《不用なし方》第7話
「……え?」
が勢いよく車道へと押し出される。
亜は自分のになにが起こったのか分からなかった。……けれど、なんとなく振り返った瞬間にの手が見えて……押されたのだと遅れて理解する。
その手を辿れば、ラウンジでぶつかってきたの顔があった。憎悪に満ちた眼が亜だけに向けられている。
「噓吐き」
彼の聲が……その聲だけが何故か鮮明に聞こえた。
その直後、大きなクラクションの音が響き渡り、亜のが橫斷歩道から引き離されていく。
たくさんの悲鳴が聞こえ、周囲が騒然となる。
アスファルトに叩き付けられ、今までに聞いたことのない鈍い音が聞こえて、全に激しい痛みが襲ってきた。
「亜っ!」
懐かしい聲が亜を呼ぶ。
「ゆ……き」
私は死ぬのだろうか? 私が死ねば、優希くんはあの事故のことを過去のものにできる? それだったら……後悔はない。
はピクリともかず、亜は視線だけを彷徨わせて優希の姿を探した。
人を押し退けながら駆け寄ってきた優希が亜の傍に膝を突いて手をばしてくる。明らかに転していて、呟くような聲も頬にれた手も震えていた。
「ゆ……きく……」
  の奧になにかが詰まっているように聲が出にくい。
「亜……っ!」
最期に名前を呼んでもらえて嬉しかったよ。……憎くてしかたがない私は消えるだろうから、どうか……幸せに……。
「ごめ……」
必死な顔で亜の名を繰り返す優希の姿を瞼に焼き付けるようにして、亜の意識は闇の中へと呑み込まれていった。
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