《エルティモエルフォ ―最後のエルフ―》第83話

「ところで……」

カンタルボス王國の王であるリカルドとの挨拶は済んだ。

その後、ケイと花は彼らと夕食を共にした。

堅苦しいのが嫌だからとか言う理由で、わざわざ王族だけで會うというのは、隨分な自信家なのかもしれない。

元々、挨拶と同盟の調印だけの予定だったし、終わったのなら早々に島に帰りたいところだ。

夕食も食べ終わり、席を立とうとしたところで、スルーすることができない話が殘っているのをケイは思い出した。

「本當に手合わせをするのですか?」

王であるリカルドが、自ら戦いたいなんて、もしかしたら何かの間違いなのではという思いもしたため、ちゃんと聞いておこうと思った。

冗談という可能もあるし、できればリカルドと戦うのは勘弁願いたい。

握手をした時、ケイの腕の軽く2倍はあろうかというほどの太い腕をしていた。

あんな腕で毆られたら、生の狀態のケイの頭なんてスイカのように吹き飛ぶだろう。

當然、魔闘を使えばそんな風になるとは思わないが、それでもまともに食らえば一発で失神してしまいそうだ。

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綺麗な服を著ているが、腕同様に全が筋に覆われているのは服の張り合を見ただけで分かる。

そんなのを見たのにも関わらず、戦いたいだなんて思う奴は頭のネジが飛んでるとしか言いようがない。

「えぇ、今から楽しみですな!」

その話を振られたことで、リカルドは嬉しそうな元々笑顔だったのが、より一層輝いた。

そんな笑顔を見せられたら、冗談じゃないことは一発で分かる。

ケイの僅かな期待が脆くも崩れた。

「ファウストに手も足も出ないと言わしめた実力に、期待しておりますぞ!」

『めっちゃ笑顔じゃん』

今この場で戦いたいと言いたそうなリカルドの表に、ケイはドン引きだ。

ケイがファウストと戦って勝ったのは確かだが、ファウストの実力は相當なものだった。

無傷だっとは言っても、そこまで乖離した実力差があるとは思えなかった。

リカルドからしたら、ファウスト以上の実力があるというだけで興味の対象なのかもしれないし、それに掟破りのエルフというのも興味を上乗せしているのだろう。

「場所も用意したので、明日にでも願いたい」

「……どこか練兵所とかでやるのですか?」

心では斷りたいところだが、それは明らかに無理そうだ。

とりあえず大怪我しないようにしたいが、どこでやるのか気になる。

「近くに闘技場があるのでそこでやりたいと思います」

「……そうですか」

リカルドが闘技場と言ったところで、ファウストの眉が僅かに反応していたのが見えたが、ケイは嫌な予がしたので気にしないことにしておいた。

「今日はお疲れでしょうからゆっくりお寛ぎ下さい」

「……ありがとうございます。では失禮いたします」

リカルドの口調は普通なのだが、何かちょっと含みのある笑顔にも見えた。

明日のことを考え、気にしすぎると寢れなくなりそうだったため、ケイは花と共に與えられた部屋へと向かって行ったのだった。

◆◆◆◆◆

「父上、本當にやられるのですか?」

ケイたちが與えられた部屋へった頃、殘ったリカルドたちは、執務室に集まっていた。

扉を閉めてすぐに問いかけたのは、王太子のエリアスだった。

「當たり前だ。ケイ殿も了承していただろ? お前が戦いたいと言いたいのか?」

「確かに、それもありますが……」

ファウストが負けたという相手には確かに興味があるし、できればどれほどのものか手合わせしたいという思いがある。

しかし、父が相手をすると言い出したら、割り込めるとは思わない。

今回の所は引く気だが、ケイのことが不憫に思えた。

「正確に伝えてはいないではないですか!」

ケイは確かに了承したが、どのような狀況で戦うことになるかということは全く伝えていない。

そのことを父より口止めされていたファウストは、手合わせをけてくれたケイへ失禮な対応に思え、父ながら若干腹が立ち口調が荒くなってしまった。

「ケイ殿もなんかあると気付いてたんじゃないか? お前の反応見えてたみたいだし……」

「しかし……」

話をしながらも、リカルドはケイの目線をしっかり見ていた。

なので、ファウストがワザと眉を上げた反応も見ていたことに気付いたはずだ。

そのうえで何も言ってこなかったのだから、何かあるとは分かっているだろう。

「命にかかわることでもないし、別に良いだろ?」

「ま、まぁ……」

たしかに言ってることはそうなので、そう言われるとファウストは何も言い返せなくなってしまう。

「やめなさい、ファウスト。今のリカルドは私も諦めているわ」

「そう。無駄~!」

息子のエリアスとファウストに詰め寄られても、リカルドは全く表を変えようとしない。

それどころか、明日のことを思ってワクワクしている様子だ。

そんな様子に、王妃のアデリナとその娘のルシアは無駄だと諦めている。

「そうですね。俺たちも諦めよう」

「兄上……」

「話は終わりだ。早いが眠らせてもらう」

母で駄目なら、息子の自分たちが何を言っても無意味。

なので、エリアスとファウストも説得を諦めるするにした。

それを見て、話を切り上げたリカルドは、明日の戦いを萬全の調子で迎えるために、早々に寢室へ向かっていったのだった。

「…………何? この規模……」

翌日、予定通り闘技場に案されたケイは、現狀を見てポカンとするしかなかった。

昨日のリカルドの笑みは、どうやらこれのことだったようだ。

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