《エルティモエルフォ ―最後のエルフ―》第73話

「消え……っ!?」

目の前にいたはずのケイの姿が消え、ファウストは慌てた。

しかし、すぐに冷靜さを取り戻し、ケイの気配を探りにかかる。

「くっ!?」

消えて見えるのは、目で追おうと思っているからだ。

獣人の優れた能力を使えば、きっと探知できる。

そして分かったのは匂い。

高速にこうとも匂いは消せない。

それを察知したファウストは、背後に回っていたケイに反応する。

“ドガッ!!”

「獣人は鼻が良いから羨ましい……」

を槍から盾に変え、ケイの右拳を防いだ。

しかし、ケイは防がれたことをなんてことないように呟く。

むしろ、防いだファウストを心しているくらいだ。

速度を上げた瞬間にファウストが慌てたのはケイも見ていた。

それをすぐに消し、冷靜になれたのはいい判斷だ。

王族だから、訓練はしていても突発的なことに弱いのではないかと思っていたのだが、どうやらただのボンボンではなかったようだ。

「なっ!? た、盾が……」

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ケイの拳を防ぐために持ったファウストの盾が、軋むような音を立てていたと思ったら、ヒビがっていた。

こんな攻撃が自分に迫っていたと思うと、これまで楽しいと思っていたが一気に吹き飛び、ファウストの全には冷たい汗が噴き出してきた。

「くっ!!」

線の細いから、どうしてそんな威力が出せるんだと疑問に思いながらも、このまま接近戦に持ち込まれては、あっという間に盾が壊される。

ならば、離れて弓による遠距離攻撃で戦うしかないと判斷したファウストは、空いている手に剣を持ってケイへ橫に斬りつける。

その攻撃を、予想通りケイが下がって躱したのを見て、ファウストも全力で距離を取る。

「……これでどうだ!」

距離を取れば、いくらケイの速度が早くても鼻を使って捕えられるはず。

十分距離を取ったファウストは、弓に矢をつがえ、ケイに向かって連していった。

「………………」

高速で矢が迫る中、ケイは無言の笑顔で腰に手をやる。

“パパパパ……ン!!”

「なっ!?」

ホルスターから銃を抜いたと思ったら、ケイは引き金を引いて連した。

銃から発された弾は、ケイに向かって來る矢に當たり消し飛ばす。

あまりにもあっさりと自分の攻撃を防がれ、ファウストは目を見開いた。

ケイの手にあるのは見たこともない武

先程の様子から、何かを発することで敵に攻撃する武であるということは分かる。

「遠距離もダメか……」

近接戦闘ではただの拳が兇、離れればあの武で仕留める。

どちらで戦っても勝ち目が薄い。

「ならば……」

最後に頼るのは、自分にとって一番得意な武しかない。

父や兄はどんな武でも強いが、ファウストにとっては槍。

さっきの刺突特化の槍ではなく、棒の先に片刃の短刀を付けたような自分の槍を手に、ファウストはケイを殺す気で掛かることにした。

「……良い気合いですね」

槍を構え、これまで以上に力を込めた目つきに変わったファウストに、ケイも真剣に応えることにした。

左手に銃を持った狀態で戦闘態勢にり、ファウストと向かいあう。

「ハッ!!」

僅かな膠著狀態から、先にいたのはケイ。

全力のファウストがどれほどのものか、試してみたくなったからかもしれない。

何のフェイントもなく、ただ真っすぐに突き進む。

「ツェイヤ!!」

「っ!?」

ケイの接近に対し、無駄な力が抜けた見本のような突きがファウストから放たれた。

しかし、ケイには當たらない。

見切っているかのように攻撃をダッキングして躱すと共に、ケイは速度を落とさずファウストの懐にり込もうとする。

「ハッ!!」

あと一歩でケイの拳が屆く距離といったところで、ファウストは槍を回転させ、柄の部分でケイの顎を目掛けて振り上げる。

“パンッ!!”

「っ!?」

ケイはそれを躱さない。

下から上がってくる槍の柄に対し、ケイは銃弾を放つ。

その銃弾が柄に當たったことで槍の軌道がずれ、ケイの顔面ギリギリ橫を通り過ぎた。

「ちょっと痛いですよ……」

懐にり込んだケイは、一言謝った上でファウストの橫っ腹目掛けてボディーブローを放った。

「フグッ!!」

ケイの一言で、腹への攻撃をける覚悟を一瞬でしたファウストだったが、威力がとんでもなかった。

歯を食いしばって耐え、せめて一撃でも反撃しようと思っていたのだが、アバラを軽く2、3本へし折られ、悶絶することしかできなかった。

「がはっ!!」

みっともなくも胃の中のを吐き出し、ファウストは腹を抑える。

槍を支えにして膝をつかないのは、せめてもの意地だ。

「……続けますか?」

「い、いや……、參りました」

まともな狀態でもきついのに、腹をやられた今では、ケイの速度に付いて行けない。

続けてもなぶり殺しにされるだけだ。

勝敗は降參させるか気絶した方が負け。

降參しなければ負けないかもしれないが、ケイとは格が違う。

部下たちの前で無様だが、ファウストは潔く負けを認めることにした。

その降參の言葉を聞いて、ケイは持っていた銃をホルスターに戻した。

「アバラ折れましたよね? 治すのでそのままでいてください」

「すいま……せ…………ん」

毆った時のが殘っているので分かる。

確実にアバラは折れたはずだ。

相手は一國の王子だ。

決闘だったとは言ってもやり過ぎたかもしれないと思い、ケイは早々に治療に當たろうとした。

どうやら張っていた気が緩み、痛みが一気に押し寄せてきたらしく、ファウストは謝を述べると、槍を支えにして立ったまま気を失った。

「お見事です。若!」

不安定な狀態で立っているファウストを、審判役だった巨の熊耳おっさんが倒れないように抱き留めた。

やられても倒れない姿に漢おとこを見たのか、熊耳おっさんはの涙を流し出した。

後で聞いた話だが、熊耳おっさんはファウストのお目付け役らしく、立派になった姿が嬉しかったらしい。

ケイも気を失っても倒れない姿は見事だと思ったが、それがなかったら、巨のおっさんが泣いている姿に引いていたところだろう。

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