人族の船を沈めた翌日、ケイはカンタルボス王國の駐留兵たちと共に、海岸に流れ著く瓦礫を集めた。

「しけてんな……」

流れ著く瓦礫は、ほとんどが木材ばかり。

何か魔道や貴金屬でも手にったらラッキーだと思っていたのだが、こうも木ばかりだと悪態もつきたくなる。

「そっちはモイセスたちに期待するかな」

島の住人の半分は、海難事故でこの島に流れ著いた者たちで、船の上であっても海に出たくない。

なので、使う者がいなかったが、一応この島にも船はある。

ケイが大工道を使って作った船だ。

昨日沈めた人族の船に乗せていたであろう貴金屬などは、船と一緒に沈んでしまったのだろう。

それらを潛って捜索するというので、ケイはモイセスたち駐留兵へ船を貸し出した。

しでも何か手にれば儲けものだ。

昔ルイスと同じ村に住んでいた者で、グレゴリオという鍛冶師が以前この島に移住してきてくれた。

それによって、農などが新調できたのはありがたいが、わざわざ鉄を掘り出すよりも、鉄を溶かして使った方が手っ取り早い。

無駄な手間をかけさせられたのだから、せめて沈んだ人族の船には役に立つものでも積んでいてしいものだ。

「うっ！？」

モイセスを中心に沈沒船の捜索をしに行った駐留兵は半數。

島に殘った殘りの半數は、ケイたちと共に海岸の掃除をおこなっていたのだが、海岸に流れ著くのは船の殘骸だけでなく、人の片も流れてきている。

こちらの駐留兵たちは、比較的年齢が若いものが多い。

そのせいか、死や片を見て気分が悪くなるものが何人かいる。

別にケイたちも何とも思わない訳ではない。

やらなければ、自分たちはともかく、子供や孫たちに被害が及ぶのだから、やらない訳にはいかないのだ。

ケイの場合はアンヘルの記憶があるせいか、父や叔父、更には一族の恨みを晴らすという思いもなくはない。

滅亡寸前まで追い込まれたのだから、この程度の報復は文句を言われる筋合いはない。

「気分が悪いかもしれないが、我慢してくれ」

海岸に流れ著いた死などは、アンデット化されても困るので１か所に集めて火葬した。

死を運んだりするのを子供たちに見せるのは気が引けるが、彼ら駐留兵はこういったことも仕事の１つ。

人族の國の幾つかは、他大陸侵略を考えているという噂がカンタルボスの王都に流れていた。

ここの兵たちは、ここの守備を任せられた者たちなので、カンタルボスが戦爭になった場合に參戦する可能は低いかもしれない。

それでも可能がゼロではないのだから、慣れろとは言わないが、死を見ても我慢できるようにはなっておいた方が良い。

なので、ケイは辛そうにする兵士たちを鼓舞した。

「また來るかな？」

「……そうだな。來るだろうな……」

火葬し終わり、骨壺にれて埋葬すると、隣に立つレイナルドがケイに問いかけてきた。

２度あることは３度あるというし、恐らくは來ると思われる。

リシケサ王國とか名乗っていたが、アンヘルやエルフの一族が住んでいた村の近くのパテル王國とは同盟関係にあったはずだ。

それもあって、人族大陸の中でもまあまあの存在であるはず。

なので、わざわざこの島を攻め込んでくる必要はない気がするのだが、そんな國が攻めて來るということは、もしかしたら人族大陸で何か起きているのだろうか。

人族が攻めてきて問題があるとしたら、大軍で押し寄せてきた場合だ。

２度の失敗で、今度は本気で攻めて來る可能がある。

ケイたちの魔法がすごくても、今回のように何の考えもなく、魔法攻撃への対処を怠る者ならば相手にならないが、もしもきちんと対策を講じてきたら、敵數次第でここが滅びるかもしれない。

「レイとカルロスは転移魔法は使えるようになったか？」

「「……まだ」」

唐突に聞かれ、レイナルドとカルロスは顔を見合わせた後に、聲をそろえて返答した。

ケイ自も數か月前に使えるようになったばかりだが、ケイのを引き魔力の多いレイナルドやカルロスなら使えるだろうと思い、魔法を使う時のイメージを伝えた。

だが、魔法の才に恵まれたエルフのを引いているとはいえ、元ネタを知っているケイとは違い、彼らはケイから教わった理論の解釈からスタートしなくてはならない。

そのため、練習をしているようだが、まだまだ功には遠いようだ。

「もしもの時は、お前らがや子供を連れてカンタルボスへ避難してもらおうと思ったんだけど……」

一応ケイは國王的扱いになっている。

そうなると、カンタルボスの駐留兵には申し訳ないが、もしもの時は島民を優先させてもらうつもりだ。

大量の人族に攻め込まれたら、や子供以外は戦うかもしれない。

いや、でも戦闘力が高い獣人ばかりなので、たちも戦おうとするかもしれない。

ケイとしては大人の男はともかく、たちには避難をしてもらいたい。

多くの島民を早々に避難させるには、ケイだけでなくレイナルドたちにも転移魔法を使えるようになっていてもらいたい。

「……父さんが連れていけば良いんじゃないか？」

「そうだよ。使えるのは父さんだけだし、魔力も俺たちより大量に持ってるんだから……」

たしかに２人の魔力量は膨大だが、ケイの魔力には及ばない。

壽命のことを考えると、ケイの方が長命かもしれないとすると、２人が魔力量でケイを越えることは不可能かもしれない。

その分、２人は母の花からけ継いだ生を倒した時の長力レベルアップがある。

それを生かせば、戦闘力としては同等近くまで行けるのではないだろうか。

「命を懸けるのはお前らより俺の仕事だ」

國王なら全力で領土を守る。

それは當然のこと。

それに、壽命以外で息子たちが自分より先に死ぬのは耐えられない。

「それにお前らは、捕まったエルフの扱いの酷さを全然知らない。死ぬ寸前まで好き放題弄ばれ、わざわざ回復させてからまた死ぬ寸前まで追い込まれることを、何百年も続けさせられる。飽きたと殺してもらえることがありがたいと思えるほどの苦しみを味わい続けるんだ」

「「………………」」

ケイの言葉には、大袈裟とか誇張をしている訳ではない。

それが表から読み取れる。

そのため、レイナルドとカルロスは、何も言い返せなくなった。

エルフの仲間が奴隷としてひどい仕打ちをけているのを、ケイは見たことがある。

ケイというより、アンヘルが、ではあるが……。

たいした食事も與えられていないのか、やせ細ったエルフの男が奴隷の首を付けられて貴族の男に引きずられるように連れられていた。

荷持ちに使われているようで、店から出てきた貴族が、エルフ男が手一杯なのにもかかわらず、さらに荷を持つように渡す。

エルフ男は當然それを落とし、貴族の男は腹を立てて怒鳴り散らした。

そして、腹いせのように、そのエルフ男を公衆の面前で毆り始めた。

何発も毆られ、當たり所が悪かったのか、エルフ男はかなくなった。

「チッ！！　壊れたちまったか？」

その貴族は「壊れた」と確かに言った。

完全に扱いだ。

それだけでも小さいアンヘルには辛かったのに、

「そこのゴミ箱にでも捨てておけ！」

更に衝撃をけた。

碌に食べさせられていないから、軽かったのだろう。

従者が１人で、その貴族の指示通り近くのゴミ箱へと放り投げていた。

あのエルフの男は苦しみ抜いたにもかかわらず、死んだ後まで酷い扱いをされた。

何故そこまでされなければならないのか訳が分からない。

マントで姿を隠し、遠くの路地裏から見ていたアンヘルは、その日は涙が止まらなかった。

「あんな思いはお前らにはさせたくない。この島のみんなにもだ」

「……分かった」

「……とりあえず、転移魔法が使えるように頑張るよ」

ケイの重い話に自分たちの覚悟が弱かったことをじたのか、レイナルドとカルロスは神妙な顔をして答えを返したのだった。