《不用なし方》第9話
二人の家は近所で同じ學區のため、當然のように同じ中學校に進學。小學校と違い、クラスも倍になって、三年間同じクラスになることはなかったけれど、忘れの多い優希はよく亜に教科書を借りにきていたし、亜も陸上部に部した優希の出場する大會の応援には必ず出掛けていた。
さすがに別れてしまうと思っていた高校も、優希は陸上の強い高校への進學を希し、偶然にも亜と同じ高校に進學していたのである。
その頃になると、亜もどうにか同級生の子と話を合わせることができるようになり、それなりに友達もできた。優希は既に陸上部で五本の指にる有優秀選手となっている。
亜は學式で仲良くなった花にわれてクッキング部に部し、そこで作ったものを優希に差しれするようになった。
高校生になっても優希の忘れの多さは相変わらずで、當然のように亜の教室に借りにくる。頻繁に見掛ける景に、周囲は二人が付き合っていると疑わなかった。
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優希の走る姿をビデオで撮影するのはずっと亜の役目だった。ビデオ映像を見ながら腕の上がり合や足の運び方など、改善點を話し合うのも特別なことではない。
しかし……その穏やかで楽しい時間はある日突然終わりを告げる。
それは、優希が陸上部の友人たちと一緒に帰っているときに起こった。
公園で小さな子どもと數人の母親と思われるたちが木を見上げているところに出くわしたのだ。困っている人を放っておけない分の優希に素通りすることなどできるはずもなく、彼はその子どもたちの許へと向かった。
訊けば、蹴ったボールが木に引っ掛かってしまったのだという。
  い頃木登りが得意だった優希は自ら木に登り、枝に引っ掛かっているボールを落としてやった。下からいくつものお禮の言葉が聞こえてくる。
下にいる子どもたちに手を振って応え、なんとなく顔を上げたとき、公園の近くを歩く部活帰りの亜と花の姿を見つけた。
「おーい」
木の上から亜たちに手を振った。気付いた二人が優希の許へと歩き出したとき……彼の姿が一瞬にして消えた。足をらしたのだ。バランスを崩し、そのまま地面に叩き付けられる。
「優希くんっ!」
「優希!」
傍にいる人たちが彼に駆け寄る。亜は目を見開いたまま、その場に立ち盡くしていた。
すぐに救急車が呼ばれて病院へと搬送されたけれど……狀態は周囲が思っていた以上に深刻だった。
怪我が治り、走ることができるようになっても、今までのようなタイムが出せなくなっていたのだ。
 レギュラーを外された優希は、徐々に部活に參加しなくなり、問題を起こすようになっていく。
怪我が原因であることは明らかだった。陸上選手としてオリンピックに出たいという夢が十七歳で潰えてしまったのだから仕方がない、と周囲も彼に同的だった。
陸上を辭め、自分を避けるようになった優希に、亜は近付くことさえできなかった。次第に悪い噂ばかりが耳にってくるようになって、一層近付き難い空気を纏うようになった優希は、問題行の多い所謂問題児たちと行を共にするようになっていく。
あれは事故だった……けれど、彼は怪我をする直前に亜を見つけ―ー呼んだ。
自分が通らなければ、優希は足をらせることもなかったのではないか……亜はそう思わずにいられなかった。
そこから彼の苦悩は始まったのである。  
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