《エルティモエルフォ ―最後のエルフ―》第316話
「よう! バレリオ!」
「おぉ! ケイ殿!!」
エナグアへ戻ったケイとラウルは、そのまま元戦闘部隊の隊長だったバレリオの下へと向かった。
自宅付近に道場を開設して、子供に武を教えているという話だった。
そこでケイの目的の人であるラファエルが指導をけているという話なので、人に聞いた道を進んでようやく道場を発見することができた。
道場の敷地へ向かおうとしたところで、丁度玄関が開いてバレリオに會うことができた。
ケイが軽い挨拶をすると、バレリオの方も覚えていてくれたらしく、すぐにケイに握手を求めてきた。
「もう……6年だっけか?」
「えぇ! お懐かしい限りです!」
前回エナグアの問題を解決してからだいぶ時間が流れている。
とは言っても、段々と年數を數えるのが面倒になってきたためか、ケイにとって1年はだいぶ短い時間になってきていて、6年といってもたいした時間にじない。
「ちょっと老けたか?」
「ケイ殿はお変わりないようでうらやましいですな!」
Advertisement
戦闘部隊を隊したからなのか、バレリオは皺が増えて老けたようにじる。
魔人は人族よりし長生きすると言われているが、ケイからするとたいした差でもなく、やはりエルフの自分は他の種族の長とは違うのだと思わされる。
バレリオの言うように、自分は他と違って20代から変わりない見た目なのが、ケイとしては良いのか悪いのかどちらとも言えない。
妻の花のように、大切な人を見送ることの辛さには慣れないからだ。
「ケイ様!!」
「おぉ! ラファエルか? でかくなったな!」
バレリオに案されて道場にると、そこには年が剣を振って稽古をしている最中だった。
その年は、素振りの途中でありながら、ってきた人間を見てすぐに気付いたのか、素振りを中斷してケイへと駆け寄ってきた。
オシアスに似たその年の顔に、ケイもすぐに誰だか分かった。
以前の舌足らずだった話し方も改善され、長も年相応にかなりびていた。
「6年だから今は9歳か……」
や言葉遣いは長しているようだが、笑顔の方は昔と変わることがない。
昔を思い出して、ケイは思わずラファエルの頭をでた。
3歳だったのが6年でだいぶ長したようなので、ケイとしても懐かしい限りだ。
「オシアスにも久しぶりに會ってし、お前にも會っとこうと思ってな」
「そうですか。約束通りまたお會いできてうれしいです」
「あ、あぁ……」
たしか前回別れる時にまた來ることを約束していた。
完全に忘れていたケイとは違い、ラファエルの方はその約束を覚えていたようだ。
喜んでくれているが、何とも言いにくい返事をするくらいしかケイにはできなかった。
「キュウも久しぶり!」
“コクッ!”
ケイの肩に乗っているキュウとも久しぶりだ。
そのため、ラファエルはキュウにも挨拶をする。
キュウの方もラファエルのことを覚えていたのか、頷くことで返事をした。
「ケイ殿。そちらお方は?」
「あぁ! 紹介が遅れたな。俺の孫のラウルだ」
懐かしい顔ぶれに、ケイはバレリオに尋ねられるまでラウルのことを忘れていた。
そのことに気付き、ようやくケイはラウルを2人に紹介することにした。
ラウルもケイが自分を言われるまで忘れられていたことに気付き、非難染みた眼を送っていた。
「孫!? さすがはエルフのケイ殿。隨分大きなお孫さんがいるのですな……」
「お孫さん!?」
「どうも! 祖父がお世話になっております」
ラウルを紹介された2人は、あまりのことに驚きの聲をあげた。
ケイの見た目が若いから、孫と言われてもいまいち納得できないのかもしれない。
むしろ、兄弟と言ってもらった方がしっくりくるようなじだ。
「ラファエルの実力を確認しようと思ったんだが、ちょっと俺は戦闘で魔力を使いまくったあとでな。代わりにこいつが相手するから、全力でぶつかっていいぞ」
「そうですか……」
昔のようにケイに指導してもらえるのかと思ったが、相手がラウルになると聞いて、ラファエルはなんとなく殘念そうに呟く。
完全に獣人の姿のラウルに、魔力作ができないと思っているかもしれない。
昔ケイが指導した通り、ずっと訓練を重ねていたとしたら大抵の相手はたいしたことがないと思っているかもしれない。
ラファエルはそれで人を見下すことはないだろうが、自分より上の人間に會えないことでやや天狗になりかけているかもしれない。
「見た目は獣人だからって甘く見るなよ。ちゃんと俺のもけ継いでいるんだ。実力は相當なものだぞ」
「わ、分かりました!」
獣人は魔力を使わなくても強いのだが、ラウルはケイのを引き継いでいる。
能力に加えて、更に魔力を使えるということが予想されると、ラファエルは自分でも気付かないうちに勝てると思い込んでいたことを恥じた。
ケイの言葉で気を引き締めたラファエルは、まっすぐにラウルへとを向けた。
「ラウルさん。よろしくお願いします!」
「あぁ! じいちゃんが認める才能がどんなもんか楽しみにしているよ」
油斷しているうちにさっさと倒してしまおうという思いがラウルにはあったのだが、ケイの一言でラファエルの意識が変わってしまった。
余計なことをして迷な祖父だと思いつつ、ラウルは頭を下げてきたラファエルに言葉を返した。
ケイが褒めるほどの才能の持ち主だ。
きっとこの若さでかなりの実力があるのだろう。
ラウルとしても、なんとなく楽しみな気分になってきた。
「念のため、ここが壊れないように強化しておこう」
このまま全力で戦うとなると、バレリオの道場に被害が出てしまうかもしれない。
場所を借りるのだから、ケイはせめて道場を強化しておくことにした。
「ハッ!!」
魔力を一気に放出して、ケイは道場の強化を図る。
ケイの魔力に包まれた部は、決著が付くまではもつはずだ。
「あぁ……、魔力切れ寸前できつい」
せっかくし回復したのと殘っていた魔力を使ってしまったため、ケイは魔力切れ寸前になってしまい一気に疲労度が増した。
そのまま座り込み、ここからは大人しく観戦することにした。
「ケイ殿、大丈夫ですか?」
「すまん。バレリオが審判役をやってくれ!」
「……分かりました」
辛そうなケイに心配になり、バレリオが問いかける。
しすれば落ちくと思うが、この狀態で審判をやるのはかなり辛い。
そのため、ケイはバレリオに審判役を任せることにした。
「それでは!」
「「………………」」
ラウルとラファエルは、お互いし離れた所に立ち開始の合図を待つ。
両者が持つのは訓練用の木剣で、ルールとしては負けを認めさせれば勝ちで、相手を死に至らしめなければ何でもありといったところだ。
開始の合図を前にして、戦う2人はお互い無言で木剣を構えたのだった。
「始め!!」
「ハァッ!!」
開始の合図と同時に、お互い魔闘を発する。
そして、先にいたのはラファエルの方で、床を蹴り、ラウルとの距離を一気につめた。
魔闘を発する速度も、それによって一気に距離を詰める速度もかなりのものだ。
『この年でこれはたしかに天才かもな……』
その速度に、ラウルは心驚きを覚えつつも心していた。
これほどスムーズに魔力を使えるようになるには、きっと地道な訓練をおこなってきたのだろう。
天才という言葉で片付けるのは良くないが、ケイの言いたいことも分からないでもなかった。
「速い!?」
ラウルのを狙った橫薙ぎが當たると思っていたのに、何のもじないことに驚く。
それもそのはず、ラウルが一瞬のうちに後退して橫薙ぎを躱していたのだ。
『まぁ、魔人にしてはだが……』
ラファエルに実力と才能はあるのは分かった。
しかし、魔力の作に長けた人種それがエルフだ。
地の濃さは4分の1とはいえ、魔力をる才はラウルも祖父のケイからけ継いでいる。
しかも練度という意味では、年齢的なこともあってこちらの方が上だ。
これが全力なのかも分からないので、ラウルはもうしラファエルのきを見ることにした。
【書籍化】雑草聖女の逃亡~出自を馬鹿にされ殺されかけたので隣國に亡命します~【コミカライズ】
★2022.7.19 書籍化・コミカライズが決まりました★ 【短めのあらすじ】平民の孤児出身という事で能力は高いが馬鹿にされてきた聖女が、討伐遠征の最中により強い能力を持つ貴族出身の聖女に疎まれて殺されかけ、討伐に參加していた傭兵の青年(実は隣國の魔術師)に助けられて夫婦を偽裝して亡命するお話。 【長めのあらすじ】高い治癒能力から第二王子の有力な妃候補と目されているマイアは平民の孤児という出自から陰口を叩かれてきた。また、貴族のマナーや言葉遣いがなかなか身につかないマイアに対する第二王子の視線は冷たい。そんな彼女の狀況は、毎年恒例の魔蟲の遠征討伐に參加中に、より強い治癒能力を持つ大貴族出身の聖女ティアラが現れたことで一変する。第二王子に戀するティアラに疎まれ、彼女の信奉者によって殺されかけたマイアは討伐に參加していた傭兵の青年(実は隣國出身の魔術師で諜報員)に助けられ、彼の祖國である隣國への亡命を決意する。平民出身雑草聖女と身體強化魔術の使い手で物理で戦う魔術師の青年が夫婦と偽り旅をする中でゆっくりと距離を詰めていくお話。舞臺は魔力の源たる月から放たれる魔素により、巨大な蟲が跋扈する中世的な異世界です。
8 195【書籍化】捨てられた妃 めでたく離縁が成立したので出ていったら、竜國の王太子からの溺愛が待っていました
★ベリーズファンタジーから発売中です!★ 伯爵令嬢ロザリア・スレイドは天才魔道具開発者として、王太子であるウィルバートの婚約者に抜擢された。 しかし初対面から「地味で華がない」と冷たくあしらわれ、男爵令嬢のボニータを戀人として扱うようになってしまう。 それでも婚約は解消されることはなく結婚したが、式の當日にボニータを愛妾として召し上げて初夜なのに放置された名ばかりの王太子妃となった。 結婚して六年目の嬉しくもない記念日。 愛妾が懐妊したから離縁だと言われ、王城からも追い出されてしまう。 ショックは受けたが新天地で一人生きていくことにしたロザリア。 そんなロザリアについてきたのは、ずっとそばで支え続けてくれた専屬執事のアレスだ。 アレスから熱烈な愛の告白を受けるもついていけないロザリアは、結婚してもいいと思ったらキスで返事すると約束させられてしまう。しかも、このアレスが実は竜人國の王子だった。 そこから始まるアレスの溺愛に、ロザリアは翻弄されまくるのだった。 一方、ロザリアを手放したウィルバートたちは魔道具研究所の運営がうまくいかなくなる。また政務が追いつかないのに邪魔をするボニータから気持ちが離れつつあった。 深く深く愛される事を知って、艶やかに咲き誇る——誠実で真面目すぎる女性の物語。 ※離縁されるのは5話、溺愛甘々は9話あたりから始まります。 ※妊娠を扱ったり、たまにピンクな空気が漂うのでR15にしています。 ※カクヨム、アルファポリスにも投稿しています。 ※書籍化に伴いタイトル変更しました 【舊タイトル】愛されない妃〜愛妾が懐妊したと離縁されましたが、ずっと寄り添ってくれた専屬執事に熱烈に求婚されて気がついたら幸せでした〜 ★皆さまの応援のおかげで↓のような結果が殘せました。本當にありがとうございます(*´ー`*人) 5/5 日間ジャンル別ランキング9位 5/5 日間総合ランキング13位
8 96僕の妹は〇〇ですが何か問題ありますか?
人と妖怪が共存するようになっても思春期特有の悩みは存在する。 僕の妹もその一人だが、僕はなんとか妹の力になってあげたい。 これは半人半鬼かつ無自覚のシスコンである少年が高校生活や家庭のゴタゴタ、戀愛、時折起きる事件などを通して成長していく物語である。
8 196【書籍化決定】前世で両親に愛されなかった俺、転生先で溺愛されましたが実家は沒落貴族でした! ~ハズレと評されたスキル『超器用貧乏』で全てを覆し大賢者と呼ばれるまで~
両親に愛されなかった男、『三門 英雄』 事故により死亡した彼は転生先で『ラース=アーヴィング』として生を受けることになる。 すると今度はなんの運命のいたずらか、両親と兄に溺愛されることに。 ライルの家は貧乏だったが、優しい両親と兄は求めていた家庭の図式そのものであり一家四人は幸せに暮らしていた。 また、授かったスキル『超器用貧乏』は『ハズレ』であると陰口を叩かれていることを知っていたが、両親が気にしなかったのでまあいいかと気楽な毎日を過ごすラース。 ……しかしある時、元々父が領主だったことを知ることになる。 ――調査を重ね、現領主の罠で沒落したのではないかと疑いをもったラースは、両親を領主へ戻すための行動を開始する。 実はとんでもないチートスキルの『超器用貧乏』を使い、様々な難問を解決していくライルがいつしか大賢者と呼ばれるようになるのはもう少し先の話――
8 65俺の転生體は異世界の最兇魔剣だった!?
ある日、落雷により真っ黒焦げに焼けた自稱平凡主人公の織堺圭人はなんやかんやあって異世界の最兇と言われている魔剣に転生してしまった⁉︎ 魔剣になった主人公は、魔剣姿から人姿となり封印の祠での魔物狩りをして暇潰しをする日々であった。 そしてある日、貪欲な貴族によって封印の祠の封印が解かれた。そこからまたなんやかんやあって祠を出て學校に通うことが決まり、旅をする事に‼︎ 第一章 祠 閑話休題的な何か 第二章 神を映す石像 ←いまここ ※超不定期更新です。
8 115出雲の阿國は銀盤に舞う
氷上の舞踏會とも形容されるアイスダンス。その選手である高校生、名越朋時は重度のあがり癥に苦しんでおり、その克服の願をかけに出雲大社を訪れる。願をかけたその瞬間 雷のような青白い光が近くにいた貓に直撃!動揺する朋時に、體を伸ばしてアクビをすると貓は言った。『ああ、驚いた』。自らを「出雲の阿國」だと言う貓の指導の下、朋時はパートナーの愛花とともに全日本ジュニア選手権の頂點を目指す。 參考文獻 『表情の舞 煌めくアイスダンサーたち』【著】田村明子 新書館 『氷上の光と影 ―知られざるフィギュアスケート』【著】田村明子 新潮文庫 『氷上の美しき戦士たち』【著】田村明子 新書館 『DVDでもっと華麗に! 魅せるフィギュアスケート 上達のコツ50 改訂版』【監】西田美和 メイツ出版株式會社 『フィギュアスケートはじめました。 大人でもはじめていいんだ! 教室・衣裝選びから技のコツまで 別世界に飛び込んだ體験記』【著】佐倉美穂 誠文堂新光社 『フィギュアスケート 美のテクニック』【著】野口美恵 新書館 『表現スポーツのコンディショニング 新體操・フィギュアスケート・バレエ編』【著】有吉與志恵 ベースボール・マガジン社 『バレエ・テクニックのすべて』【著】赤尾雄人 新書館 『トップスケーターのすごさがわかるフィギュアスケート』【著】中野友加里 ポプラ社 『絵でみる江戸の女子図鑑』【著】善養寺ススム 廣済堂出版 『真説 出雲の阿國』【著】早乙女貢 読売新聞 また阿川佐和子氏『出雲の阿國』(中公文庫)に大きな影響を受けておりますことを申し述べておきます。
8 156