョンで鍛えたいというのは構わないのだが、外の魔と比べるとかなり危険な魔が出たりする。

せっかく救った命なのだし、話し相手がいなくなるのは寂しい。

「もしもの時のことを考えると、１人で行かせるわけにはいかないな」

「え～……」

どうするか悩んだケイは、先程考えたことをちゃんと説明して花を止めた。

それに対し、花は不満そうな聲を出した。

「じゃあ、ケイはいつダンジョンにっているの？」

「収穫が終わって、冬の間かな……」

５月の上旬から中旬に全ての野菜の収穫が終わり、下旬からしずつ寒くなっていき冬になる。

６月から９月にるまでは寒いため、拠點にこもりっきりになってしまう。

ダンジョンが見つかるまでは、木を削ったりして小雑貨を作ったり、魔力の作を々試したりしていたが、が鈍って仕方がなかった。

ダンジョンが見つかってからは、ちょうどいい訓練期間だと思うようになった。

「……半年待たないとだめなの？」

たしかに半年待ってくれというのは酷だろう。

花は完全に不満そうだ。

「別に訓練はダンジョンじゃなくてもできるだろ？」

「西にいる魔を倒して時間を潰せって言うの？」

西にいる豬と鶏の魔は、放置しているが數が増えないように調節している。

今では完全にケイの家畜のようなものだ。

そうなると、々な蟲が蔓延る森ゾーンで戦えばいいのだが、そんなに強い魔は存在しないため、訓練になるか疑わしい。

「魔闘だっけ？　あれが使える？」

「……使えない」

父の憲正に剣指導をけてきたが、１５歳になってようやく魔闘を教わり始めた。

まだ全然完には遠い。

使えると噓を言っても、「見せてみろ」と言われたら簡単にばれてしまう。

仕方がないので、花は素直に答えた。

「じゃあ、半年で使えるようにがんばろう」

「……えっ！？　教えてくれるの？」

魔闘が使えるなら１人で行かせてもよかったのだが、使えないのなら許可できない。

それなら練習するしかないと思って言ったら、ケイが思っていた以上に食いついてきた。

「……そりゃ、強くなるなら使えた方がいいでしょ？」

「普通魔闘は他人に簡単に教えたりしない！」

「そ、そうなんだ？」

一定の実力がある者が指導をけ、魔闘使えるようになった者は平民出でも職を優遇される。

日向でも蹴落とし合いが起きるのだから、他の國ならもっと他人に教えるようなことはしない。

大陸にいる冒険者という職業の者たちは、魔の素材を集めることで収を得るので、強さがそのまま収に直結するからだ。

それを簡単に教えてくれるというケイに、思わず花は語気を強めてしまった。

「じゃ、じゃあ、早速始めよう」

「う、うん」

花の勢いにし押され気味になりながら、ケイは魔闘の練習を開始することになった。

大きな聲で反応してしまった花も、何となく気まずげに返事をした。

「あ～……、難しい」

魔闘の訓練として、ケイから魔力を細かくコントロールする練習を言い渡された花は、疲労から集中力が切れ、大の字に寢転んだ。

「反復練習しかないからね。夕食の用意するから休んでて良いよ」

魔力を細かくコントロールするのは地道に練習するしかない。

それができてから部分的、そして全へと至っていく。

同じ練習をずっとしているのは、格的に向き、不向きがある。

晝から初めて、日が暮れ始めるまでずっとやっていられるなら、花は向いている方だろう。

元々基礎はできているので、ケイがコツとか教えれば本當に半年で使えるようになるかもしれない。

練習で疲れている花はそのままに、ケイは夕飯の用意を始めた。

「キュウ火をつけといて」

“こくっ！”

「……えっ？」

側でわされたやり取りに、橫になって聞いていた花は思わずを起こした。

ただの小さい玉のキュウが、どうやって火をつけるんだと気になった。

“ポッ！”

「っ！？」

木がくべられた竈に近付くと、キュウは口から小さな火の玉を吐いた。

火の玉は小枝にあたり、竈の木にしずつ燃え広がっていった。

「…………ケセランパサランて魔法使えるの？」

小さいとは言え、キュウの魔法に驚いた花は、真顔になりながらケイに尋ねた。

「練習したからかな？」

「…………え～？」

練習したからといって、そんなことでこんな魔が魔法を使えるようになるのだろうか。

ケイの軽い答えに、なんとなく納得いかない聲をあげた花だった。