「ケイ殿、なかなか釣れないですな……」

「リカルド殿、釣りは我慢ですよ」

島が國に認定されて３年が経過した。

海岸にある巖に腰かけ、並んで釣竿を垂らすリカルドとケイ。

ケイの方は數匹釣れているが、リカルドの方はかかってもバラしてしまい、未だ０匹の狀態だ。

王族に生まれて、小さい頃から勉強や訓練ばかり、王になっても當然好き勝手出來る訳でもなく、釣りなど生まれて初めての経験のリカルドは、かかったと同時にテンションが上がって、何度も思いっきり引っ張ってしまった。

それではバレるのも當然。

次第に當たりまで無くなって來たのだから、愚癡るのも仕方がないのだが、図がでかいのにシュンとしているのを見せられると、ケイは何だか申し訳なく思えてくる。

「ワシはやっぱり狩りの方が合ってる気がするな」

たしかに見た目から言って、リカルドはをかして獲を捕まえる方が得意そうだ。

しかし、今までしたことがないことをしたいと言ったのはリカルド自。

もうすぐ３時。

時間的には國へ帰る準備をした方がいい時間。

それまで粘れば、１匹くらい釣れるはずだ。

何年たっても釣りが楽しいケイにとって、このまま釣りがつまらないものと思われてしまうのは殘念だ。

折角なのだから、リカルドには良い思い出を作って帰ってもらいたい。

「狩りは今度來たときにでも行きましょう！」

そもそも、狩りにいくにしても今日は難しい。

リカルドならここの島の魔相手に怪我を負うなんてことはないだろうが、護衛もなしに連れて行って、もしも怪我でもされたらたまったもんじゃない。

苦笑しながら誤魔化すようにケイは言った。

「おぉ、では明日にでも……」

「いや、いや、帰らないと國の仕事があるのではないですか？」

その発言だと、今日は泊まるつもりなのだろうか。

王がいないのでは國が混する。

さすがに泊まらせるわけにはいかない。

「息子のエリアスに任せておけば大丈夫ですよ。あいつの方が頭が良いし、弟のファウストもいる」

「確かにお二人は優秀なのでしょうが、まだリカルド殿の存在は必要なのではないでしょうか？」

エリアスとファウストは２０代とまだ若い。

國の仕事は重責が伴う。

まだ全て任せるのは早い気がする。

ケイは忠告も込めてリカルドを説得した。

「……そうですな」

ケイの言うことはもっともだ。

なので、リカルドも素直に頷いた。

今更だが、リカルドがこの島にいるのは、ケイが連れてきたからだ。

連れてきたというより、付いてきたと言った方が良いかもしれない。

この３年で、ケイはある魔法を使えるようになった。

その魔法とは転移魔法だ。

前回の船旅で、ケイと花のトラウマが、思った以上に深いものだと思い知った。

同盟を結んだのだから、年に１回はカンタルボスへ訪問して関係を深めた方がお互いにとっていいだろう。

そうなると、國として見れば雲泥の差。

訪問に足を運ぶのはケイたちの方になる。

そのため、また船旅が待っていることになるので気が滅る。

そんな時、ケイは思いついた。

ならば、それを解決する魔法を考えればいい。

そうして、訓練を重ねて転移魔法を使えるようになった。

転移魔法が使えるようになり行き來が楽になったため、月に１度ほどカンタルボスの王都に飛び、それから王城で會見するようになった。

転移魔法を使えるようになって２度目の會見、そこでリカルドが思わぬことを言ってきた。

ケイの島に連れて行ってくれと……。

実験したが、転移魔法は數人くらいなら一緒に連れていける。

なので、連れていくことは可能だが、島の者たちは何の準備もしていない狀況。

急に連れていって何か起これば大問題のためやんわり斷ったのだが、何度もリカルドに頼まれたケイは押しに負けてしまった。

そして、結局島に連れてくることになり、今に至る。

「あっ！？　かかってますよ！」

しっかり斷った方が良かったのだろうかと、ケイが遠い目をしていると、隣の浮きが反応していた。

「なにっ！？　本當だ！！」

ケイとの話しが止まってウトウトしていたらしく、リカルドはケイの言葉に慌てて反応した。

そして、竿け（ロッドホルダー）から竿を持ち上げると、ケイが言うように浮きが反応している。

「待ってください！　まずは落ち著いて下さい！」

「そ、そうだ……」

テンションの上がり合からまた同じ失敗をしてしまうと思ったケイは、リカルドを一旦止めた。

これまで、かかったと思って、慌てて引っ張ったから逃げらたのだ。

そのたびにケイがアドバイスしていたのだが、かかるのを待っている間にそれが飛んでしまうらしい。

今回は眠気が混じってテンションが上がり切らず、冷靜さが殘っていたらしい。

ケイに止められたことでアドバイスを思いだしたようだ。

リカルドは、竿から伝わるに集中した。

魚がかかった場合、し泳がせてから引いた方がバレにくい。

最初は無理に引っ張らず、魚に抵抗しないように竿をかし、しずつ糸を引いていた方が良い。

「あっ！　見えてきました」

リカルドが使っている竿には、ケイが錬金で作ったリール（手）が付いている。

今回はケイの教えた通りジワジワと糸を巻き、とうとう網が屆く距離にきた。

「おぉっ！　でかい！」

「やりましたね！　この魚はなかなか釣れませんよ」

初釣りでまさかのチヌ（黒鯛）ゲット。

長いことこの島にいるケイも、釣ったのは片手で數えるほどの魚だ。

しかも、まあまあでかい。

ビギナーズラックとはいえ、これはケイも褒めるしかない。

かなり貴重な魚だと聞いたリカルドは、この１匹でめちゃめちゃ嬉しそうな笑顔へと変わったのだった。