《最弱能力者の英雄譚 ~二丁拳銃使いのFランカー~》6話

8月4日午前0時過ぎ、一人小柄なが自宅にひきこもっていた。

「あ、刀拳舞の新作グッズキタッー。あ、ポチりポチりポチり」

パソコンの前でひとり呟きながらマウスをカチカチ鳴らす。

そのさばき方はエサを捕る獣のようだ。

一段落終えたのか、椅子に背中からもたれかかった。

「はあ」

は、喜舞〈きぼうまい〉。

はひきこもり生活を送っている。しかし最近になって、この部屋にいることがどんどんと苦痛になった。

が引きこもった理由。それはクラスでのめ、親しかったなじみの子からの裏切り。

そのせいで彼は人間不信に陥り、今に至る。

の中で過去の悲しみが走馬燈のように思い出す。彼はこの數年間ずっと苦しんでいた。

腕にはリスカ後が無數にある。最近になって神剤が増えた。

今はこれ無しでは過ごせないだ。

はそんな自分がけないと思いながら、自墮落な生活を送っている。

こんな自分が許せない。こんな生活から変わってみたいとそう思っていた。

その時だった。

凄まじい勢いで、舞の前にあった家の壁、機共々パソコンまでもが、木っ端微塵に消し飛んだ。

一瞬の出來事と凄まじい音のせいか、彼は現狀を飲み込めない。

ふと彼の前に全スーツの青年がいた。

「ミッションのを確認。捕獲後、帰投します」

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青年は耳に著いた通信機のようなものでどこかに連絡を取った。

は青年の機械的な行に恐怖を覚えた。

この人には関わってはいけないと彼は直観で気づく。

後方を確認し、引けた腰をすすりながら、後ろを確認するように攜帯端末を探す。

見つけた。すぐさま警察に電話をかける。

「無駄だ。一緒に來い」

スーツ姿の男は舞から攜帯を奪い。畫面共々真っ二つにした。

そして彼の後頭部に近い首筋を叩いて気絶させた。

スーツ姿の男は舞を擔ぎ、妖怪のような腳力でその場から姿を消した。

はが貨室で起きた。

辺りは暗く、周りの狀況がわからない。

顔に目隠しのローブが巻かれていることが分かった。

手は後ろで縛られていて解くことはできない。

は後方から微かに聞こえる聲に耳を澄ました。

「……様から次のスケジュールが送られてきた」

まるで機械のような口調で一人の男が話す。

「わかった」

二人いるのだろうかと彼は勝手な憶測を立てた。

「0122、お前の能力殘時間はどのくらいだ?」

「今日は、後1分半だ」

能力殘時間? 舞は、この間のネットで見た記事のことを思い出した。

當時(7年前)のネットではデマと事態は終息したはずだが、後の超能力者の犯罪、ネットに上がった超能力者同士の戦闘映像などで完全に認知されるようになる。

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最近では、反社會テロ組織が能力者を使い、悪事を働いているという噂まで聞いたことがある。

もし能力者から拉致されて、ここが知らないところならば、早く逃げなければと舞は思った。

こんな所では彼は死ねない。それは彼の大好きなアニメの最終話をまだ確認していないからだ。

ここに出るため彼は思考を張り巡らした。まずは顔のローブと手を解かなければ何も始められないと考えた。

は周りのを確かめるためかす。

顔の橫あたりにフックのようなものが、ほっぺたのでわかった。

顔のローブを引っかき、上手くずれるようにかす。弱く締めていたのか簡単に取れた。

周りを確認した。段ボールが彼の周りに頻りにあった。今の狀態ではここからはけない。

せめて手だけでもと、後背にある手を必死にかし、先ほどのフックに引っかけて引っ張る。

しずつだが、ビリビリと音を立てている。時間をかければ取れそうだ。

は自分の行力にしていた。

人間このような極限狀態ではけないと思うが、ここまでできる自分を見直していたのだ。

「ん? 何か音がしたぞ。しアレを確認してくる」

前方のドアから先ほどの男の聲が聞こえた。

ダメだこの狀況じゃ何をされるか分からない。

そう考えついた彼は、ローブを戻すかと考えた。いやこれじゃ間に合わない。

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はこの狀況に絶した。

その時だった。

勢いよくドアの反対側が蝦蟇口財布のように大きく開いた。

床が後ろに傾き、凄い風と共に、段ボールの群れが白い空間にどんどん吸い込まれていく。

開いたと同時に、舞の重心も白い空間に傾く、先ほどの手のヒモが破れた。

舞は段ボールの群れと一緒に青い海へと落ちていった。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

醫療用のカプセルの中で俺は起きた。

両方の手から激痛が走る。左手は戻っていたが右手は完全に無くなっていた。

何十もの包帯に、凄い點滴の數。

ランク戦がそれほど凄まじいものだったと、今になって分かった。

「佑兄さあーーーーーん」

左の方に夕が見えた。勢いよくカプセルを叩く、あまりの力の強さでが全て揺れている。

カプセルの中は完全封狀態で、音がかなりうるさいものになっていた、

「ちょっ うるせえんじゃボケ!」

「よがっだああああ生ぎでだああああああああああああ」

うわあ、ぶっさwコミュ抜けるわw 夕の泣き顔が最高にブサイクだった。

「佑! 生きていたか、そのまま死んでもいいんだぞ」

剣先生はそう言いながら、カプセルを勢いよく開け、力任せに俺を思いっきり抱きしめた。

クッ、苦しい。む、が!! 彼が俺の口と鼻のを塞き止めるようにボヨンボヨンと押し付けられ、俺の息ができなくなっていた。

が、ガチで俺死んじゃう。

「先生、佑兄さんだけに特別扱いだなんて、教師としてそれはダメでしょ!」

夕が負けじと俺の足を引っ張る。これ何の拷問。

ちぎれる! 俺氏、ちぎれちゃう! いだ傷口が更に酷くなっっちゃうよ。

「うるせえ!!!!!しばき倒すぞクソガキ共!!!!!!!」

保健室の先生が阿修羅のような顔で俺たちを脅したてた。俺は何一つ悪くないです!

他にも負傷者はいるので、おふざけモードはこれにて終わった。

咳ばらいをしながら剣先生は暖かな目で俺を見る。

「う、おっほん! とにかくだ。初勝利おめでとう佑。晴れて君はDランクだ」

「佑兄さんおめでとう」

「え、お、俺がDランク!!! どういうことなんですか! 飛び級じゃないですか!!」

驚きすぎて、負傷した腕が痛い。普通は一つずつ上がるものだろう。どういうことなんだ。

「Aランク相手にあの健闘だ。妥當な判斷だと私は思うが?」

確かに、この學園で最強ほどではなくても、あの卍城王也に勝ったんだ。

3か月前からすると、夢のようで夢じゃないということがし笑ってしまった。

「そ、そういえば次の試合は!?」

こんなことをしている場合じゃない。次の試合の準備をしなければ……

「何言ってるんですか佑兄さん!? 次の試合は1週間後ですよ」

「だがそのじゃ何もできはしないぞ」

そうだ、左手は辛うじてくが、右手は肘から下が完全に無くなっている。

こんなのじゃまともに戦うこともできない。

こんな俺を見られたくはなかったから、顔を手で覆うように下を向いた。

「まあ、まずは私の話を聞け。君は能力者の証拠である、”能力印”が無い。これはつまり”普通の人間”として生きていくことができるってことなんだ。能力者にとって、”右手が無い”ってことは即ち、”引退”を意味する。君は能力者という肩書を続けるか? それともこのまま能力者という肩書を背負いながら、無能力者として生きていくか?」

はこちらを心配するかのような口調で聞いてきた。

「何を言ってるんですか? せっかく剣先生に修行までついてもらって、ここまで強くなることができたのに、ここで終わるわけには」

にそう告げる。

「実は、今の能力者ではないお前に、日本國の自衛隊から推薦が來ている。どうだ、もう”能力者”として固執する必要もない。新たな新天地で頑張ってみたらどうだ?」

はトントンとタバコを手のひらで叩き、俺に推し進めるように言う。

今の自衛隊は、完全な日本國の軍隊となっている。

能力者が戦場を跋扈するような時代に、対能力者用の最新鋭の武と、剣先生のような対能力者のスペシャリストが沢山いるそうだ。

「私も同じ考えです。能力も使う必要の無い、自衛隊に行った方がいいと思いますよ。そうなるともう私と會えなくなりますけど……」

雙方とも元気のないような顔だった。二人とも俺のことをよく知っていて、俺のことを思っての事なのだろう…… 確かに能力に固執する必要は無い。

し…… 一人で考える時間をくれませんか?」

選択を急ぐ必要はない。し考えることにした。

「確かに、あのランク戦の後だというのに、すぐに聞いてしまってすまない。結論は焦らなくてもいい。ゆっくりな」

剣先生がそっと言い聞かせるように言った。

「よしっ、私はそろそろ審判の用意があるから行くよ。また後でな佑」

そう言い、剣先生はベットの橫にある椅子から、かけていたジャケットを著た。

「私も彼氏が出るから。んじゃまた後でね。佑兄さん!」

剣先生と夕がそれぞれのところへ行った。

このキズはどのくらい掛かるんだろうか。今は寢そべりながらそのことだけを考える。

天井を見た。そして今日の戦闘について思い出してみる。

必殺技というデタラメな剣撃、そして俺自信である無能力者者の限界、勝利と引き換えの右手。

今はよそう。次の試合はどうするべきなんだろうか。義手を買うにもお金が足りない。

気づけば俺は、何故かこの機関に來る前までの記憶を思い出そうとした。

しかし俺にはそんな記憶はない。

多分ここの機関にいる全ての子供達も、多分俺と同じなんだろう。

はじめの頃は忘れてしまったことが悲しいことなんだと子供ながらに思っていた。

どんな親でどんな生活をして、どんな毎日があったかなんて、もう全くと言っていいほど覚えていない。

能力者として生まれた俺達に課せられたのは、兵士として日本國を守ること、そして侵略者達を倒すことだ。

能力者として生まれたからには戦う人生だけが俺たちを待っている。

考えているうちに寢ていた。

6時間ほど寢て俺は起きた。

機関最高峰の醫療カプセルの技で、中にある軽い切り傷などは完全に回復していた。

しかし右手はいまだに包帯が巻かれている。

初めて手がなくなるという覚を味わった。

もし俺がこのまま無能力者として、能力者を相手に戦うとなるとどうなるんだろうか。

あの時みたいには上手くいかないだろう。

ならここは能力を使わない自衛隊にったらいいんじゃないだろうか。

確かに能力を使わないあちらの方が俺のにあっている。

悩んでいるこういう時は、散歩をした方がいいと本で読んだことがある。

「先生、散歩してもいいでしょうか?」

橫の生徒の世話をしていた保健室の先生に、散歩をしてもいいかと訪ねてみた。

「今は安靜にしてほしいんだけどね。まあ顔は大丈夫そうだし、ダメだったら早く帰ってくるんだよ」

先ほどの怒鳴り聲とは全くと違い、優しい聲音でそう言った。隨分と歳を食っている先生だが、顔からして昔はかなりの人だったと分かるほどの人だ。

「はいありがとうございます」

立とうとするとしくらっとしてしまったが、歩く分には全く問題は無かった。

海を見に浜辺に著いた頃には、夕日は沈みかけていた。

淡いオレンジをした雲たちは、これからくる漆黒の世界を運んでくる。

夕日を見て、綺麗だと思った。

ふと剣先生の言葉を思い出した。

「結論は焦らなくてもいい」たしかに、ここを卒業までは後7か月もあり、1週間後には2回戦目。何も急がなくてもいい。

ゆっくり悩めばいい。

無理に答えを出さなくてもいいんだ。俺は何を急いでいたんだろうか。

目の前の霧が晴れたようで、しだけ楽になった。

しばらくこの夕日を眺めていた。

いつもはこんなにもしっかりと夕日を見てはいなかった為、いつもあるこの綺麗さが逆に斬新でしばかりしている。

すると沖の方から、何やら黒いが近づいてくるのが見えた。

あれは人か? しばらく様子を見る。

人が、背中を突き出しながら浮かんでいるように見える。

目を凝らした。人だ! 今すぐにでも助けに行かなければ。

素早く立ち、左手にある點滴を引き抜き、浮かんでいる沖の方へと急いで泳いで行った。

ダメだ戦闘でがかなりダメージをけている。

疲れのような、鈍っているような覚が中を襲う。

なんとか溺れている人を、岸まで連れていくことができた。し小柄のである。

意識が無いのか、顔が青白い。顔は凜とした目が特徴的なであった。

に耳を當てて振の鼓を確かめる。鼓は無い。

の気が引いていても、綺麗な顔立ちでずっと眺められるほど、とても整っている。

顔を見たい気持ちを抑え、生きているかもしれないためすぐに人工呼吸を始めた。

なんでこういう時に右手が無いんだ…… 右手が無くなっているのを恨む。

10分くらいひたすらやり続けた。も限界で気合だけで人工呼吸をしている。

中が悲鳴を上げていた。

もうダメかと諦めていたその瞬間、彼は口から嗚咽をするように海水を吐き出した。

よかった生きていた。安堵で中の力が抜ける。そのまま彼に倒れこんだ。

「げっほげほ、刀拳舞の(上手く聞き取れなかった)を見るまでは…… 私は死ねんのだ……」

の口からなにやら何かが聞こえる。

刀拳舞ってたしか、そういうPCゲームがあったような……

の顔もかなり良くなり、しばかり安心する。

の発せられた言葉と、先ほどの必死な俺の行のギャップが笑えてきた。

まあ助かってよかった。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

「今さきほど、アダムとイブが出會った。例の計畫は、順調といったところだろう」

一つの何かが他の何かに現場を伝えている。

言い終わるやいなや、言い終わった一つの何かを囲むように、次々と、ホログラムの巖板が出現し始めた。

「黃金の果実への導きの準備は完了した。計畫通りにいつでもいい」

03と書かれた老婆の聲が何かに告げた。

「こちらは先月の計畫変更により、大蛇の召喚儀式にあと一ヶ月の時間が掛かる」

02が後を追うように告げる。

「まあ慌てるものでもない。審判の日からは時間はまだある」

04はなだめるように言う。

「我々の計畫まであとし。アダム、イブよ、あなた達はどんな語を私たちに見せてくれるのか……」

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