《最弱能力者の英雄譚 ~二丁拳銃使いのFランカー~》15話
左の窓から月が、俺の休んでいるベットに差し込む。
俺の住んでいるコンテナハウスにはない靜けさ。
いつもはうるさいと思っていたが、今となっては逆にしくなっていた。
部屋の沈黙に浸っていた俺は、見慣れていない天井を見つめる。
そして今日の出來事を完全ではないが、鮮明な記憶のうちに思い出そうとしていた。
盾田剣士。
それが今日戦った能力者の名前だ。
『拒絶の王』の二つ名≪セカンドネーム≫を持つ存在。
王の名に恥じぬ限りなく、S級に近い強さであり、この學園最強の能力者である。
戦場では無敗の伝説を誇る男。
學園にいるA級能力者の、リーダー的な存在でもある。
俺はそいつと戦った。自の目標と己のプライドを賭けた熾烈なバトルだった。
勝敗は、剣先生による判定で俺の負けということになったらしい。
俺の転倒と奴の起き上がりが、同時だったと聞かされた。
そして俺の出多量による戦闘継続不可と判斷だと言っていた。
だけど俺には、一つの壁を壊したことによる満足でいっぱいだった。
とにかく、疲れた。
この勝負を終えた俺は、一生分の生気を使い果たしたかというくらいに、ほんとうに疲労でいっぱいだったのだ。
「起きたか……」
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何かがむずかゆく布団をめくり返そうと起き上がった、すると一人のの聲が聞こえた。
その聲からは、安堵がじられ、その真っすぐとした瞳からは、俺の存在を確認しているようにも見える。
左の椅子に座っていたのは、剣先生であった。
彼らが帰った後にまで剣先生は、俺の様子を見ていたらしい。
「あれ、二人は?」
起床したてのぼやけた視界で彼を見る。
白く濁った視界を無くそうと、目をこすりながら二人のことを聞いた。
「先ほど仲良く一緒に帰ったぞ。二人ともお腹が空いていたらしくてな」
その言葉を聞くと、俺は正面の壁にかけてあった時計を確認する。
時計の針は午前3時を示していた。
「こんな時間にまで…… 俺って」
瞬間、自のに『異変』が起こっていることに気づいた。
寢起きの覚では気づかなかった変化に、驚きが倍増する。
その驚きに、八文目まで起きていた頭が、綺麗と言えるほど全開にいた。
”無くなって”しまったのだろうと、思っていた”右腕”。
盾田剣士との勝負により、”切り捨てられた”であろう”左肩をかけて左側の”。
それがすべて、元通りになっていたのだ。
全てが”綺麗”にだ。
ただ一つの”繋ぎ目”も無く、切斷されたような痕跡もなく、の先が無くなったという覚さえ無い。
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まるでの時間だけが、意識だけを置いて遡ったような覚に陥る。
やばい待てよ…… 理解が追い付かない。
思考が、考えが、が、神が、神経が、覚が、全てが混していた。
「な、なんで…… 何がどうなって」
右手の能力印を見る。
それも、昔と変わらずにその印はあった。
「驚いたか? まあ無理もない……」
中を隈なくっていた俺に、剣先生は語り掛ける。
そして、ポケットから煙草を取り出す仕草をする。
「これは一…… ど、どういうことなんですか!?」
「そう騒ぐな、時間を考えろ」
そう彼は何かを知っているかのように、俺を見た。
そして、ジッポを取り出し、慣れた手つきでタバコの先端に火を付ける。
カチっと音を鳴らし、靜まり返った病棟。
剣先生は、タバコを大きく吸う。
ジリジリと、タバコの勢いよく焼けた音が、こちらまで聞こえてくる。
そして、ため息を吐くように肺の煙を出した。
「そのは、お前の能力を現している」
能力? この人は何を言っているんだろうか……?
彼の言葉に疑問を抱きつつ、混している思考を鎮める。
「つまりはお前の中では超治癒力、不死力。この二つの能力が混合してるということだ。その能力のおかげであの戦闘を生き延び、両腕が切り離されようとも、その両腕は十分足らずでお前の腕は治った」
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彼の言葉を理解半分で聞きれ、俺は今まで失っていた右手を眺める。
その能力印≪ESP・tattoo≫は、昔と相変わらずに力の象徴を放っている。
俺の象徴、他の能力者にはない、俺オリジナルの形を有して。
しかし、見慣れていたはずの能力印は、妙なを放っていた。
まてよ。このようにってはいなかったはずだ。
今の俺は疲れていて、そんなふうに見えているだけなのか……?
そうかもしれないな。俺はそう思うことにした。
彼の話が耳にはっていない。
「俺の右手…… とうに消えたものだと思っていたのに、あったんですね」
卍城との戦いの後で、無くなっていたものだと思っていた。
義手の強力なパワーもいいが、こうしてみると生の腕もいいと思った。
そんな呑気なことを考えるくらいには、今の俺は疲れていた。
「不死の能力、ヴァンパァル・F・ロード……」
一言発すると、彼は沈黙にった。
病棟は人の気配がじれないほどに、靜まり返っていた。
「…… 私が現役の頃に、一度遭遇したことのある不死の能力者だ」
突然と剣の口から吐き出された一言。
重くのしかかったような言葉、どれほどまでにそこ過去を背負ってきたのか。
その重圧が分かった一言であった。
彼の手にあるタバコの灰が下に傾いてきた。
そして俺は、その能力者の報を、とある雑誌か何かで見たことを思い出した。
ヴァンパァル・F・ロード、漆黒のプロレス仮面をにまとい、自らを”仮面の囮≪ヒイロー≫”と名乗っていると書いてあった。
ちなみに、囮という文字の中には、ヒーローがあるという文字遊びをしていることに妙にしたことを覚えている。
報によれば、長は170センチという小柄の能力者である。
しかし、は屈強の戦士のような剛腕、豪腳、鉄板のような板、現代に生きる鉄人といえるような人だ。
二つ名は、囮の吸仮面となっている。
目つき、格から、日本人ではないかという噂が飛びっている。
「死を超越した者と言った方が早いだろう……。 あの能力者はどの能力者よりもぶっ飛んでいた。話をしづらすが、戦場では勝者が生き殘る。これはわかるな」
「はい、勝ったものが生き殘るのは當たり前ですね」
「しかし、死なない人間がいるとすると…… 戦場はどうなると思う?」
いくら死なないからと言っても、くことができないような負傷を負わせれば、無力化することができると思うが……
しかし、不死は厄介だろうな。
「狀況にもよりますが、不死者がいる陣営の方が有利かと思います」
「まあ正解と言ったところだ」
そう言い彼はまた、煙草を銜え肺いっぱいに煙を溜め込む。
「戦場で私と戦い、この私に死線を見せたたった一人の男だったよ。奴は、どのの部位を破壊しても死なない化けだった。後に分かったことだが、S’ESP能力者SSS級のランク所持者だった」
S’ESPの能力は超能力というよりは、異能という表現を使った方が端的で早い。
あるものは火を使い、あるものは無から水を創造し、あるものは土をり、あるものは…… とその數は膨大でありながらも、能力と能力が枝分かれしているようでもある。
ESPとS’ESPの決定的な違いがある。それは”代償”というものだ。
ESPは代償を支払わずとも能力を行使することができる、しかしS’ESPは”代償”という対価を支払い能力を発することができるのだ。
「本題に戻すか……。 その男の能力がお前の中にもあるのではないかと、私の元に見知らぬ者から一通の手紙が屆いた。それが、お前と修行を開始した1週間前の話だ」
俺を見ていた彼は、視線をしずらす。
「なるほど……」
能力が無い能力者…… そんなアイデンティティーに、しばかり酔っていた自分がいた。
そんな自分に――能力があったなんて。
昔では考えれなかった。
「最初はお前にそんな能力が宿っているなんて思わなくてな…… しかし盾田剣士との戦闘ではっきりとわかった。お前は大量出で倒れる事があっても、死ぬことはない。そして、その両腕の治癒力。お前にはとんでもない能力がある」
俺は自の戦闘について思い出していた。
まずは、卍城王也戦。
彼の必殺技をけながらも俺は死んではいなかった。
気力によるものかと自己分析をしていたが、確かにあのから腹にかけた攻撃は並み大抵のものなら死んでいる。
そして、盾田剣士戦。
終盤にあたる、大量出、そして肩から、肺、心臓、が切り離された覚……
そして驚いたのがこの両腕が治っていたこと。
「フッ、俺は化けだわ……」
右手で覆い隠すように、下を向いた顔につける。
思い返すだけで乾いた笑いが湧き出てきた。
なんだよこれ…… ただの化けじゃねえか俺は……
「待ってくださいよ、じゃあなんで僕はヤングサンクションズではなく、この日本國の機関にいるんですか?」
S’ESPとして生まれた者は、國連直屬の『Young Sanctions』(ヤングサンクションズ、通稱Y.S)にられる。そして、世界の均衡、平和、民族間紛爭による武力介、能力者の犯罪防止をすべく、膨大な訓練をけ、大抵はスペシャルソルジャーとしての人生を送る。
ここでESPの説明をしていただく。
超能力のたぐいを自由自在にれる者を能力者(ESP)と呼んでいる。
ESPは3つの能力からなっており、その3つを三大能力としている。
一つ目は、人知では理解できない強力な力〈超筋力〉、卍城が所持している能力である。
二つ目は、目の前などに強力なフィールドを展開する力、ちなみにこの壁は萬の力を全て無に返すほどの強度を誇っている〈超拒絶力〉、盾田剣士が所持している能力だ。
三つ目は、をある程度の強度まで強化する力〈超念強化力〉の3大能力からなっている。
ここESP學園は、機関獨自の判斷によりS’ESPではなく、ESPだけによる兵隊養施設を作った。
なぜESPだけを集めたのかは、機関の人間である、梅階級の者にしかわからない。
機関の階級は上から梅、竹、松、となっていて、竹の割合が比較的多い。
「それは、私にもわからなくてな……」
言い終わると彼は吸い終わった煙草を、靴の裏で消す。
そして自のポケットへとれる。
「そうですか。ではなぜ今になってこの右腕が?」
俺は周りの人間よりも”劣っている”、と思っていた。
だけど違う。俺は周りとは”違って”いる。
ショック? いや俺はゾクゾクしているんだ。
この高揚、わかる。バケモノゆえに、この現実に俺の心は踴っている。
自分がバケモノという”真実”に――
「すまない。今の私には、わからないことが多い。だが、タスクお前に何か壯大なバックボーンがあると睨んでいる。とんでもない計畫があるとな」
そして彼は、袋を上へと押し上げるように、腕をまくる。
確信があるとその聲からわかる。
頼りになるような言いぐさに、かっこいいとさえ思ってしまった。
「そうですか…… 先生、深りはあまりしないでくださいね]
ゆっくりと彼に告げる。
多分勇敢な彼はどんなに危ない橋でも突っ切って行くのだろうと思ったからだ。
そんな彼は好きだ。だけどこれは俺だけの問題なのだと直でわかった。
だから彼には俺を見守ってほしいと思った。
俺が俺であるために、やらなきゃいけない。
ただそう思った。
俺は、最年長でここESP學園に來て、能力が使えない無能力者と言われてきた。
そんな俺に、いまさら裏が無いなんてことはないと今になってわかる。
もしかして、今年になってランクに出られたのも仕組まれたことなんだろうか。
そんなことはどうでもいい。
「ああぁ…… わかっている。わかっているさ」
「……。 僕はこれでもここにいることが幸せだなって思ってるんです」
周りに貶され、見下され、蔑まれても、『強くあること』を剣先生に教えられた。
そして、自が摑みたいと願ったことを摑む姿勢を、マイに教えてもらった。
他人といる幸せをユウに教えてもらった。
俺は幸せ者だ。それが仕組まれたものだったとしても、裏に何があろうとしても。
こんな日常が大好きだ。
「ランク祭に勝って俺はやり遂げますよ」
決め顔とも言わないが、彼に笑顔と立てた親指を向ける。
「そうかお前は本當に頼もしくなったな。しかし殘念…… お前はランク祭には敗退ということになっている」
そんな俺を見て、にやりと口元を上げると、しまったと何か失態をしている顔に変わった。
「え!? ど、どういうことですか!?」
過剰な反応と言えるほど、水面から跳ねるトビウオのようにベットから飛び上がった。
確かに俺は、奴の脳天に弾を打つのを見屆けたはずだ……
「お前の転倒と盾田の起き上がりが同時でな。そして俺の出多量による戦闘継続不可と判斷だと言っていた。だが……」
「ええええええええええええええええええええええ」
彼の発した言葉の端を切るように、絶する。
深夜だったとしても、俺はその真実にばずにはいられなかった。
俺のなし! もっと戦えたはずだぞ!!
「敗者復活戦が…… あるっ!!」
そのとき、ピラリと俺の中で衝撃が起こった。
それはニュータイプが何かを知したようなSEでもあった。
「な、なんだってえええええええええええええええええええええええ」
発狂に発狂。上げて落とすという彼のコミュ力に踴らされる俺。
病棟にいるピエロ。それが俺だ。
「2週間後に敗者による別トーナメントが始まる! それまでにを休ませておけッ!!」
そう彼は、椅子に腰かけてあったジャケットを背負うように肩にかけると、病棟のドアを開け帰っていった。
というわけで、俺のり上がりはまだ終わらない。
最後まで勝ち上がって、俺は栄をつかみ取る!!
打ち切り漫畫のラストようだが、彼の激戦は今に始まったばかりだ。
じょっぱれアオモリの星 ~「何喋ってらんだがわがんねぇんだよ!」どギルドをぼんだされだ青森出身の魔導士、通訳兼相棒の新米回復術士と一緒ずてツートな無詠唱魔術で最強ば目指す~【角川S文庫より書籍化】
【2022年6月1日 本作が角川スニーカー文庫様より冬頃発売決定です!!】 「オーリン・ジョナゴールド君。悪いんだけど、今日づけでギルドを辭めてほしいの」 「わ――わのどごばまねんだすか!?」 巨大冒険者ギルド『イーストウィンド』の新米お茶汲み冒険者レジーナ・マイルズは、先輩であった中堅魔導士オーリン・ジョナゴールドがクビを言い渡される現場に遭遇する。 原因はオーリンの酷い訛り――何年経っても取れない訛り言葉では他の冒険者と意思疎通が取れず、パーティを危険に曬しかねないとのギルドマスター判斷だった。追放されることとなったオーリンは絶望し、意気消沈してイーストウィンドを出ていく。だがこの突然の追放劇の裏には、美貌のギルドマスター・マティルダの、なにか深い目論見があるようだった。 その後、ギルマス直々にオーリンへの隨行を命じられたレジーナは、クズスキルと言われていた【通訳】のスキルで、王都で唯一オーリンと意思疎通のできる人間となる。追放されたことを恨みに思い、腐って捨て鉢になるオーリンを必死になだめて勵ましているうちに、レジーナたちは同じイーストウィンドに所屬する評判の悪いS級冒険者・ヴァロンに絡まれてしまう。 小競り合いから激昂したヴァロンがレジーナを毆りつけようとした、その瞬間。 「【拒絶(マネ)】――」 オーリンの魔法が発動し、S級冒険者であるヴァロンを圧倒し始める。それは凄まじい研鑽を積んだ大魔導士でなければ扱うことの出來ない絶技・無詠唱魔法だった。何が起こっているの? この人は一體――!? 驚いているレジーナの前で、オーリンの非常識的かつ超人的な魔法が次々と炸裂し始めて――。 「アオモリの星コさなる」と心に決めて仮想世界アオモリから都會に出てきた、ズーズー弁丸出しで何言ってるかわからない田舎者青年魔導士と、クズスキル【通訳】で彼のパートナー兼通訳を務める都會系新米回復術士の、ギルドを追い出されてから始まるノレソレ痛快なみちのく冒険ファンタジー。
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