《エルティモエルフォ ―最後のエルフ―》第329話

魔王の出現。

それはハイメの言ったように世界各地に起きていた。

その中には、ケイの子供や孫たちが住むエルフ王國にも及んでいた。

「……何だろ?」

「本當だ……」

その異変を見つけたのは、島に2つしかない海岸のうち、住宅街となっている東の海岸で遊んでいた子供たちだった。

東の方角から翼をはためかせ、一の生がこの島へゆっくりと向かって來ている。

飛んでいる姿は鳥には見えないため、子供たちは首を傾げた。

「僕、見てみる」

「エルミニオ?」

海岸で遊ぶ子供たちのなかには、ケイの曾孫であるエルミニオがいた。

エルフの特徴となる長い耳はほぼなくなり、見た目は獣人でしかないが、魔力を扱うことが得意な子だ。

近付いてくる生のことを見るため、エルミニオは目に魔力を集めて遠の魔法を使用した。

「っっっ!?」

「大丈夫? エルミニオ……」

向かって來る生を見たエルミニオは、腰を抜かしたようにその場にへたり込む。

そして、小刻みに震えているのを見て、他の子供たちは何が起きたのかと心配そうに聲をかけた。

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しかし、その聲が聞こえていないのか、エルミニオは目を見開いたまま震えるだけだった。

「……に、逃げ…ないと……」

「えっ?」

みんなが心配していると、エルミニオはようやく何かを呟く。

ただ、その容は途切れ途切れのため、みんな何が言いたいのか分からない。

「みんな逃げて! おじいちゃんに知らせないと!」

「えっ?」「う、うん……」

エルミニオの尋常じゃない様子に、戸う子供たちは勢いに圧されるようにその指示に従う。

そして、海岸にいた子供たちは住宅街の方へと向かい、エルミニオの祖父であるレイナルドの所へと向かっていった。

「おじいちゃん!」

「エルミニオ!! みんな戻ってきたか!?」

エルミニオたちが住宅街の方へと向かっていくと、大人たちが武や防を裝備している様子が目にった。

そのなかには、目的の祖父も混じっている。

海岸へ遊びに行っていた子供たちが自分たちの意思で帰ってきたことに、レイナルドを始めとする大人たちは安堵したように笑みを浮かべた。

「東から変なのが……」

「あぁ、分かっている! とんでもない魔力をじ取った」

エルミニオが近付く生のことを伝えようとしたのを、レイナルドは途中で何が言いたいのか察しているように返事をした。

大人たちが集まっているのもそれが原因だ。

突然とんでもない魔力を持った生が探知ってきたため、レイナルドは慌てて呼び集めたのだ。

「セレナ! みんなと西海岸まで避難してくれ」

「なっ!! そんな相手なの!?」

「あぁ……」

人族の來襲があってから、ケイは島の改造を始めた。

西と東の海岸には、島民の避難施設を作っておいた。

ケイの息子であるレイナルドやカルロスも協力して作り上げた施設で、大量の魔石を使ったりして強固な結界を発する地下シェルターとなっている。

以前のように火山噴火の落石やマグマですらものともしない結界のため、急時にはそこへ逃げるよう村のみんなには指導されている。

今では人も増えて戦力も高まったため、その施設に逃げ込むのは超急事態くらいのものでしかない。

その施設に逃げろということは、その超急事態ともいえる相手が來たということを意味する。

そのため、レイナルドのその指示に、妻のセレナは驚きの聲をあげた。

「恐らく父さんが言っていた魔王とか言う奴だ」

「っ!! ケイ様が言っていた……」

ハーフエルフの自分は、純のケイ程ではないとは言っても、他の誰にも負けない魔力量をしているという自信があった。

その自信はレイナルドのうぬぼれなどではない。

弟のカルロス以外で、レイナルドに脅威を與えるような魔力量を持っている人間は存在しない。

人間どころか魔族ですら及ばないかもしれない。

それが、まだ遠くにいるというのにビリビリと伝わってくる魔力に、冷や汗が止まらないでいた。

そんな生と考えると、レイナルドにはすぐに思い至った。

ケイが言っていた魔王とか言う存在だ。

その言葉を聞いてセレナは息を飲んだ。

「分かったわ。みんな避難するわよ!」

義父のケイが、島のダンジョンを強化して島の男たちを鍛えていた。

それは魔王という存在がそのうち現れた時のためのものだと、みんなに話されていた。

たちも戦闘力に自信のある獣人たちだが、その訓練に參加するのは躊躇われるような厳しさだった。

あれほどの訓練をしなければならないような相手がとうとう來たのだと、気を引き締めたセレナはすぐさまみんなと共に西へ避難を開始することにした。

◆◆◆◆◆

「獣人とエルフか?」

そのうち畑を作ろうと、東の海岸沿いに土魔法で作った人工島。

レイナルドと村の獣人たちは、近付く危険生を迎え撃とうとその場所へと集まった。

飛んできた生もそれを発見したのか、レイナルドたちの集まる地へと降り立った。

レイナルドたちを見たその生は、面白そうに呟く。

そして、レイナルドを見て首を傾げる。

真っ白なに真っ黒な服と翼。

人の形をしているが、とても人間には見えない。

「耳が短いな。もしかして雑種か? 純のエルフが見たかったのだが、殘念だ」

「っ!? 不愉快な奴だな」

耳の長さを見て、この生はレイナルドがハーフだということを見抜いたようだ。

母である花が亡くなった時の落ち込みようから、父は心底母に惚れていたのが分かる。

その父と母がし合って自分が生まれたのだと、レイナルドは自負している。

それを雑種呼ばわりされ、いつもは冷靜なレイナルドはカチンときて睨みつけた。

「何にしても、この地が気にいった。俺はここを本拠地にするとしよう」

「何っ?」

その生はレイナルドたちがいる背後に目をやり、楽しそうに呟く。

まるで、寢床を見つけたかのような呟きだ。

「俺はソフロニオ、魔王ソフロニオだ」

「……やっぱりか。よりにもよって、父さんやカルロスがいないときに……」

來る前から分かっていたが、やはりこの生は魔王のようだ。

分かってはいたが、改めて目の前にすると更に魔力量に脅威をじる。

まさかの魔王の來訪に、レイナルドは後悔していた。

先日、新しい刀がしいカルロスを連れて、ケイが日向に向かってしまった。

こんな事なら、止めるべきだった。

「みんな落ち著け! 父さんがいなくても、俺たちが力を合わせれば何とかなる」

「「「「「おう!!」」」」」

「アンヘル王國の力を見せてやる!」

魔王と名乗るソフロニオ。

たしかに魔力量はとんでもないが、まだ負けると決まったわけではない。

ケイとカルロスがいないが、ここにいるのは魔王討伐のために訓練を重ねてきた者たちばかりだ。

彼らと共にならきっと何とかなる。

そう考え、レイナルドは仲間を鼓舞したのだった。

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