《エルティモエルフォ ―最後のエルフ―》第330話
「最悪だ……」
日向へと向かう船の上にいるケイとカルロス。
景を眺めて船上を楽しんでいたカルロスだが、この狀況に思わず愚癡をこぼした。
そいうのも、とんでもない魔力を持った生が、いきなりこの船へ目掛けて飛んできたからだ。
背中には蝙蝠のような翼を付け、それを羽ばたかせながら飛んできたその生は、カルロスたちの船の上空で停止してカルロスを見下ろしてきた。
「東の地を目指していたが、おかしな者たちがいるな……」
カルロスのことを見つめながら、上空に浮かんでいる者が呟く。
そのため、カルロスは明らかに自分のことを言っていることが分かる。
しかも、船の中にいるケイのことにも気づいているような言いだ。
「お前ともう1人いるだろ?」
「俺のことか?」
おかしな生の出現に、船員たちや他の乗客たちは慌てたように聲をあげている。
半分パニック狀態と言って良いかもしれない。
そんななか冷靜に警戒しているカルロスに向かって、その生は話しかけてくる。
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船の中に居るケイのことを問いかけてきている。
その問いにカルロスが返答する前に、ケイが甲板に出て來て返答をした。
かなりの年月過ごしているが、期の記憶が抜けないためケイはいまだに船が苦手だ。
そのため、その顔はなんとなく青い気がする。
「お前ら2人は人間にしては大量の魔力をしているな……」
「だったら何だってんだ?」
ケイのことを確認すると、その生はこれまでの無表から笑みを浮かべた表へと変わった。
その表に、ケイとカルロスはなんとなく寒気がする。
気味悪い思いをしつつ、ケイはその生に笑みを浮かべた理由を問いかけた。
「味そうだ」
「何…だと……」
この言葉で、ケイとカルロスは先程の嫌な覚になった理由をなんとなく理解した。
この生の視線が、まるで食材を見ているようなものだったからだ。
「……お前何者だ?」
そのに包する魔力を探知しただけでなんとなくこの者のことは分かっているが、ケイは確認の意味も込めて上空に浮かぶ生に問いかけた。
「俺は4魔王が1人、魔王サンティアゴだ」
「……やっぱりか」
予想通りの返答に、ケイは眉間に眉を寄せる。
魔王の存在は知っていたし、もしもの時のために訓練を重ねてきたが、よりにもよって自分が一番弱っていると言ってもいい戦場で遭遇するなんて思いもしていなかった。
こんなことなら、のんびり景を見ながらの旅行なんて言っていないで、転移魔法でさっさと用件を済ませるべきだった。
今も転移で逃げてしまうという手もあるが、そうなると日向に被害が及んでしまうかもしれない。
日向はなくなった妻のルーツとなる國。
滅ぼされるのを、みすみす放置するわけにはいかないため、どうやら戦うしかないようだ。
「お前らのような魔力富な者は、我々魔族にとっては味なる馳走だ。おとなしく俺に喰われるなら、他の者は見逃してやろう」
「……冗談言うな!」
「何もせずおとなしく喰われるなんて免だね!」
魔族が人間を襲う理由は、食事の意味もある。
出來るならば、不味いものよりも味いものを食いたいというのは魔族でも一緒。
しかも魔族の王という存在ともなれば、人間と同様に食にこだわっても不思議ではない。
だからといって、素直に喰われるバカはいない。
ケイとカルロスは、魔王サンティアゴの言葉を拒否した。
「そうか……」
ケイたちの拒否をけ、サンティアゴは軽くため息を吐く。
そして、ゆっくりと右手を船へと向け、その手に魔力を集め始めた。
「ヤバッ! あんなの撃たれちゃこの船が潰される! どっかに……」
包する魔力が多いせいか、サンティアゴはあっという間に船を破壊できるだけの魔力を右手に集める。
そんなのを撃たれては迷なため、ケイは慌ててどうするべきかを考え始める。
しかし、やはりこんな狀況でも船の上というのが足を引っ張っているのか、どうするべきか頭が回らない。
「父さん! あそこだ!」
生まれて初めてといっていいくらい珍しく狼狽えている父を見る。
両親が期に海難事故によってトラウマを抱えているというのは分かっていたが、こんな時はさすがに困ったものだ。
父では解決策が出ないようなので自分でどうするべきか考えたカルロスは、離れたところ見える小島を指差した。
「し、しかし……」
サンティアゴの狙いは自分たち。
ならば船から離れれば追いかけてくるはずだ。
そうするためにはあの小島で戦うのが一番手っ取り早い。
それは分かっているが、ケイは船が苦手というより海が苦手だ。
こんな狀況でも足がまともにきそうもないため、カルロスの提案に躊躇う。
「しの間目を瞑っていてくれ!」
「あ、あぁ……」
「ハッ!!」
けないケイの代わりに自分がくしかない。
そう考えたカルロスは、ケイの手首を摑んで魔闘をを発させる。
そして、そのまま船から飛び降り、海に落ちる前に風魔法を発させる。
風を使った推進力を利用し、カルロスはケイと共に弾丸のような速さで小島へ向けて飛んで行った。
「……おいおい、逃がすわけないだろ?」
「逃げたんじゃねえよ! 地面のあるここにおびき寄せただけだ!」
「フッ! 人間風が俺とやる気か?」
案の定、小島に著地したケイとカルロスを追いかけて、サンティアゴが小島へと飛んできて地面へと降り立った。
制できるギリギリの速度で飛んだというのに、たいした時間差もなく飛んできたサンティアゴ。
それだけ飛空速度が速いということだろう。
何にしても、無事に船から離すことができた。
サンティアゴには逃げたように見えたようだが、狙いはこの場所を戦いの場にするということだ。
そのことをカルロスが告げると、サンティアゴは歯向かって來ることを選んだ2人を若干呆れたように笑みを浮かべた。
「ここなら大丈夫だろ?」
「あぁ、悪かったな」
サンティアゴは魔王という立場から余裕のようだが、こっちも問題が解決した。
船の上では何もできないほどのトラウマを持っているが、地上なら何の制約もけない。
さっきまでは顔が悪かったが、地に足を付けたことでいつもの父へと元に戻った。
軽くほぐすようにをかし、ケイはカルロスの問いに返答する。
探知した限りでは、どうやらここは無人島のようだ
息子の咄嗟の判斷に助けられ、ケイはいつものように2丁拳銃を取り出してサンティアゴへと銃口を向けたのだった。
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