《エルティモエルフォ ―最後のエルフ―》第324話

「あれがドワーフ王國か……」

ドワーフ王國へ向けて1人の人間が近付いていた。

ペガサスに乗っており、上空から見下ろしながら島の大きさなどの確認などをしている。

その値踏みするような視線から、とてもではないが友好的な雰囲気はじられない。

「下りろ!」

「ブルㇽ……」

背に乗る者の指示に、ペガサスは了承したと言うかのように鳴き聲を上げる。

そして、指示通りドワーフ王國へと下降を開始する。

そのことにドワーフ王國の人間は気付かない。

「おいっ!! 何だあれ!?」

「んっ? ……何だ?」

最初に気付いたのは、市民の1人。

鍛冶仲間と共に休日の飲み歩きをしている時、上空に翼の生えた馬が折りてきているのが見えた。

軽く酔っていたといっても、その魔がペガサスだということはすぐに分かった。

しかし、問題はペガサスなどではなく、その背に乗っている人の方だ。

ペガサスに乗っている所を見るとその人の従魔なのだろうが、ドワーフ王國にるには北と南にある港のどちらかで國の審査をけなければならない。

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空からってはならないとはなっていないが、完全に不法國というしかない。

「兵に知らせるか?」

「いや、気付いてるみたいだ……」

「じゃあ……、また飲むか?」

「そうだな!」

不法國に気付いた2人が兵を呼ぶかを話し合っていると、8人程の兵たちが近くの森に降りていくペガサスを追って走って行くのが見えた。

何も知らずにり込んだようだが、これでペガサスに乗った人間は兵たちに捕まるだけだ。

一応警戒していた2人は安心したのか、また酒を飲みに次の店へと向かっていった。

「よし! ここでいいぞ!」

「ブルㇽ!!」

ドワーフ城の付近の森に著陸したペガサス。

その背から降り立った男は、すぐに地面へと魔力を流し始めた。

「これで良し! お前はここで待機だ!」

「ブㇽ……」

魔力でいくつかの魔法陣を描き出した男は、そのままペガサスに指示を出す。

手段としてでなく、他にも役に立ちたいというのに待機の指示を出され、ペガサスは渋々といたじで頷きを返した。

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「おっ? 來たな……」

遠くからドワーフ兵たちが駆け寄ってくる。

それを見て、男は慌てる様子もなく笑みを浮かべる。

「おい! ここはドワーフ王國だぞ!」

「港からの國以外は不法國として國外退去をするとなっている!!」

駆け寄りつつ話しかけてくるドワーフ王國兵たち。

一応何も知らずにった可能があるため、今の所そこまできつい言い方ではないが、友好的ともいえないような口調で男のことを注意してきた。

「あっそ……」

「っ!! お前!!」

「分かっててってきたのか?」

ドワーフ兵たちの忠告に対し、男は興味がないと言うかのように返答する。

明らかにバカにした態度に思えた兵たちは、怒りと共に持っている武を構えた。

「部下たちを各地へ送ってみたが、俺はここが一番気にいってな……」

「……何を言っている?」

フードを深く被っているため表は見えないが、口元を見る限り笑みを浮かべながら話しているのが分かる。

急に脈絡のない話を始める男に、ドワーフ兵は訝し気に問いかける。

「俺の島へとさせてもらおうと思ってここへきた」

「何をバカなことを……」

男の言っていることがおかしい。

獣人大陸と魔人大陸に挾まれた場所にあるドワーフ島。

その中に作られたドワーフ王國は多くの魔道を作り上げ、世界において大きな地位を得てきた。

魔道の中には、兵の面でも発達を遂げてきた。

下手にドワーフ王國を敵に回せば、その兵による攻撃が自國へと向く。

それによって敵からの侵略に対する抑止力としてきたのだが、この男はそのことを分かっていないのだろうか。

まるでこのドワーフ島をもらいに來たというような口ぶりに、ドワーフ兵たちは鼻で笑おうとした。

「ヌンッ!!」

「なっ!!」「っ!!」「くっ!!」

軽く腰を落とし、戦闘態勢にった男。

その次の瞬間溢れるような魔力を纏い、ドワーフ兵たちを睥睨した。

あまりの魔力に、ドワーフ兵たちは圧し潰されるような錯覚に陥る。

今にも腰を抜かしそうな覚に陥りながら、ドワーフ兵たちは懸命に男に武を向ける。

「お前らは私の遊び相手になってもらおう。謝するがいい!」

兇悪な魔力を纏い、男は余裕の態度でドワーフ兵たちに歩み寄った。

ドワーフ兵たちも魔闘を発しているが、それでも男の強が桁違いだということが分かる。

「こ、この數では勝てない!!」

「だ、誰か! 援軍を呼んで來い!」

「りょ、了解した!!」

とてもではないが、ここにいる程度の人間では勝ち目がない。

8人の中で最後尾にいた者に対し、他の兵たちが仲間を呼びに行くように話しかける。

それを言われた最後尾の兵は、すぐに踵を返して町へと戻っていった。

その背を、侵者の男は平然と見逃す。

「構わんぞ。最近も鈍っていたところだ。數が多い方が運になる」

「……舐めているのか!?」

「その通りだ」

仲間を呼びに行ったのを見逃し、仲間の兵が來るのも気にする様子もない。

いくら魔力量が多いからと言っても、その態度は気にらない。

先頭にいたドワーフ兵は、こめかみに青筋を立てる。

どうやら短気な人間のようだ。

そんなことなど気にならないのか、侵者の男はしれっと不愉快にさせるような返答をした。

「この……」

「待て! 仲間が來るまでしでも時間を稼ぐんだ!」

「くっ!」

あまりにも馬鹿にされているため、先頭のドワーフ兵は持っている槍に力を籠める。

今にも襲い掛かりそうな仲間に対し、他のドワーフ兵が止めにる。

1人でかかって行っても、返り討ちに遭うのが目に見えている。

仲間が來るまでは何もしないで、この男をこの場に引き留めておくのが一番無難な手だ。

止められた者もそれが分かっているので、渋々襲い掛かるのをやめる。

「どうした? かかって來ないのか?」

「……黙れ!!」

腕を組んだまま立ち盡くす侵者の男。

腹を立てて襲い掛かってこようとしていたドワーフ兵が面白く思い、挑発することに決めたようで、ワザと煽るように話しかけてくる。

そのん名挑発には乗らないように、ドワーフ兵も何とか我慢をしようと男を黙らせようとした。

「遊び前の準備運をしたいところなのだが?」

「てめえ!!」

「ま、待て!!」

も構えず挑発ばかりしてくる。

今ならいくら纏う魔力が多くても一撃食らわせることくらいはできるだろうと、仲間に止められるのも聞かずに、ドワーフ兵は一気に侵者の男に襲い掛かっていった。

「死ね!!」

「フッ!」

挑発に乗ったドワーフの男が、勢いよく槍による突きを放つ。

全くく気配のない侵者へと向かって突き出された槍が、そのまま心臓を貫くと思われた。

しかし、そう思った瞬間にその場から消えたように橫へとずれていた。

「ホイッ!」

「がっ……」

躱されたことに気付いた時には、目の前に男の左拳が迫っていた。

當然その攻撃を躱せるわけもなく、ドワーフ兵はその拳が直撃して、膝から崩れるようにしてかなくなった。

「ハハッ! 軽く叩いただけで気を失うとか脆いな……」

「……き、貴様は何者なんだ!?」

あまりの速さに目で追えなかった。

気を失った仲間を、男の前から引きずるようにして安全な場所へと運ぶ。

それを侵者の男は何もすることなく見ていた。

攻めかかって來ない限り、興味がないといっているかのようだ。

そんな男が何者なのかを、ドワーフ兵は思わず問いかけた。

「そう言えば名乗っていなかったな……」

今更になって名乗るのを忘れていたことを思いだす。

「俺はアマドル。四魔王の一人だ!」

そう言って、侵者の男こと魔王アマドルは、被っていたフードを取って顔を曬したのだった。

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