《エルティモエルフォ ―最後のエルフ―》第328話

「我に両手を使わせるなんてたいしたものだ。褒めてやろう」

「……そりゃどうも」

腹を立たせたと思っていたが、ただ驚いた反応だったらしく、アマドルは尊大な態度でラファエルのことを褒めてきた。

敵である魔族とはいえ、自分よりも強い人間に褒められるのは悪くない。

そのため、ラファエルは律儀に返答した。

「魔人の中では天才と言っていいだろうが、殘念だ……」

「……殘念?」

褒めてくれるのは嬉しいが、言っている意味が分からずラファエルは首を傾げた。

何が殘念だか分からない。

「両手をつかった我と戦うことになってしまったのだからな」

「何を……っっっ!!」

たしかに両手を使わせることを目標にして戦っていたが、両手が使えるようになったからといって、そこまで大幅に勝っ割るように思えない。

そのため、ラファエルはその真意を確かめようと問いかけようとしたが、全てを口にする前にアマドルに異変が起きる。

アマドルがかした手によって、魔力の球が高速で撃ちだされたのだ。

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ギリギリのところでその攻撃を回避することができたが、あまりの速度にラファエルは目を見開いた。

「いいぞ! ギリギリ躱せるように攻撃してやったんだからな」

ラファエルに躱されたというのに、何故かアマドルは楽しそうに話す。

これまでのきを見て、躱せるように調節したというような言い方だ。

まるでラファエルを相手に遊んでいるかのようだ。

『何て速さだ!!』

相手にしているラファエルの方はそれどころではない。

當たれば1発で大ダメージをけるような攻撃を、たいした時間を要する事無く発してきたのだから驚くしかない。

「ほらっ!」

「っ!!」

アマドルは軽い口調でまたも同じように高速の魔力球を放ってくる。

それが、首をひねって躱したラファエルの顔の橫を高速で通り抜けていく。

通り過ぎる時の音が耳に殘りさらに恐怖を増してくる。

『威力もとんでもない。全力で回避に徹しないと……』

危険な攻撃に恐怖をけながらも、ラファエルは何とか冷靜に判斷する。

この攻撃を相手に反撃をしている暇はない。

今は避けることに集中しないと、あっという間にあの世行きだ。

そのため、ラファエルは反撃は後回しにして、この攻撃に慣れるように集中することにした。

「フッ!」

「ぐっ!!」

ラファエルの考えていることが分かっているのか、アマドルは気にせず攻撃を続ける。

その攻撃を、ラファエルが必死に躱すという構図がしばらく続くことになった。

『エルフ王國には數時間はかかる。援軍を期待するなら獣人族か?』

わざと狙ってのことなのか、アマドルの攻撃は何とか躱せる。

しかし、この力の差は覆せるものではないとラファエルは悟った。

自分ができることは、しでもアマドルに魔力を使わせて疲れさせること。

後はドワーフの要請によってくる援軍に期待するしかない。

通信方法は速鳥と呼ばれる鳥。

その鳥はドワーフ王國からの距離によって伝わる時間が違う。

ドワーフにとっても、ラファエルにとっても一番期待しているであろうエルフ王國へは數時間はかかるだろう。

援軍を期待するなら、エナグア王國と距離の差のない獣人たちに期待するしかなさそうだ。

『それまで遊んでいてくれればいいんだが……』

アマドルは自分を相手に完全に遊んでいる。

天才と呼ばれた自分がこんな扱いをけて気にらないが、力の差があるのだから仕方がない。

それでもこの狀態は意味がないわけではない。

いくら魔族の王といっても、魔力には限界があるはずだ。

自分がどれほど消費させているかは分からないが、無駄ではないと思いたい。

「……援軍を期待しているのか?」

「っ!!」

逃げ回るラファエルの考えを見かすように、アマドルは問いかけてくる。

分かっているのにこの攻防を続けているかのような態度だ。

それを不気味に思いながらも、ラファエルは仁王不立ち狀態で魔力球を放ってくるアマドルの攻撃を避け続けた。

「ハァ、ハァ……」

「どうした? 鈍くなってきたぞ」

「くっ!」

しばらく攻撃を躱すべくき回っていたが、アマドルの魔力よりもラファエルのスタミナの方が先に盡きてきた。

ラファエルが攻撃に慣れるのに合わせるかのように、アマドルもいやらしくジワジワと攻撃も強めていく。

常時全力を出すことを余儀なくされては、このようになってしまうのも仕方がないことだろう。

足が震えるのを我慢して、ラファエルは攻撃を避け続けるが、アマドルの言うように攻撃を躱す反応が遅れだしていた。

「っ!! ヤバッ!!」

諦めずに攻撃を避けるが、とうとうラファエルは疲労で足がもつれる。

そのせいで、攻撃の1つを躱すことができなくなった。

もう避けることは間に合わないと判斷したラファエルは、襲ってくるであろう痛みに歯を食いしばった。

「ハッ!!」

「っ!?」

攻撃による痛みが來るのを待っていたラファエルだったが、それがいつまで経っても襲ってこない。

というのも、どこからか現れた何者かによって防がれたからだ。

「獣人!?」

「魔人族の者か? 私はヴァーリャ王國の國王であるハイメという。ドワーフ王のセベリノ殿の要請をけて援軍に參った!」

「魔人王國のラファエルと申します。助けていただき謝いたします」

助けにってくれたのは、獣人大陸でドワーフ王國に一番近いヴァーリャ王國の國王であるハイメだった。

昔ティラーという相撲と道を合わせたような格闘技で、ケイと勝負したことのある國王だ。

獣人の國と魔人の國は特に関わりを持つようなことがないため別に仲が良いわけではないが、危険な所を助けたもらったため、ラファエルは完結に自己紹介したハイメに対して謝の言葉をかけた。

「奴はかなりの強敵です。他の方々が來るまで持ちこたえましょう!」

援軍が來てくれたのはありがたい。

しかし、ハイメには悪いがはっきり言って2人では勝ち目が薄い。

そのため、ラファエルは他の援軍が來るまで我慢することを提案する。

「……殘念だが、それは難しいかもしれない」

「えっ!? どうしてですか……?」

自分の提案をあっさり否定され、ラファエルは驚きの聲をあげる。

どうして援軍に期待できないというのだろうか。

「こいつだけでなく、魔王を名乗る者が世界各地に出現しているそうだ」

「何ですって!?」

アマドルが言っていたことはこれが理由だ。

4魔王と呼ばれる者たちが、世界各地に同時に姿を現したのだ。

あまりのことに、ラファエルは目を見開いたのだった。

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